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雪乃さんの様子だと、気にもしていない。それどころか、気付いてすらいないのかもしれない。
だからこそ、彼女の扱いが心配に思えるというものだ。
ネタと言えるレベルじゃないし、可哀想だと思えるようなレベルですら、もはやないような気がしてならない。
どうして高校に入れたのか、彼女に関しては本当に不思議だ。
「一緒に勉強しているんじゃ、知っているのでしょう? 雪乃の馬鹿はフォロー出来るような馬鹿ではないじゃありませんか。時折、人が変わったように冴え渡るんですけど、ちなみにそれは見たことあります?」
人が変わったように……。
雪乃さんから、第一印象を越える賢い雰囲気を感じたことなどなかったので、俺は秋桜さんの言っているそれを知らないということになるのだろう。
あの雪乃さんが、思うほど興味が惹かれる。どうしよう。
①ある ②ない ③知りたい
-ここは③を選んでしまいますー
そんなことを言われたら、気になるに決まっているじゃないか。
「いえ、見たことないと思います。え、あの雪乃さんがですよね、どういうことなんですか?」
「普段は馬鹿な雪乃なんだけど、本人の中にスイッチでもあるのかな。それが入ったときに、集中力が半端じゃないし、勉強だって出来るようになるんですよ。あの子、入試のときの点数、一番悪かった英語でも八十九点だったんです」
つまり、入試のときには雪乃さんのスイッチが入っていて、その結果として余裕で合格をしたのだということか。
けれどいざ入学したら、普段の彼女はあの様子で、雰囲気詐欺の成績は悪いという状態になってしまった。
それにしたって、まさか信じられないような点数である。
最初に雪乃さんを見たときのままで、その情報が入っていたならば、やはり頭が良い人なのだなと思うだけだっただろうに。
なんだか雪乃さんには何度か騙されている気分である。
「あの~、ワタシはその人のことよく知らないんだけど、なんか……すごい人なんだね」
話に入って来られなくて、神様がどうしたものか困ったように、俺たちの顔を順番に見ていたことに気付いていなかったわけではないはずだ。
言葉を発した彼女に、漸く、俺は気を遣うべきであったと思い後悔する。どうしよう。
①呼ぶ ②紹介する ③諦める
-ここは②を選びましょうかー
神様は友だちが欲しいと言っているのだし、雪乃さんだって嫌がりはしないだろう。
というか、雪乃さんが何か考えているようにすら思えない。
いくらなんでも失礼かもしれないし、スイッチが入れば頭が良いのかもしれないけれど、雪乃さんからはそのように思えてしまう。
だとしたら、二人なら仲良くなれると思う。
それに! これは俺の私欲だし、完全に俺得状態になってしまうんだけど、世の男子は全員喜んでくれることでもあるんじゃないかな。
雪乃さんと神様が並んだら、ビジュアル的に超綺麗!
「何かとすごい人ではあるよ。でも神様なら、同じようにすごいと思える人なんだし、仲良くなれるんじゃないかな」
俺の言葉に即座に反応し、冬華ちゃんが元気に笑顔で否定する。
「雪乃お姉ちゃんは、全然すごくないから、お友だちがいないんじゃないですか?」
かなりの暴言である。
たぶん、俺がこれを言われたら、凹んで立ち直れないんじゃないかと思う。
いくら賢く思えても、冬華ちゃんは幼稚園生なのである。
本人の前でもそれを言ってしまっているんだろうな……。どうしよう。
①雪乃をフォロー ②頷く ③微笑む
-ここは①を選べないといけませんよー
雪乃さんは姉であり、冬華ちゃんは妹だ。
それに、雪乃さんは妹たちや弟たちを、そして秋桜さんのことが大好きなんだろうから、ネタがネタでなくなる前に言ってあげないといけないのだろう。
尊敬と愛のあるネタとして使っているものでなければ、雪乃さんにも冬華ちゃんにも良くないと思った。
俺の勝手な行動だから、それが本当に彼女たちのためになるかは重要じゃない。
自己満足だとしても、良くないことだ、俺はそう思うのだ。
「そうじゃなくて、雪乃さんが大勢の人と一緒に騒ぐことがないのは、みんな雪乃さんがすごすぎて、近寄りがたいなって思っているの。だから雪乃さんが話し掛けて、嬉しくない人はいないんだよ」
「そんなに雪乃お姉ちゃんってすごいんですか? 春香お姉ちゃんのお勉強もちゃんと教えられないのに……?」
キョトンとして、素直で、可愛らしくて。
けれどなんでもないように言っていた、春香ちゃんの勉強もちゃんと教えられないという情報は、衝撃でしかない。
「最初に俺が雪乃さんと会ったとき、とーーーーーーってもすごい人だろうなって思って、こちらから話し掛けたら迷惑かなって思った。気軽には話し掛けられないけど、雪乃さんが良いよって言ってくれたら、みんな雪乃さんとお話ししたいんだよ。俺が実際にそうなんだから、間違えない」
自分の語彙力のなさに絶望した。
これで良いのかと不安になったが、冬華ちゃんは瞳を輝かせているのだった。どうしよう。
①続ける ②確認する ③止まる
-ここは②を選ぶとしますー
上手い説明が出来たとは思えないが、それでも冬華ちゃんには気持ちが伝わったのだと、そう思って良いのだろうか。
「どれくらい雪乃さんがすごいか、冬華ちゃんもわかりましたか?」
「はーい!」
手を挙げて返事をする元気さは、幼稚園生らしいそれだった。




