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ときどき、雪乃さんは特殊能力を持っているなどということを、本気で疑うことがある。
雪乃さんに教え続けながら、俺の質問にも答えて、自分の勉強を進める暇が少しもないほど忙しそうであったけれど、神様は楽しそうだった。
最初の不機嫌から、これだけ楽しそうな表情を引き出せるのは、やはり雪乃さんの人柄あってこそなのだと思う。
彼女は言葉も表情も仕草も雰囲気も、第一印象がどれも冷たい。
だからこそ、というものもあるのだろうか。どうしよう。
①雪乃へ微笑む ②クリスへ微笑む ③微笑む
-ここも②を選びますー
もうそろそろわかったことだろう。
「少しの悪気も持ってない馬鹿だったでしょ?」
「うん、疑っちゃってごめんね~。そんなわけないって思うんだけど、本気で言ってるみたいだったから、最初はすっごく戸惑っちゃったよ~。でも、馬鹿素直な馬鹿らしいところを見てると、馬鹿だなって感じで、可愛いとすら思えちゃったもん」
要するに、馬鹿さが伝わったことはこちらにも伝わって来た。
というよりも、神様は馬鹿と言いたいだけであるように見えるが。
「まさかこうも馬鹿だとは思わなかったな~。あの賢い美少女は、ワタシの見た幻だったのかな」
しかし、これだけ神様が言っているというように、何も反論しないということは、雪乃さんは馬鹿にされていることに気付いてもいないのだろう。
こうも文字通り馬鹿を連呼して馬鹿にする人はそういないけれどね。
それだけ直接的で気付かなければ、どうしたら気付くことだろう。
「二人して、何をサボっているのよ。そんなことしてないで、早く教えなさい」
教えてもらう人の態度ではないが、雪乃さんなのだから仕方がない。どうしよう。
①教える ②教えて ③教えよう
-ここで③を選ぶことが重要ですー
悪い意味ばかりではなく、諦めている。
注意をしたところで無駄だと思うので、注意をしないわけであるが、それほどでありながら悪印象を持たせない雪乃さんは、それこそ才能ではないかと思う。
「女王様がそう言っているから、さ、教えようか」
「そうだね~。さっさと進めちゃわないと、このペースだと、夏休みが終わっても宿題なんて片付きゃしないよ~」
神様のように敵意を持ってはいなかったにしても、警戒心を持って雪乃さんは話していたようだったが、気を許して雪乃さんらしい姿を見せるようになってくれたようで良かった。
どうなることかと思いはしたが、今や神様と雪乃さんは仲良しとまでは行かないにしても、表面上の友だち以上には十分に見える。
このまま約束を増やして、二人の距離をもっと近付けたいものだ。
仲良くなってくれるのはシンプルに嬉しいと思うところもあるが、何にしても、この二人のツーショットは可愛すぎる。
その美少女二人を並べて見られるなんて、まさに天国じゃないか。
「ちょっとあんた、何また笑ってんのよ。もしかして、地球征服の計画が、完成したって言うんじゃないでしょうね。勝手なことしたら、許さないわよ」
意外なことに、緩んでしまっていた口許が、神様より先に雪乃さんにバレてしまったらしかった。
神様のことだから、気付いていて何も言わなかったという可能性も、大いにあるから”雪乃さんにバレてしまうほど、にやけてしまっていた”というのが正しいのだろうが。
しかし続く言葉はさすがの雪乃さんである。
地球征服の計画が完成した、だって? どうしよう。
①笑う ②ツッコむ ③聞き返す
-ここも③で行ってみましょうかー
何を言っているのかわからない。聞き間違えだと信じたい。
「えっと、なんですって? もう一度だけ言ってもらっても大丈夫でしょうか?」
「全くもう、話はちゃんと聞かないと駄目よ。仕方のない子だから、特別に、もう一度だけ言ってあげるわ。……あれ、なんだったかしら」
話はちゃんと聞けなんて、絶対に雪乃さんにだけは言われたくない。
特別にもう一度だけ言ってくれるらしいその話というのは、残念ながら、既に本人の記憶からも消えてしまっているようだ。
それだけすぐに忘れてしまうのだし、本気で言ってはいなかったから、なんだよね?
「すごいな~」
呟いている神様は、本気で驚くあまり、感心さえ本気になっているようだった。
ある意味すごいというのは、本当に、彼女のことを指す言葉なのだろうと思う。
見たことのない才能が覚醒した彼女は、ある意味ではなく、普通にすごいのだろう。
そもそも、出来がそれほど左右すること自体、すごいとしか言えない。
「んまあ、そんなことはどうだって構いやしないのよ。時間も時間だし、ちょっと休憩でもするとしましょ。クッキーがあったような気がするのよね。遠慮なく食べて頂戴な」
飽きてしまった様子でないし、言われてみれば少しばかり疲れていた。
常識的な雪乃さんが漸く顔を出してくれたようだった。どうしよう。
①お礼 ②遠慮 ③禁止
-普通に①で良いでしょうー
まず正直な雪乃さんのことだ。
サボるにしたって、言いわけもせず「止めたい」だの「休みたい」だの、下手したら「飽きたから勉強を終わるわ」なんて言い出す人だ。
せっかくの気遣い、断る方が悪いだろう。




