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ならば、松尾さんにとって良いだろうと思われる方へ、自信を持って進めるよう背中を押すのが、俺のするべきことなのではないだろうか。
ファンの望むことではなくて、松尾さんの望むことのために。
それこそが、絶対に信じられる友だち、を奪ってしまった償いだろう。
「好かれたいと努力しているのは、天沢さんのような方だって、同じことなのです。その努力を他人に見せないという、それだけのことなのです。ですから、どんな人気者も松尾さんと同じですよ」
こんなことを勝手に言ってしまって、天沢さんはなんと思うだろう。
松尾さんを説得するために、天沢美海という存在は大きいし、彼女の名前を使った方が簡単に……。
俺の勝手のために、申しわけないことをした気がする。
きっと、天沢さんなら怒りはしない。それだけに悪い気がした。どうしよう。
①後で謝る ②秘密に ③それほどでもない
-なんとここでのチョイスは③になるのですー
けれどわざわざ彼女に言うというのも、おかしな話であろう。
天沢さんが人気者になるために、努力をしているのだということを、松尾さんに話してしまったのです。
そのような報告をしても、された天沢さんの方だって困ってしまうだろうし。
言うほどのことでもないし、隠すほどのことでもないか。
その話題になったら、何気なく言う程度のこと。彼女ならそう思ってくれると信じよう。
それに、別に彼女がこの場にいるわけでもないのだからね。
「だれだって同じなのですから、松尾さんには無理だなんて、そういうこともないのです。人によって、何を望むかが異なるだけで、だれも努力の末にその望む場所へ辿り着いているのですよ」
かっこつけたことを言うつもりはなく、ただ思っていることを言おうと思った。
人見知りで、女子とろくに話すことが出来ない俺が、松尾さんのようなマドンナ的美少女の家にいるのだ。彼女と二人きりで話をしているのだ。
苦手でも努力をして、望む自分へと近付いていくんだ……。
去年は文句ばかりで、努力もしないで卑屈になるばかりの俺だったからこそ、自然に言葉が零れていたのだと思う。
去年の俺がなければ、今年の俺はないのだし、今年の俺がなければ、努力なんて言葉は避け続けていた。
何もかも、才能がないと片付けてしまえば、本当に簡単なことだから。どうしよう。
①励ます ②落ち込む ③俯く
-ここでは①を選ぶようですねー
俺なんかが、生意気なことかもしれない。
「だから松尾さんも頑張りましょう! 本当に今の状態を、松尾さんが望んでいるのでしたら、俺はその応援だってします。けれど松尾さんに限って、無理ということは、断じてないと思うのですよ」
どの立場から、俺はものを言っているというのだろう。
それを思えば笑えて来るも、松尾さんが求めてくれているのならば、俺にしか言えない言葉を掛けたいと思った。
「ファンの熱意はわかっているはずですし、それまで、偽りといってしまうわけではないのでしょう?」
「そうね~。好意の先にいるワタシが、偽りのワタシだったとしても、その好意までが偽りだとは思わないわ」
躊躇い目を逸らし、頬を綻ばせて、松尾さんはそう言う。
なんだかんだ言おうとも、ファンクラブを作られて、褒め言葉の数々が嬉しくないはずがないのだ。
その証拠が、心から洩れたというような微笑みである。どうしよう。
①指摘する ②微笑む ③褒め称える
ーここは②を選びますー
勘違いした俺が見ていた松尾さんの嘘は、見抜けていたようで少しも見抜けていたかった。
ファンの人たちの応援に返す優しい言葉。嬉しい、感動したなどといった言葉。
そして祭ちゃんに対する、友だちとして、想っているかのような言葉。
それらを俺は、松尾さんの嘘と呼んでいた。
けれど彼女の嘘は、そこではなかったのだ。
嘘を吐いていることを見抜いただけで、全てを見抜いた気になっていた、そんな俺が恥ずかしい。
彼女がファンと言ってくれる人を大切に想っていることも、褒められて無邪気に喜んでいることも、祭ちゃんと仲良くなりたいと思っていることも……。
どれも松尾さんの本心であったのだ。
なぜ気付かなかったのか、その方が謎に思えるくらい、松尾さんはその気持ちを強く抱えていた。
「先に設定を破ったのは、マツリちゃんの方なんだから、ワタシも言っちゃって大丈夫だよね。あ、あのさ、ワタシとマツリちゃんの関係性って、不自然だったでしょ~? 友だちには、見えなかったと思うの」
言いにくそうにしながらも、俺が覚悟を決めたように、松尾さんも覚悟を決めてくれたらしい。
もう松尾さんの表情は、偽りを感じられないほどになっていた。どうしよう。
①肯定 ②否定 ③非難
ーここでは①になってしまいますー
本人がわかっているのだから、自然な友だちらしかったなどと、わかりやすい嘘を吐いても仕方がない。
嘘吐きで悩んでいる人に、嘘など吐いても傷付けてしまうことだろう。
「正直に言えば、かなり不自然でした。仲のいいというよりは、仲のいいふりをしているという、様子だったように思えます」
どうせ傷付けてしまうなら、嘘よりは、真実であった方がせめてもの救いだろう。




