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しかし、それならどうして、電話番号を知っているというのだろう。
ファンという名の家来たちに、お願いとかいう命令をして、調べさせたということだろうか。
調べてわかるものか? それに、特定の男性に対して松尾さんがそのようなことをしたら、確実に妬まれるのではないか?
夏休みの間に処刑が行われる予定だとか……。
え、まさか、今回はそれを知らせるために? どうしよう。
①尋ねる ②探る ③逃げ出す
ーここは②を選びましょうー
はっきり質問をして、素直に教えてくれるような人ではないだろう。
松尾さんから答えを引き出せるほど、自分の会話力が高いとは思わない。けれど、命が掛かっているんだ!
明らかに不自然な事態が発生しているが、動揺してはいけない。
「ま、松尾さん……ですよね?」
震える声をなんとか抑えて、とりあえずそこの確認をする。
『正解だよ~。わからないなんて言って、な~ぁんだ、わかってるんじゃん。クリス、だよっ』
ないに等しかった可能性が、ないに切り替わった。
もしかしたら松尾さんという推測自体が間違っていて、もっと他の、命懸けでなく話が可能な人なのではないかと思ったのだ。
そういうことはなく、やはり松尾さんらしいのだが。どうしよう。
①諦める ②戦う ③切る
ーここも②を選んでいきますよー
いっそ何もなかったことにして、携帯の電源を落としてしまうことだってありかと思う。
この場にいるわけではないのだから、直接的な被害は全くないはずだ。
充電がなくなってしまって、電源が切れたという設定にするかな。掛け直して謝れば完璧だろうけれど、そのときに、また戦闘しなければならないことになる。
だれかと一緒にいるときに、アドバイスをもらいながらっていうのも手か。
とにかく今は辛いだろう。
切りたい。少なくとも、心の準備を整えてからにしたいから、すぐに電話を切りたい。
むしろ切ったとしても、忘れられて終わりだろう。俺に執着しているはずがない。
俺のことなんて、ただの気まぐれに決まっている。
電話を切ってしまおうと思ったのだが、動揺のせいか手が動かせない。
「あ、あの……、どうしたの、どうしたのでしょうか? 何か、俺は松尾さんを怒らせるようなこと、したでしょうか……?」
声が震えて、手も震えて、落ち着かない。どうしよう。
①息を整える ②笑う ③切る
ーここは①を選びましょうかー
一旦耳から電話を離して、大きく息を吐く。
質問をしておいて、その答えを聞いていないのじゃひどいものだから、無理矢理に気持ちを落ち着かせてすぐに戻す。
笑い声しか聞こえていないから、耳を離していた間も笑っていたということか。
何がそんなに面白いのだろう。
そう面白い質問をした覚えはないのだけれど。
『もう、嫌だなぁ。怒ってなんかないよ。声を聞きたくなっちゃったから、電話を掛けたんだよ~』
揶揄っているのがわかる、本心のはずがない言葉が聞こえてくる。
声を聞きたくなっちゃったって、どういうことだよ。
「えっとまず、まずですけど、どうして電話を掛けられたんです? どうして番号を知っているんですか?」
最初にこの謎を明かさなければ、解き明かすことは出来ないと思った。
だから尋ねてみたところ、また笑い声が聞こえてくる。
この人は、俺が言葉を発する度に笑うつもりなのだろうか。
『教えてもらったんだよ~。マツリちゃんが知ってるっていうから、教えてって頼んだら、教えてくれたんだ~。やっぱり、友だちって大事だよね~』
当然のように、当たり前のように、わかりきったことを言うかのように、彼女はそう言ったのだった。
友だちって大事だよね、それは確かにそうだけれど、松尾さんが言うと何かが違っているように聞こえてならない。どうしよう。
①ツッコみ ②笑う ③困る
-ここは③を選ぶしかないでしょうー
笑ってくるものだから、こちらも笑って返そうかとも思ったけれど、それが出来ないものだから黙ってしまう。
どう返しようもなくて、困ってしまうしかない。
松尾さんは美少女だし、あの美少女から電話が掛かってきていると思うと、夢のように幸せだ。嬉しくないはずがない。
けれど、何かが違うんだって。
「え、あの、これは松尾さんの携帯から掛けているんですか?」
『うん、そだよ~』
電話を切るところへの持っていき方がわからないので、適当なことを言って、話を終わらせるしかないと思った。
そういうわけだから、ファンのふりをするのが一番!
他の男子みたいにデレデレしないから、松尾さんはそれが気に入らないというわけなんでしょ? どうしよう。
①デレデレ ②キモファン ③ツンツン
ーここで①を目指しますよー
たぶん、デレデレしていたら、松尾さんだって納得してくれるに違いない。
そうしたなら、俺は松尾さんにとって、溢れる男子と同じになる。特別視するところなど、目を付ける必要だって、少しもなくなる。
松尾さんに気にしてもらえて、嬉しくないはずがないけれど、こんな寿命が縮むような感覚はご免だ。
住む世界が違う人、松尾さんはそういうものだと思う。
二次元のキャラクターと変わらないものだと思う。
それくらいの存在なのだから、近付いてしまうのはいけない。




