ビ
目に見えて彼女の顔が明るくなる。
尽くされるばかりだから、たまには尽くす方の感覚も味わいたいという、興味にも似たものなのかもしれない。
けれど彼女がそうしたいのなら、断ることはない。
俺の財布にもとても優しいしね。
「んで~、結局はどこに行くんだっけ? 何か欲しいものとかないの~?」
本当は彼女の方が買ってくれるのに、まるで俺に強請るかのような可愛らしさで、愛らしい猫撫で声で、彼女は訊ねてくる。
教室で見せる姿を、本人はぶりっ子と自覚し、同時に美少女と自覚している。
今の彼女の姿は、本人が素として見せているから卑怯なのだ。どうしよう。
①ある ②ない ③いらない
-ここも①を選択は致しますー
何か欲しいものと言われても、すぐに思い付くようなものはなかったが、とてもないとは言えそうになかった。
「え、あるよ」
とりあえずあるとは答えたものの、欲しいものとは、何を言えば良いのだろうか。
欲しいものなんて、本とゲーム以外には思い付かない。
相手が他の人だったなら、正直に答えられただろうけれど、今目の前にいるのがだれであるのか認識してしまうと、答えられるはずがなかった。
俺が求めているのは、答えられるような作品ではなかった。
さすがにいかがわしい作品ではないにしても、所謂アニオタと呼ばれる人でなければ、ゲーム趣旨を伝えただけで気持ち悪いと思われかねない。
それが恋愛シミュレーションゲームというジャンルの運命なのだ。
俺が読むタイプのラノベは、ラノベの中でもタイトルが意味不明だから、笑って流してくれないと辛いし。
神様ならば大丈夫だろうとは思うが、やはり辛い。どうしよう。
①正直に ②模範解答を ③素っ頓狂に
-ここは②を選ぶとしましょうかー
食事くらいが安牌か。
「一緒にご飯を食べに行こうとか、そういうのは買い物デートに入らないからね~。ワタシはプレゼントがしたいんだけど、欲しいものって、一体何があるの~?」
やっと纏まってきた答えを返そうとしたところで、先回りしてそれを封じられてしまった。
自分で言ってしまったネタだけれど、それが首を絞めたかもしれないな。
買い物デートだとしたら、まさか食事を奢ってもらって、それで終わりというわけにはいかないことだろう。
そうしたら、何を買ってもらおうか。
値段を考えると、文房具とかが良いのかな。
「えっと、すごく今の話で良いなら、シャー芯が欲しいかな。さっきまで宿題をやってた中で、ストックがなくなっちゃったから、今シャーペンに入っているので終わりなんだ」
どう頑張っても高級品にはならないであろうものを、見事に選んだ自信がある。
欲しいものには違いないから、嘘は吐いていないし。
「わかった。じゃあ、文房具屋さんに行こうか。なんだったら、ワタシとお揃いにする~?」
「ぶぶっ」
安心して、油断していたところに、不意打ちでそんなことを言ってきた。どうしよう。
①賛成 ②反対 ③拒否
ーここは③を選んでしまうのですー
神様とお揃いだなんて、それは信者とは呼べないのではないだろうか。
貢物を捧げるどころか買ってもらおうとしているくらいだし、本当に神として信仰しているはずはないが、咄嗟に俺はそんなことを思ってしまっていた。
早くも神様が馴染んでいて笑える。
「いやいやいやいや、無理ですって! それが見つかったら、ファンの人に確実に殺されるから。家に来たことも危ないし、デートへ行くことだって危険に溢れているっていうのに」
事態を整理したら、なぜ落ち着いていられたのかが不思議になった。
笑っている場合じゃなくて、慌てて断った。
「別に良いじゃん。ワタシたち、友だちなんだからさ。友だちと一緒に遊びに行くだけ、デートだなんて悪ふざけで名前だけ、そうでしょ? 問題なんてないよ?」
ファンの熱意を知らない神様ではないはずなのに、彼女は尚もそう迫って来た。
どうやら、譲る気持ちはないらしかった。どうしよう。
①仕方がない ②無理 ③嬉しい
-ここは①を選べましょうー
買ってもらう話についてもそうだったけれど、神様という呼び名がしっくり来てしまうだけあって、言葉や仕草の威力が半端なものではなかった。
頼まれると、押されると、頷いてしまう。
仕方がないと、そう思えてしまう……。
「じゃあ、責任を持ってちゃんと助けてくれる? 俺が神様のファンのみなさんに襲われたとき、ちゃんと庇ってくれるの?」
「もちろんだよ~」
彼女の言葉をどこまで信じられるか、わからなかった。
嘘を吐きたくないと願う彼女のことだから、信じてあげたいとは思うけれど、無意識で嘘を吐いてしまうのがまた彼女でもあるのだ。
それを自力で直せるのなら、悩みはしないだろう。
強い意志の籠る、もちろんという言葉だったから、俺の不安の気持ちが大きくなる。どうしよう。
①信じる ②信じない ③信じられない
-くれぐれもここで①以外は選ばないようにー
庇ってくれなければ、俺は抹消されてしまう。
庇ってくれたとしても、彼女が去ったその後で、俺は抹消されてしまう。
いつでもそのときに傍にいるなんて、相手も彼女がいないときを狙うはずなのだし、そんなことは無理に決まっている。
高望みは罪だ。ときに、嘘よりも重罪だ。




