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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
夏休み 遊び編
162/223

 家の前に立てば、手紙らしきものが戸に貼られていた。

 そこには見覚えのある汚い字で、「下僕end外人さんへ」と書かれている。どうしよう。


 ①読む ②剥がす ③放置


 -一応はが①が必要ですー


 俺は下僕ではないし、神様はハーフではあっても外国人ではない。

 このendというのは、どうせandと書きたかったとかだろう。

「忍者時代の経験を活かして、静かに入っていてちょうだい。だそうな」

 普通に解読出来たことが、自分でも驚きであった。

 汚さは相変わらずだけれど、意味もわからない上に、誤字まであるのだから。

 ツッコミを入れたらいけないレベルの次元の問題であった。

「だれがニンジャ時代の経験を持ってるの~?」

「さあ。雪乃さんの中でどういう認識になっているのか、謎が深いよね。とにかく、伝えたいのは、静かに入って来てくれってことだと思って良いのかな」

「だね~。何があるんだろうね~」

 普通に考えたら、葉月くんが寝ているとかだろう。

「驚かせてくるつもりとかだったら、逆にこっちからいっちゃおうかな~。わざわざ家の外にそんなの貼っとくなんて、面白すぎ、まさかふりかな~?」

 ワクワクした様子の神様には悪いけれど、とても雪乃さんがそんなことをするとは思えない。

 静かに入って来てほしいから、彼女はそう言っているだけなのだ。

「ね~え、また無視なの?」

 出来るだけ静かに戸を開いているのに、小声ながらも神様はそんなことを言ってくる。

 求められているのがどれほどの静かかはわからないが、言っても良いとしても、そんな言葉は「お邪魔します」くらいのものだ。

 俺の解釈を押し付けるではないが、どうかと思うところがあった。どうしよう。


 ①外に連れ出す ②注意する ③答える


 -ここは②を選べるようですねー


 今、雪乃さんがどういう状況にあるかわからない。

 そして、静かさが求められているのだ。

「静かに入っていてちょうだい、だそうな。会話はせめて雪乃さんのところに行ってからにしましょう」

 不満そうな顔であったが、神様はわかってくれたようだった。

 口を閉じてくれるだけで良かったのだが、わざとらしく彼女は唇を尖らせていた。

 不機嫌になられたって困る。

「あぁ、いらっしゃい。葉月が泣くから、あんまり五月蝿いのは止してね。せっかく一緒に遊ぼうって話なのに、ごめんなさいね」

 どうか雪乃さんがいるよう願って部屋に入れば、きちんと彼女はそこにいてくれた。

 だれもいなければ、別の部屋へ雪乃さんを探しに行くからまだ良い。これで海夏さんがいたらば、完全に俺は不法侵入者になってしまうことだったろう。

 会ったことのない男がこっそり家に入って来ていて、ばったり出くわしてしまったって、本気で怖いもんな。

 心から雪乃さんであってくれて良かった。

「私でも気付かないほど静かに入って来るんだもの、突然部屋に入って驚いたわ。さすが忍者だっただけあるわね」

 謎の認識がここでもまた発動された。どうしよう。


 ①質問する ②ツッコミを入れる ③無視する


 -普通にここは①でしょうかー


 静かに入ってというだけで良いのだが、それじゃ寂しいから何かを付けたかったのだろうかと、無理矢理に強引に考えようとした。

 そんなわけがあるか、という話だった。

 雪乃さんだもの、ありえないことも本気で言っているよね。

「あの、忍者だったって、だれからその話を聞いたんです?」

 言ってから良くなかったと気付く。

 なぜバレたのかって、そう思っているみたいな言い方になってしまっているじゃないか。今から訂正は効かないな。

 いくら否定したって、隠そうとしているだけになる。

「実はね、春香が私に情報を漏らしちゃったのよ。残念だったわね」

 慣れた手つきで葉月くんを抱っこして、背中を優しく叩きながらの、彼女らしい表情と言葉はかなり不一致だった。

 母親のようで、年下のようでもある。

 最初に彼女を見たときのような、衝撃的なまでの魅力がそこにはあった。

「やっと葉月が寝てくれたみたい。だけど、抱っこしててあげないと起きちゃうから、甘えん坊で困ったものよ。ご機嫌のときだったら、一緒に遊ぶのだって出来るんだけど、まだお眠でね」

 それは朝を指定したからでは……、とか思ってはいけないのだろう。

 困ったものとは言っているけれど、全く困っているような様子はなく、よっぽど葉月くんが可愛くて仕方がないと見える。

 一歳くらいに見える。

 これだけ小さな子でも、鬼山家の血を継いでいるのか気になるが、雪乃さんが抱きかかえているものだから顔は全く見えない。

 手足のサイズ感だけで、可愛いのは伝わってくるが、それは赤ちゃんは大体そうだ。

 そういえば、全く喋らない神様は大丈夫だろうか。どうしよう。


 ①雪乃さん ②葉月くん ③神様


 -ここは②になってしまいますよねー


 触らぬ神に祟りなし。

 それよりも、今は葉月くんに興味が向いてしまっていた。

「にしても可愛いですね」

「当然よ。私の弟だもの。妹たちだって最高に可愛いことを知ってるでしょ? 私の家族よ、美人でないわけがないわ」

 間違っちゃいないが、自分でこうもまで言えてしまうのは、さすがと言わざるを得ない。

 というか、雪乃さんに会うたびに、さすがだって思わされているような気がする。

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