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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
夏休み デート編
145/223

 少し影を見せた上で「特別」なんて言われてしまったら、完璧な姿よりも、可愛い応援したいと思ってしまうものだ。

 今の俺のように、思ってしまうものだ。

 それぞれが「自分は特別」と思い込んで、彼女のファンクラブは作られているのではないか。

 そんな疑いが生まれるまでに、彼女の笑顔は正直だった。どうしよう。


 ①それでも ②それなら ③むしろ ④せめて


 ーここで選ぶのは③になりますー


 騙されていたとして、それでも彼女からの特別を信じたいと思えるほど、俺はポジティブではないし、まだそこまでのめり込んでもいない。引き返せる位置にいる。

 本当に友だちでいられるのではなくて、ファンの一人として追加されるだけ。彼女のゲームの何人か目の攻略対象。それなら、彼女のことは避けてしまおう。そんなことを思うほどは、俺も思い込みが激しくはない。彼女の言葉が真実だったときに、あまりに申しわけがない。

 せめて彼女の笑顔の真相だけでも解き明かしたい。そう思うほどに、俺は彼女に対する思い入れがない。繰り返しになるが、俺はまだ引き返せる位置にいるのだ。

 それならむしろ、こちらから彼女へ接触するのも、ありなのではないかと思ったのだ。

 疑う気持ちが僅かにでも残ったまま、友だちでいるのはきっと辛いだろう。それは友だちごっこと同じことになる。

 雪乃さんを巻き込むわけではないけれど、彼女とのやり取りなども見て、少しずつでも神様と一緒にいて、それで真実を探ってみるとしようか。

 友だちだと思いたいのに、疑う気持ちが残ってしまうのには、俺の中になんらかの気持ちがあるのに違いない。

「だね。何か食べに行こうか。ファミレスとかだと、学校の人がいたり……するかな? 週刊誌のスキャンダルから逃げるとかじゃないけど、神様みたいなファンの多い美少女だと、食事一つを取っても大変だね」

「異性だって友だちだってのに、同性だとか異性だとか面倒よね~。そんなくだらない理由で、マツリちゃんと出掛けるみたいにいかないのか~」

 面倒、くだらない、そういう言葉で彼女は片付けられてしまう。

 彼女にとっての恋愛とは、その程度のことなのだ。どうしよう。


 ①悲しい ②可哀想 ③嬉しい


 ーここは①を選んでしまいますー


 理由なんかわからないけれど、彼女の言葉が俺は悲しく思えた。

 彼女を悲しいと思ったのか、俺が悲しく思ったのかすらわからなくても、なぜだか感じたのは悲しさなのだった。

 自分自身でも説明の出来ない感情だったから、彼女に怪しまれても、絶対に説明は出来ないし理解してももらえない。きちんと呑み込んでしまおう。

 どうして悲しいだなんて思ったのだろう……。

「男女が一緒にいることが、必ず友情ではなくて恋愛感情になるっていうなら、してみたいものだよ~。ワタシの抱いている、友情への憧れが、恋心なんかに変わるってんならね」

 吐き捨てた後、彼女は悪戯っぽい笑みでこちらを見る。

「キミならどう? 友だちとしてじゃなくて、ワタシのことを、恋愛対象として見ることなんて出来る~?」

 答えの決まっている問いであった。

 神様は異性に囲まれていて、いつだって愛の対象であり続けているから、恋愛を鼻で笑える。そして、それほどに友情というものを求めている。

 けれど俺は友だちだって少ないけれど、モテるかで言われたら更に悲惨なものである。

 コノちゃんみたいな天使がいたから、奇跡的に、一時的に彼女はいたけれども、やはりコノちゃんに別れを告げられ、友だちに戻ってしまった。

 友だちだって少ないから、友だちがいることも嬉しいことだけどね!

 それで、コノちゃんに「待ってて」なんてかっこつけたことを言って……。

 思い出せば思い出すほど、俺、クズだな。

 これから神様に言おうとしている言葉も、ある意味で俺らしいや。どうしよう。


 ①肯定 ②否定 ③誤魔化す


 ーここも①を選びますよー


 友だちがいない俺だからこそ、思いやりのない俺だからこそ言える言葉だ。

 いつだって優しくされている神様には、それが新鮮に感じられるから、興味本位に俺の傍にいようとしているだけなのだろう。

 それなら俺は俺で良い、開き直った最低な考えも携えて。

「見られないはずがないじゃないか。むしろ神様のような美少女と一緒にいられて、あくまでもただの友だち、恋愛対象としては全く見ずにいられるだなんて、そいつは男とは言えないね」

 本心であるし俺の考える事実ではあるが、言い過ぎただろうかと反省する。

 これでは、俺は彼女を友だちとして見ていないのだと、宣言しているようなものではないか。

 友だちだから、友だちとして、友だち友だち友だち……俺たちは友だち。

 そのはずなのに、俺はそれに反することを言った。

「ふふっ、相変わらずね~。そういう冗談はいらないよ、もう~、今度そういうこといって揶揄おうとしたら、ワタシも本気で怒っちゃうからね」

 謝っても取り返せない、それでも謝るしかない。

 謝罪タイムに突入しようとしていたところで、まさか本当にそう思っているのか、それともただの演技なのか、彼女はそんなことを言って笑う。

 彼女の笑顔は、どう見たってやはり本物なのであった。

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