プ
大丈夫だと言ったところで、そんなことを言う根拠はどこにもないのだ。どうしよう。
①そういう人なんです ②それもそうだよね
-もちろんここも①を選びますー
クラスが違うのだし、偶然で神様と雪乃さんが出会うとは思えない。
いつだって大勢の男子に囲まれて、尊くあり続ける神様と、だれかと話しているイメージさえない雪乃さんだもん。
それに雪乃さんはあまりに特殊だ。
「そういう人なんです」
俺の言っている意味は、神様にはわかっていないだろうけれど、俺としてはそう答えるしかなかった。
だって雪乃さんは、本当にそういう人なのだから。
「会ってみれば、俺がこういう意味が、わかるんじゃないかなって俺は思うよ」
まだ迷っているようではあるけれど、神様は俺のことを信じてくれたようだ。
「わかったよ。キミがそこまで言うんだもん。そんなの、ステキな子に決まってるよ~。ワタシはいつでも暇だし、適当なときに誘ってね」
いつでも暇なことはないだろう、俺じゃないんだし。
勝手に決めちゃったけど、雪乃さんの予定とかも知っておかないといけないよね。
何も言わずに家へ行っては、いくらなんでもさすがに迷惑か。どうしよう。
①止める ②報告する ③大丈夫
-なぜだかここは③を選べるのですー
ただ、何も言わない話を聞かない、それが雪乃さんの特徴も言える。
「それは、明日すぐにだとしても?」
「うん、ワタシは大丈夫だよ~。夏休みには、全くって言って良いくらい予定が入っていないからね~。だ~れもワタシのことは誘ってくれないで、仲間外れにしちゃうんだもん」
遠慮してしまっているということだろう。
それを仲間外れだと思われているだとは、だれも思っていないことだろうな。
あと、神様が仲間外れだとしたら、俺は最初から仲間に入れてもらえてもいないんだろうな。なんとも悲しいことだ。
明日、雪乃さんがどうかは知らないけれど、行くだけ行ってみよう。
雪乃さんが無理だったら、そのまま神様と二人で宿題をすれば良い。
どちらにしても俺としては美味しい。
今なら秋桜さんに確認することが出来るとか、そういうことは間違っても考えてはいけない。
もし断られたときに、神様と二人きりという選択を取れなくなってしまう。
別の日にしようかと言って、せっかく二人はいるんだしという、そのまま二人きりプランの可能性がなくなってしまうのだ。
「じゃあ明日、一緒に雪乃さんの家に行こうか」
「了解だよ。三人分のお昼ご飯を持って、明日、十一時に迎えに行くから~」
全員分の昼食を用意してくれるところも、時間は全く相談しないところも、神様らしいことだと思った。どうしよう。
①お礼 ②非難 ③黙る
-これなら①で十分なのですよー
昼食を用意してあるのなら、妥当な時間であると思うし、感謝こそしても文句を言うべきではないだろう。
彼女のためには、はこれ以上は図々しい。
「ありがとう。あっそれと、お揃いの文房具なんだけど、定規ってどうかな?」
「良いかも~。使ってる定規、もう線を引くところがボロボロになっちゃって、直線が引けないんだよね~。二人とも使える、程良く可愛いの、ワタシが探してあげるね~」
直線が引けないほど、ボロボロになるものだろうか。
ずっと使っていたせいで、欠けてきてしまったということだよね……。
神様、イメージと違う、意外な点が多過ぎる。
「あの女の子が持ってたのは、向こうにある奴だけど、小学生向けっぽいよね。さすがのワタシも、あのデザインはちょっとな~。でも大人可愛いみたいなのは、甘さ控えめのノリで可愛さ控え目だから、あんまり好みじゃないんだよ~」
楽しそうに、神様は語りながら見て回っていた。
それに付いていくだけの俺ではあったが、楽しそうな彼女を見ていると、俺まで楽しくなって来るようだった。
結局、黒ベースのシンプルなデザインで、目盛りがある部分の上に猫の肉球が付いているという、フリフリはしていないけれど可愛らしい定規で纏まった。
随分と時間が経っていたようで、店を出たとき、時計は十六時を示していた。
「もうこんな時間か。キミといるとあっという間に時間が過ぎてっちゃって、ワタシ、ビックリだなぁ。これが本当に楽しい時間ってことか~」
本当に楽しい時間、かなり引っ掛かる言い方であった。どうしよう。
①触れる ②触れない ③困る
-ここは②で行きますよー
彼女が何か意図して発したようではなく、自然に口から出たように見えるから、触れてはいけないことだろうと思った。
偽物の楽しさで誤魔化すことが、彼女はきっと多かったのだろう。
俺はただのぼっちだけれど、彼女は笑顔を振りまくべき相手が、たくさんいたわけだから……。
「なんか、時間を見たら、急にお腹が空いて来ちゃったかも。何か食べに行こうよ~」
お腹を摩って照れ臭そうに笑う、彼女の笑顔は本物に見えた。
けれど彼女が振り撒いている笑顔も本物に見えるから、彼女の笑顔の上手さに、少しばかり疑いの気持ちが芽生えた。
彼女にとっては、全員が特別なんじゃないか、と。




