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これは間違えなく好意なんだろうけれど、それをそこまで嬉しいと感じることが出来なかった。
こんなに優しく声を掛けて貰っているんだぜ? 俺には少しの損もない、もう特しかないような最高のお誘いだぜ? その上、誘い主様は女の子。
泣いて喜んでも良いくらい、むしろ嬉しすぎて疑っても良いくらい。
何か? 女の子って歳じゃないと?
いやそれでも、女性からのお誘いには違いないじゃないか。どうしよう。
①お言葉に甘えて ②遠慮する ③逃亡する
ーここは②でしょうー
食欲。それは、人間の三大欲求の一つである。
しかし俺は誘惑に負けることなく、自己を強く保ち、おばちゃんのお誘いを断ることにする。
「いえ、そこまで迷惑は掛けられません」
「んなこと言うんじゃないわよっ。別に、迷惑なんかじゃないわ。それどころか大歓迎。そのまま住んでくれちゃっても良いくらいなんだから」
そ、そのまま住んでくれちゃうとは……これは遠回りなプロポーズだろう。
不思議なことに、このおばちゃん以外にも、商店街のおばちゃん方からの人気が高かったりする。
ここでクラスを作ったら、努力せずとも俺はリア充一直線だと思うくらい。
本当だよ? 自意識過剰なだけとか、そういうわけじゃないから。普段優しくされ慣れていないせいとか、そんな悲しい理由じゃないから。
今だって、おばちゃんは俺を家に誘ってくれている。どうしよう。
①お言葉に甘えて ②遠慮する ③逃亡する
ーここは③を選んでしまうのですー
どうやら、そう簡単に断らせてはくれないらしい。
コロッケの代金とでも言わんばかりに、おばちゃんは俺のことを誘ってきている。
このまま走りだしたら逃げられるだろうが、それは食い逃げということになるのだろうか。いいや、その前に、それだったら押し売りということになる。
俺は、くれるというから貰っただけ。
それなのに後から代償を要求するなんて、むしろ詐欺とすら言えるのではないだろうか。
「ご馳走様でした」
くれる。そう言ったのだから、俺は悪いことをしていない。
おばちゃんにコロッケを包んでいた紙を渡すと、受け取るその隙を突いて猛ダッシュでそこから逃亡した。
ごめんね。俺は別に、おばちゃんのことが嫌いなわけではないんだ。
だけど、やっぱり、女性の家に上がり込むなんて俺には出来ないよ。
「珍しいな。お前が走るたぁ、何屋のおばちゃんに襲われたんだい? それとも、早く会いたくて走ってきてしまったのかい?」
逃げ切ったことを確認して、息を整えていると、そう声を掛けられた。
通い慣れているせいかいつの間にか、俺は八百屋赤羽の前にきていたらしい。声を掛けてきたのは、店主のおっちゃんである。どうしよう。
①会話 ②逃亡 ③笑顔
ーここは①で良いのでしょうー
その質問自体が、さすがだと思う。
確かに、俺が走ることはほとんどない。体育の授業では仕方がないが、それ以外のところで俺が走ることは、全くと言っていいほどにない。
つまり、俺が走る姿を見ることが出来るのは、ごく僅かということである。
まあそれ以上に、俺が走る姿を見たい人なんていないと思うが。
「あはは、よくわかりましたね。肉屋のおばちゃんですよ」
笑い返す俺に、おっちゃんも笑顔で応じた。
「やはりな。あのおばちゃんは、お前のことを確実に狙っている。気を付けた方が良いぞ? 若い頃からあんな調子で、何度おらだって押し倒されたことか、両手の指じゃ足りないな」
本当か嘘かわからないようなことを意味深に言うと、おっちゃんは豪快に笑ってみせた。
でも様々なことを恵んで下さるのは事実だし、あまり悪く言うといけないよね。どうしよう。
①気を付けます ②気を付ける ③これまで通り
ーここは③でしょうかー
気を付けるとか、そういうのって違うよね。何も、俺に害をなそうとしているわけではないんだから。
そりゃまあ、好きが転じてストーカーになったりしているんだったら、危険だし犯罪だし気を付けないとだけどさ。
あのおばちゃんは、素直に俺のことを大切にしてくれているだけだろう。
子供がいないって言うし、よく商店街に現れる俺を可愛がりたいのかもしれない。
それはわからないけれど、甘やかしてくれるんだから甘えないと失礼だよね。
「ただいま。……あら、うちの学校の生徒ですこと? どうしてここにいらっしゃるのかしら」
背後から声。それは、とてもお上品で高貴で、だけどどこか縛られているようで。豪華な檻に入れられた、セレブが飼う美しい鳥のような、そんな美しくも悲しげな響きだった。
あるいは、何かを恐れているようにも聞こえる。
だからこそなのだろうか。美麗なだけではない、不思議な魅力を感じる。
振り返るとそこに立っていたのは、俺と同じ学校の制服を着た女性だった。
この人も同じ学校に通っているのだとすれば、なぜ去年に気付かなかったのかと悔やまれるほどに、俺が通う学校には絶世の美女が溢れている。
しかしこの女性は、高校生とは思えない艶やかさや色っぽさを持っている。
吸い込まれそうになるほど、透き通る真っ白な肌。
漆黒の瞳は闇を称え、その黒さえも隠すように大きな目は長い睫毛に縁取られている。唇は赤く、紅く、触れることさえ許されないような実を、啄んでしまったようであった。
全体的に、閉ざされたような印象を受ける。
ただ見惚れざるを得ないような、視線を逸らしてはいけないというような、そんな美しさを持っているんだ。
顔だけじゃなくて、スタイルも最高だと思う。
メロンサイズの豊満なお胸。プリっとしていて、大き過ぎたりはしない綺麗な形のお尻。何か運動をしているのだろうか、制服を着ていても引き締まっているとわかるお腹。
グラビアアイドルの良さも、モデルの良さも、両方を兼ね備えた理想的な姿だと思う。
髪の毛は漆黒だが光沢を帯びるほどに輝き、魅力的な尻の辺りにまで伸びている。




