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松尾さんのこと、俺は誤解していたのだろう。
それで祭ちゃんが利用されているのかと思って、松尾さんから祭ちゃんを離した。俺が友だちになるから良いだろうと言って、祭ちゃんから松尾さんを離した。
まさか本当にお互いに支え合っていたのだとは思わなかったのだ。
「話したくなければ構いませんし、掘り下げたいとは思いません。けれど、気になってならないのです。どうして松尾さんほどの美少女が、それほどに自信がなくいられるのですか? 過去に何かあったでもない限り、どうしたって不自然でならないのです」
質問をすれば、松尾さんの表情が見るからに曇る。どうしよう。
①撤回する ②誤魔化す ③耐える
-ここでも③を選びますー
圧力が半端じゃなかった。
こちらからこの話題は掻き消してしまわなければ、踏み込んではいけない場所に入ってしまう。
許されないことを直感的に悟ったが、俺はどうにかこの空気にも耐えた。
祭ちゃんのことに踏み込んでしまった時点で、責任を持つべきだったところは、松尾さんまでだったということなのだろうか。
何にしても、無理して終わらせるつもりはない。
自然に終わるまでは、終わらせないでいたいと思う。
「意外と積極的なんだね~。うんとね、話しても良いんだけど、えっと、その前にさ、マツリちゃんからどれくらい聞いているか、教えてもらえないかな~?」
話しても良いとは言うけれど、かなり渋っているように見える。
言葉にはしないものの、もう止めろと目が訴えている。どうしよう。
①話を終わらせる ②深く聞き込む ③質問に答える
-ここも③となりますよー
彼女の様子を見るからに、また彼女の性格から考えるに、松尾さんの方から言葉にしてはっきりと断ってくることはないのだろう。
気付かないはずのない鋭い視線も、気付かないふりをすれば良いだけだ。
「友だちがいないところから始まった、拗れた友だちごっこだということは、言っていましたね。祭ちゃんを人気者に、松尾さんは正直者に、それで二人の利害が一致したのだということも言っていましたね。……あとは、なんだろう、それくらいですかね?」
強く記憶に残っている言葉を言えば、溜め息を吐いて悲しそうな顔をする。
「そっか~。結構、言っちゃったんだね、あの子。ワタシが嘘吐きだってことも、そしたら聞いたんだよね? どうしようもない、嘘吐きだって」
そういえば、嘘吐きだって、悩んでいたのだと祭ちゃんから聞いた。どうしよう。
①肯定 ②否定 ③微笑む
ーここは①となりましょうー
そのことについて詳しく聞いたわけではないけれど、松尾さんが悩んでいた理由が、嘘を吐いてしまうことだということは聞いている。
「はい。なんとなくですが、そう言っていました」
あからさますぎるくらい、松尾さんは暗い顔を見せてくる。アピールしてくる。
もうこれ以上はと、早急に止めるようにと、目が強く訴え続けている。
「その様子だと、マツリちゃんったら何から何まで言っちゃったわけだね~。ただ、詳しいところは何も話していない、って感じかな?」
表情は暗く沈んだものだけれど、声は明るいものだから、更に恐怖が増しているようだった。
「あのね、ワタシとマツリちゃんってずっと親しいような感じ出してるけど、本当は高校になって初めて会ったんだ。それも去年の終わり。友だちごっこ、その言葉を聞いているんじゃ、大体はそうだろうと察せられただろうけどね~」
俺が引く気がないのを見て、諦めたのか、暗い表情さえ消して松尾さんは話し始める。
「ちなみに聞くけど、去年からワタシの噂は知ってたかな? どんな噂でも良いの。松尾クリスって生徒がいること、聞いたことあった? クラスが違っていた去年、マツリちゃんとまだ仲良くなっていない頃から」
言われてみて、俺は気が付く。
可愛らしさはずっと変わらないはずなのに、去年は全く彼女のことを知らなかった。
ファンクラブが今年になってから形成されて、ここまで拡大したのだとは考えられないけれど、急にこれほどに知名度が上がるとは不思議なことだ。
何かきっかけとなるような、ステージに立つだとか、表彰を受けるだとか、そういった出来事も俺の記憶の中にはない。
それだのに、今年に入ってからで、松尾さんがアイドル的立ち位置にいることが当然になっている。どうしよう。
①真実 ②嘘 ③疑問
ーここは③を選ぶのだそうですー
去年は違うクラスで、今年は同じクラス。
その人を知っているかどうかにおいて、これは大きな差かもしれないけれど、松尾さんは同じ部屋にいていないようなものだったしな。
いつだって授業中以外は男子が周囲を囲っていて、姿なんて見えやしない。
席が近くないから、授業中だって覗き込まなくちゃ見えないし。
彼女が有名になった理由がわからないし、考えてみれば大きな疑問点である。
「松尾さんと祭ちゃんの間で、ルールを決めることはそう難しいことではないのかもしれません。あそこまで設定を信じ込むにまで至るのは、すごいとは思いますけれど、それはたった二人の意思です。そうではなくて、どうしたら、あれほど大勢の人の心を瞬時に奪うことが出来たのでしょうか。見た目は可愛いですが、それは去年だって同じことでしょうし‥…」
「ワタシの質問は無視なの~? まぁ、その問いの時点で、答えは出てるようなものだけどね~。ふふっ、特殊なタイプの人だし、良いよ、キミにだけは全部……教えてあげるから」




