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特殊なタイプな人というのを、松尾さんが良い意味で言っているようには見えなかったけれど、それで話をしてくれると言っているのだから良いのだろう。
ファンだとか、そういうわけではないけれど、純粋に彼女のことを知りたいと思った。どうしよう。
①最後まで聞く ②逃げる ③耳を塞ぐ
-ここは①を選びますよー
せっかく話してくれるというのだから、最後まで聞くしかない。
彼女の方から話してくれる限りは話を聞こう。
それに、逃げ出したいと思ったところで、ここから逃げ出す方法なんてどこにもないのだからね。
逃げられるなら、こんな空気になる前に、とっくに逃げてる。
「なんとなくもうわかると思うけど、ワタシね、すごく根暗だしネガティブなの。一年のときは本当に暗くって、感じ悪いから、だれもワタシのことなんか見やしないわ。それに嘘吐きって言われるのは嫌なのに、どうしても嘘を吐いちゃうから、……嘘を吐かないように話をしないようにしたんだ。目立たないように、いろいろしてたし」
横髪を弄りながら、いじけたように松尾さんは話す。
「似合わないのわかってて、ショートってレベルじゃないくらい、髪型はショートにしてたんだ。今はコンタクトだけどずっと眼鏡だったし、それとさ、今もそれなりだと思うんだけど、去年はもっと太ってたの」
想像が出来ないけれど、見た目も随分と変わったというわけなのか。
二年生になって出現した美少女、ということになるのか。どうしよう。
①驚き ②唖然 ③コメント
-ここも①になりましょうー
まさか松尾さんは遊んでいるだけ。勝手にそんなイメージを持っていた。
しかしそれこそが、彼女が作り出したものだったということだったのか。
話を聞けば聞くほどに、俺は松尾さんに申しわけないことをしていたような、後悔が強くなって来る。
驚きを抑えきれない。
「今の感じで見ると、松尾さんはなんでも似合いそうなんですけどね。どんな髪型だってどんな服だって、松尾さんに掛かればオシャレに見えそうですし、それこそ眼鏡なんてオシャレアイテムではありませんか。どのような状態であっても、松尾さんの可愛さは変わらないように思えるのですけれど」
戸惑いのためか、つい口から零れていた本音の恥ずかしさに、俺は頭を振って慌てて正気を取り戻す。
どう思われたか不安になって、松尾さんの方を見れば、意外な反応が見られた。
照れているなどとは思わなかったのだ。
「ほ、本当にそういう、そういう冗談は止めてよ~。あんまり言われると、ワタシ本気にしちゃうからね? だってこんな腹黒なワタシ、可愛いわけないじゃん」
これも彼女の作戦だと思うのに、本物の動揺に思えてしまってならない。どうしよう。
①好きになる ②嫌いになる ③否定する
ーここは③を選びますー
弄ぶような普段の笑顔なら、可愛いとは思うけれども、アイドルのような存在としてそれで終わり。
可愛らしいと思って、行っても、応援したいというところまでだ。
だけどこんな姿じゃ本気で好きになってしまいそうだ。
「ねぇ、本当に可愛いの?」
住む世界が違う人、好きになることなんて、許されるはずがない。
違う違うと、どうにか否定を繰り返すけれど、どうにも出来ないところがあった。
そんなときに、松尾さんは追い討ちを掛けるのだからひどい。
「甘えたような声を出さないでください。もう本当に、ドキドキしちゃったらどうするんですか!」
そして、どんな言葉よりも辛い、沈黙という空気がこの場所を包み込む。
気まずさを感じているのは、俺だけじゃないようだった。
「もしかして、だれにでもこういうこと言ってるんじゃないの~? なんだかんだ言って、結局はだれと付き合ってるんだか、よくわかんないキミだしさ」
「俺が軽い男に見えてるってことですか?」
「そういうわけじゃないよ。暗いし、存在感ない空気だし。だから不思議でならないんじゃないの」
俺と松尾さんの間とには、格差があるとはわかっているが、本当に友だちのように返してしまっていた。
返ってくるのも完全に悪口である。どうしよう。
①文句 ②反論 ③照れる
ーここは②になりましょうかー
そのまま頷くわけにはいかない。
「自分が明るいとは思いませんし、存在感があるとも思いませんが、そういう言い方はないと思います」
思わず反論をした俺に、クスクスと松尾さんは笑ってくれる。
見惚れるほどに愛らしい笑顔だった。
「あぁあ、なんかキミを見てたら、自分を取り繕うのも馬鹿らしく思えてくる。好かれたくって、努力して、偽りの自分を愛されて。それで満足なんて、本当に寂しい話だよね~」
先程まで本当に楽しそうだった笑顔が、一瞬ばかり陰りを見せて、今度は笑顔なんてその面影すら消えてしまった。
「もう力を抜いて、ファンクラブ解散しちゃうってのも、ありかもしれないよね~。ちょうど、疲れてきた頃なんだ~。やっぱりワタシには無理なのかな~、なんて思っちゃって」
そのまま松尾さんになることは、良いことなのかもしれない。
けれど今のアイドルのような彼女を求めている人が、数多くいることも事実なわけで、松尾さんを変える引き金を引いたのが俺だと知られたら……。
最初からファンに殺されるのは覚悟の上、今更なことだけど。どうしよう。
①押す ②逃げる ③留まる
ーここは①を選ぶとしますー
何度も迷う必要なんてないんだ。
殺されるのは覚悟の上、そのはずなんだから。




