ド
みんながと言ってしまったなら、俺だけではなくなってしまう。
これはただの独占欲だ……。
「ありがとう。ほんと、ほんとっに、ありがとう」
お礼を言ってくれるから、罪悪感が大きくなってしまいそうだった。どうしよう。
①許される ②代償 ③開き直る
-ここは①を選べるようですー
けれどこれだけしたのだから、許されるとも思えるのではないだろうか。
俺が、俺の力で、それなら許されても良いのではないだろうか。
ファンとして応援していた、ずっと傍で松尾さんを見ていた。それなのに、気付けなかった方が悪いんだ。
または、気付いていた上で無視し続けていたか。
「突然、呼び出したりして、本当に悪いと思っているよ。お父さんが呼んでるなんて、そんな嘘を吐いて、お父さんまで巻き込んじゃったし、そのために婚約者だなんてとんでもない嘘も吐いた。それなのに、キミはやっぱり優しいね~。謝っても足りない、お礼を言っても足りない、どうしたら良いのかな……」
笑顔で明るい松尾さんが、瘴気に戻ってしまう日が来るのを、少しでも先延ばしにしようとしていた。
そういうこと、なのだろうか。
嘘吐きというのは確かなことなのだろうし、彼女の嘘に、少なくとも今日だけでも俺は随分と振り回されたものだと思う。
そうは思うが、正直に謝れるのならば、その中の罪は小さなものだとも思うのだ。どうしよう。
①伝える ②伝えない ③笑う
-ここは③を選ぶのだそうですー
嘘を吐いてしまった人は、ほとんどが更なる嘘でその嘘を隠そうとする。
祭ちゃんと二人で信じ込んだ、あの大きな嘘こそが、その完成形だったのかもしれない。
だとしても、今の松尾さんが嘘を正直に嘘と認め、謝れるだけの力を持っているのだから、それならば十分ではないだろうか。
嘘を吐くことも、もちろん悪いことだろうけれど、謝れるのだからそれくらいの嘘ならば良いと思う。
そう考える俺が間違っているのだろうか。
「心がそこにあるのでしたら、謝ることにもお礼を言うことにも、足りないなんてことはないはずですよ」
俺の言葉にどれほどの力があるのかは知れないが、松尾さんは悪くないと、偽りのない言葉で伝えたならば、彼女のいくらかの自信に繋がることだろう。
そうせずただ笑ったのは、やはり俺の下心のためだろうか。
こんな俺の、どこが優しいものか。どこに感謝など出来るものか。
「ありがとね~。そういえば、前は断られちゃったお願いだけど、今ならどうかな。敬語を止めて欲しいの。いきなりじゃないし、ワタシの中でキミはマツリちゃんの次に仲良いよ?」
自分の言葉が絶対だと信じ、断られることなど夢にも思っていない、あの頃の松尾さんとは違っていた。
少し自信がなさげとすら言える表情で、不安げに頼んでくる。どうしよう。
①許可 ②了承 ③却下
-ここで選ぶのは②でしょうー
可愛さを利用した誘惑により、俺をファンクラブに組み込もうとした、あのあざとい可愛さとは違う。
本当に友だちになりたいと思ってくれているようで、距離を縮めたいという、精一杯の気持ちなように感じられた。
それならば、俺だって逃げるべきじゃない。
「わかりました。それじゃあ、今度から松尾さんと話すときは、敬語じゃなくするね」
「うん、それと、呼び名も松尾さんはちょっとなぁ……。えっと、マツリちゃんのことは、なんて呼んでるんだっけ~?」
チキン野郎な俺が顔を出して、敬語から直すことに緊張してしまってならなかった。
それなのに、一気にそこまで進展するというのは厳しい。
断じて顔で選んでいるだとか、そういうつもりではないけれど、どうしたってそういうところが出てしまっても仕方がないと思う。
だって松尾さんは本当に美少女なんだもの。
「ライブから連れ出したあの日以来、祭ちゃんと呼んでいるけど、クリスちゃんだなんて呼べないからね?」
ファンの人たちのこともあるし、危険だと思い先に言っておいたが、どうやらその必要はなかったらしいのだ。
俺の言葉を松尾さんはくすくすと笑っている。どうしよう。
①理由を問う ②首を傾げる ③納得
-ここは普通に①を選択しますよー
何かおかしなことを言っただろうか。
祭ちゃんをどう呼んでいるかと訊ねたから、そこから松尾さんの呼び方も決めようとしていたのかと思って、そういったのだからおかしなことはないはずである。
けれど松尾さんは「それはない」と笑う。
「どうして笑うのさ」
考えてもわからないだろうから、俺が質問してみれば、「だって」と松尾さんはその理由を明かす。
「名前にちゃん付けなんて頼まないよ~。なんでそう呼んでみて気が付かなかったの~? クリスチャンって、完全に別ものじゃないの。ワタシ、キリスト教とかよくわかんないよ~」
つまり、クリスにちゃんを付けて、クリスチャンとか笑っちゃうわー。ということ?
説明している途中も、必死で笑いを堪えているようだったから、勝手に俺の中でハードルを上げてしまっていたのだろうか。
そこまで面白いとは思えないのだけれど……。どうしよう。
①笑う ②困る ③納得
ーここは③を選ぶようですよー
とりあえず、理由については納得だね。
どこがそんなに面白かったのかはわからないけれど、よくわからないことがツボに入ってしまって、一人で笑っちゃうってわりとあることだもんね。
クリスちゃん、クリスチャンか。




