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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
夏休み 始まり編
127/223

 いつか、松尾さんのことを彼女にしたいだとか、そんな大それたことを言えるくらいに、俺は自信を付けられるのだろうか。それほどのリア充になれるのだろうか。

 それはわからないけれど、少なくとも今は、そうじゃない。

「つまり履歴から辿って、松尾さんの携帯電話の番号を手に入れられた、ってそういうことですね。へへへ」

 下手な演技をしたせいで、疑われてしまっただろうか。

 嘘くさい笑いなんて、入れなければ良かったかな。

 とはいえ、これだけデレデレすれば他のファンと同じことだろう。どうしよう。


 ①電話を切る ②返事を待つ ③話をする


 -ここは②を選びましょうー


 どう思われたが怖くて、何を言われるのかが怖くて、今すぐにでも電話を切ってしまいたかった。

 けれどこちらから電話を切ることは許されない。

 そんなことをしてしまったら、先程の努力が無駄になってしまう。

 頼む。早く電話を切ってくれ。

 美少女との電話は幸せだし、彼女の方から掛けて来てくれて、かつ切らずに会話をしてくれるというのは、最高に嬉しいことだと思う。

 だけど怖いんだって!

『そういうことになるね~。でも別に、電話番号くらい、直接ワタシに聞いてくれたら教えてあげるのに~。シャイで可愛いんだから』

 嫌がっている色など少しも見せない、予想外の回答を松尾さんは返してくれた。

 どうしたって、この人は電話を切るつもりはないらしい。

『あっそういえばなんだけど、今、暇だよね? 絶対、暇でしょ?』

 完全に決め付けているのが微妙に癪だ。

 そして暇かどうかの確認をするのは、最初にするべきことだと思う。

 「お時間大丈夫ですか?」と。じゃなくても、クラスメートだって、「今電話大丈夫?」くらいは言ってもらいたかった。

 それなら最初の時点で、予定があるって断れるのに。

 松尾さんのファンに調べられて、嘘だとバレても恐ろしいから、予定があるとではなくても、充電がないと言えばその場で断れた。

 今更だろこれは。どうしよう。


 ①暇 ②暇じゃない ③文句


 -ここも②を選びますよー


 予定があるから、急いでいるのだとは言えまい。

 ここまでゆったりと会話してしまっているのだから、そうは言えないけれど、暇だとも言いたくない。

「暇ではありません」

 机の上に広げられた勉強道具に目をやる。

 飽き始めていたとはいえ、今は宿題をやっている途中だったのだ。

 つまりそれは暇だと言えないということ。

『嘘だ~。ワタシの家に来てもらおうと思ったのに~。今日もマツリちゃんは部活なんだもん、頼れる人は、一人しかいなかったのになぁ。ワタシ、友だちがあまり多くないからさ~』

 本当に寂しそうに聞こえる声で、彼女は笑った。

 演技なようにも思えたし、本心のようにも思えたから、俺の感情が迷子になりそうになっていた。

 だって俺は、彼女の言葉を信じようとせず、最初の最初から嘘だって。彼女が何かしたわけでもないのに、全部、勝手に嘘だって。

 靡かないから、俺なら友だちになれるかもしれないって、本当にそう思っただけなのかもしれない。

 陥れるようなことされたこともないし、彼女がそんなことをする理由がない。

 訪れてしまった沈黙に、そう思わずにはいられなかった。どうしよう。


 ①話を聞く ②話をする ③電話を切る


 ーここは①を選びますー


 俺が彼女を疑った理由とは、なんだっただろう。

 これほどの美少女が、俺なんかと話をしたがってくれるはずがない。そういったことだった気がする。

 松尾さんのことほとんど知らないのに、見た目だけで判断したんだ。

「どうして家に来てもらおうなどと思ったのですか? 暇ではありませんけれど、理由によっては、暇にすることも出来ますよ」

『ホント? あのね、迷惑だってことはわかっているんだけど、……お父さんが呼んでって言ってるの』

 雑用を頼まれると思っていたし、大将の肉体労働を覚悟していたのだが、理由がかなり謎である。

 父親が呼んでいる? なぜ?

 呼ぶ理由の前に、どうして松尾さんの父親が、俺のことを知っているのだろうか。

 何か呼び出しされるような、卑劣なことを松尾さんにしてしまっただろうか。

 内容を聞いてから断ってしまったら、……殺される。どうしよう。


 ①すぐに行く ②行く ③行かない


 ーここは②となりますかねー


 走って、すぐに向かうしかない。

 でも松尾さんの家がどこかだなんて知らないぞ。

 まずは落ち着こう。落ち着かなければ始まらない。

「え、えっと、行かせて頂きます……。それで、これは下心とかではなくて、今すぐ向かいますということで、家の住所だけでもお教え頂けると……」

 家の住所なんて聞いてしまったら、更に怒らせてしまうだろうか。

 しかし家の場所を知らされないままに、家への呼び出しなどどうしろという話になる。

 答えはあるのか? どこにも答えが見当たらない。

『迎えを向かわせるから、家で待っててくれて大丈夫だよ。来てくれるの? もう、なんか、ゴメンね。家の住所をお願い、あと出来れば、家の外で待っててくれると嬉しいかな~。黒い車が来たら、それがお迎え。たぶん、松尾家の者だって名乗ると思うから、そうしたらその車に乗って来て』

「了解です」

 そう答えると、プツッと電話は切られてしまった。

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