グ
作られたツンデレ。
これが可愛いと思えるのは、やはり、コノちゃんだからなのだろう。
その言葉だって嘘ではなかったのだ。どうしよう。
①抱き締める ②突き飛ばす ③目を逸らす
ーここは③を選ぶことしか出来ませんー
恋人でいられるほど、俺は立派ではない。だけどまだ、コノちゃんのことが好きで、恋人でいたいと思ってしまっているのだ。
彼女は待っていてくれると言ったけれど、本当に彼女の王子様になれるとは思わない。
近付くことも遠ざかることも怖かった。
都合の良さを求めているということになるのだろうか?
コノちゃんが好きと、それではいけないのか……。
「何よその顔。好きでいるのはコノだけじゃないのかなって、どうしてもそう思っちゃうじゃん」
目を逸らしてしまったからか、コノちゃんは可愛らしい声を出して来る。
視覚で駄目なら、聴覚から誘惑をしようというわけか。どうしよう。
①抱き締める ②突き飛ばす ③飛び付く
-ここで①を選べてしまうのですー
抑えきれなくて、そのままコノちゃんに近付いて、抱き締めてしまっていた。
ここは学校だというのに。俺たちは、付き合っているわけでもないというのに。
「ちょっと、何をするのよ馬鹿じゃないの? 嬉しくなっちゃうじゃないのよ」
突き飛ばされて、軽くショックを受けていたところに、真っ赤な顔のコノちゃん。
か、可愛い……っ。
「二人って付き合っちゃってる系だったのっ! 気付かなかったんだけどヤバい! 今ここで何やってたの? どうしよ、ウチ、見ちゃったんだけどぉ!!」
「「え?」」
叫び声が聞こえて来て、驚いてそちらを見るが、時間的にも薄らと暗く、だれであるか判別が出来なかった。
あまり聞き馴染みのない声でもあるし、だれなのだろう……。
スキップで近付いて来てくれて、そこでやっとだれだかに気が付いた。
トレードマークとなる、大きな星を頭に付けていて、背が小さめで子供っぽい。髪が肩に少し掛かり、彼女が跳ねる度に揺れるのが、彼女の元気を感じさせて、また可愛らしかった。
彼女の名前は夢前星香。同じクラスの、リア充である。
あまり話したことがないので、どういう子か詳しくは知らないけれど、リア充であるに違いない。
だれだか気付かなかったのは、最初から選択肢の中に入っていなかったからなのだろうな。どうしよう。
①黙らせる ②戸惑う ③堂々とする
ーこれは②以外を選べようがないでしょうー
まずは静かにしてもらわないと。
でもどうするか、どうするべきか、どうしようもない!
だって話したこともないもん。
実は天沢さんみたいに、リア充に見せ掛けて、というタイプなのだろうか?
だとしたら、このテンションで俺とコノちゃんに、話し掛けはしないだろうね。
どう考えても、二人揃って根暗なんだから。
「そんなに動揺しちゃって、怪しいな、増々怪しいなぁ。いっつも一緒にいると思ったら、そういうわけだったのね。だけど、あの、だれだっけ? あんた、他の女のことも一緒にいるよね。意外とモテる、意外とチャラいタイプの子的なこと?」
ビシッと指差されて、彼女は順に俺とコノちゃんを見る。
しかし自覚はあるが、そこまで意外と言わなくたって良いじゃないか。
「え、モテるの? アナタが? 嘘でしょ……?」
隣で意外そうな顔をしている、コノちゃんも失礼だよね。どうしよう。
①反論 ②文句 ③呑み込む
ーここは①を選びましょうかー
さすがの俺でも、ここまで言われっぱなしではいられない。
「俺だってモテるから。モテモテだから! 嘘じゃないもん」
言ってから自分で虚しくなって、後悔した。
コノちゃんもそして夢前さんも、大爆笑をし出すのだからひどい。
会話をすることなんて初めてに近い、夢前さんともずっと仲良しだったようで、俺にはそれが嬉しかった。
男子からの人気だけを集めているとかではなくて、女子だけで絡んでいるとかでもなくて。
クラスの中心で楽しそうに笑っている、だれからも嫌われないタイプである夢前さんは、俺からはかなり距離のある人だ。
コノちゃんが隣にいるってだけで、夢前さんほどの人の前でも、言葉を発することが出来るとは。
やはりコノちゃんの力は強い。
「意外とモテるって思ったら、そんなことなかったか。だけど二人の付き合っている疑惑ってのは、事実だったりしちゃったり? えっへへ、クラスの恋愛事情はウチにお任せ! しっかしまあ、ウチのサポートなしに付き合い始めちゃうとか、超辛いんだけど。今はもう七月だから、前のクラスのときから付き合ってるとか、……そんなことはないもんね?」
さりげなく、彼女との認識の差が表れてしまった。どうしよう。
①合わせる ②逃げる ③吐き捨てる
ーここで②を選んでしまうのですー
怖くなって、コノちゃんの手を掴んで、思わず走り出してしまった。
逃げ出してしまったのだ。
「ね、ねぇっ、手を離してよ。コノが先に逃げるからっ」
手を振り払って、コノちゃんは俺を抜かして走っていく。
俺が逃げるしかなかったように、コノちゃんだって同じだったのだ。
「待って。待って! コノちゃん、どこまで行くのさっ!」
昇降口を過ぎて走っていくコノちゃんを、大声で呼び止めれば、やっと気が付いたというようにコノちゃんの足が止まる。
そうして、疲れた様子で歩いて来る。




