ン
口調も考えろ。これは罠だ。罠に違いない。
だって、現実的に考えてみろ。
美少女系ロリボイスで「はにゃ?」だぞ、聞こえてくるわけないだろ。
罠かまたは幻聴だ。どうしよう。
①無視 ②振り向く ③抱き着く
ーここは②を選びましょうー
恐る恐るながらも、俺は後ろを振り向いて見る。
そこに立っていたのは、悪戯っぽくスマホを掲げたおっさん。とかじゃなくて、本当に先程のロリボイスの持ち主であろう、美少女なのであった。
うちの高校の制服を着ているから、生徒には違いないのだろう。
しかしとても高校生とは思えない、見事なロリっぷりであった。
可愛い。どうしよう、可愛いんだけど。
身長は俺の胸辺りまでしかないから、女子にしても小さい方だと思う。
そしてなんといっても真っ平な胸! 典型的な幼児体型!
雪乃さんも幼児体型だと思うけれど、この子に関しては、全くもって少しも膨らみを感じることさえ出来ないのだ。
それはもう、ロリキャラの中でも、特に幼女系に分類されるほど。
って俺は何をしているんだ。
相手は本物の女子だろうに、何を分類なんてしているんだか。どうしよう。
①仕方がない ②止まらない ③止める
ーここも②を選びますよー
そうは言っても、止まらないのだからどうしようもない。
頭の中で考えている間は、セーフであろうか?
それに、彼女の外見が、二次元から出てきたかのようなのだから、キャラクターとして考えてしまっても仕方がないような気がする。
こんな勝手、失礼だってわかっているけどさ。
もしかしたら俺の幻覚なのではないかと、まだ思ってしまう。
ふわりと広がり、小さなお尻の辺りまで伸びる、真っ黒の長髪。そしてその頭には、ピョコッと二つの耳が生えている。
そう、頭から耳が生えているのである。
髪と同じ黒だから、独特の髪型なのだと考えられなくも……考えられないよね。
どこからどう見ても、猫耳が生えている。どうしよう。
①訊ねる ②触る ③流す
ーここは①しかないでしょうー
この猫耳を放置したまま、話を前に勧めることなど出来るだろうか?
いや、出来ない!
気になることがあまりに多いぞおい。
どなたですかと問われているが、それに答えられるほど頭が追い付かない。
待って。この美少女は何者だ。
「たった一人の部員が彼女です。本名は庄堂珠希というのですが、自身のことはあまり知ってほしくないようなので、余計なことは言わないようにしましょう。それで、彼は〇〇と言って、前に、この部へ勧誘したい生徒がいると話したことがあったでしょう? その彼です」
どちらからも何も言えずにいたとき、髙橋先生が紹介をしてくれた。
文芸部のたった一人の部員。
つまり、入部をしたなら、必然的に彼女と二人きりになれるということ?
この美少女と二人きりで放課後を過ごすことが出来る。
そう考えると中々に夢があるけれど、そのような理由で入部を決めても良いものだろうか。どうしよう。
①入部 ②拒否 ③保留
ーここでも①を選んでしまいますー
美少女と二人きり。部活。
部活をやらずに早く帰宅しても、どうせ一人じゃないか。
心の中の俺のその声が、強く背中を押した。
そうだ。どうせ一人で家にいるなら、学校で放課後を過ごした方が良い。
だって美少女と二人きりだぞ?
「会ってみて安心しました。一気に、文芸部に入りたいって、そう思いましたもの。怪しい人とか、怖い人とかが来なくて良かったです」
俺の言葉は、庄堂さんというらしいこの美少女へ向けてではなくて、髙橋先生へ向けてのものであった。
誘ってくれたのは、あくまでも髙橋先生だからね。
「たまきと一緒に、部活動をしてくれる人ですかにゃ? うにゃ、たまきも、部員が増えるのは、とても嬉しいですにゃん」
先生が許可しても、部員に拒否されたら……。
思いはしたけれど、あっさりと笑顔を向けてくれた。どうしよう。
①笑顔を返す ②自己紹介 ③警戒
ーここは②を選びますよー
紹介はしてもらったけれど、自分でちゃんと自己紹介した方が良いよね。
「初めまして」
「詳しい個人情報まで聞こうとは思いませんにゃ。言いたいなら勝手に言っても構いませんが、たまきは言いませんですからにゃ」
名乗ろうとしたところで、被せてそう言われてしまった。
この口調なども含めて、本当にキャラクターになりきりたいタイプなのだろう。
なりきりにリアルを持ち込むのは外道だ。それくらいのことは、俺だって心得ている。
詳しい個人情報とは、どこからを指すのだろう。
知らないとお互いに不便なこともあるだろうし。どうしよう。
①自分的に ②質問して ③気にしない
ーここは①を選ぶのですよー
自分的に、ボーダーラインだと思うところで止めようか。
必要のないと思うことは、出来るだけ言わないようにすれば良いのだ。
「たまきのことは、たまきって呼んで下さいにゃ。余計なことは考えなくて大丈夫ですからにゃ。えっと、二年生だとお伺いしていますので、たまきは先輩とだけお呼びします。十分ですよね?」
一応は髙橋先生から本名は聞いているのだし、そこも言う必要がないことだったのか。
彼女は互いの呼び方の提案、というか指定を出してきた。どうしよう。
①了解 ②却下 ③微笑む
ーここも①で十分でしょうー
俺に選択の余地はないのか、それを思わないではない。
けれど特に嫌な部分があるわけでもない。
「わかりました。改めてお願いしますね、たまき」
「了解ですにゃ。ありがとうございます、先輩」
甘えるような声で、先輩と言ってくるものだから、それだけで幸せになるような音の響きであった。
こんな魅力的な部活があったなら、最初から入っておけば良かった。
それとも一学期があったからこその、この歓迎ムードなのかな。




