ヱ
「……っ。まだ、木葉のことが好きなのか」
反応でばれてしまったのだろうか。
今まで鈍感だったくせに、キャラを崩した途端に、本当の彼女は敏感だとかそんなのって反則だ。
これだとふられたみたいに思われるんだろうな。
彼女の憐れむような視線が刺さる。どうしよう。
①肯定 ②否定 ③逃亡
ー久しぶりの二つ取り、①と③ですー
この空気には耐えられそうもなかった。
「そうだよ。コノちゃんのことが好きだよ。だけど、だけどっ、全部、俺が悪いから……っ」
事実以上に、深刻に捉えられてしまうのだろうな。
話した方が祭ちゃんに心配させなくて済むのだろうな。
そう思うのに俺のメンタルは弱く、逃げ出してしまったいた。涙が溢れて来そうになっていて、それを見られたらもっと惨めだと思って、最も惨めな選択をしてしまったのだ。
走り出して、店を飛び出していってしまったのだ。
最初から祭ちゃんの奢りという話だったのだから、会計については問題ないだろうけれど、この別れ方で、明日どう彼女と会えというのだ。
明日だって学校があり、同じクラスである以上、会わずにはいられないのに。どうしよう。
①休む ②戻る ③忘れる
ーここで選択するのが③なのですー
祭ちゃんだって察してくれる、信じるしかないか。
忘れたふりをして、何もなかったかのように、振る舞ってみよう。
そうしていたならば、最初は気を遣ってくれたとしても、彼女だってすぐに普通に接してくれることだろう。
仲良くなった、この記憶だけ残しておけば良い。
それで、十分だ……。
だけどどうして涙なんか出てきたのだろう。家に帰ってからも、不思議でならなかった。
友だちが恋人になって、恋人がまた友だちに戻って、けれどそんなものが変わったからといって、二人の中で何かが変わったというわけでもない。
寂しさも悲しさもないと思っていたのに。
思いの外話し込んでいたため、時間が遅かったのもあるが、さすがに今日は気分が乗らなくて、ゲームを手にすることすらなかった。
まさかこんな日があろうとは、一年前の俺は思いもしなかったろうな。
そういえば、逃げ出してしまって、こんな時間に女の子を一人残してきてしまった。
何もないとは思うけれど、祭ちゃん、大丈夫かな……? どうしよう。
①見に行く ②連絡する ③忘れる
ーここも③を選んでしまうのですー
連絡手段はいくつも得たものの、この状態で何をしようもないよね。
考え込むのも辛くなってしまって、遂には意識を手放し、いつもよりも早い時間に眠りに就くことにした。
翌日の学校では、反対に俺が驚くほどに、祭ちゃんは何事もなかったかのように振る舞っていた。
彼女は俺のことを考えた気の遣い方をしてくれたのだ。思うけれど、彼女の様子を見ていると、心配し悩んでいたことがバカみたいに思えた。
これも計算のうちなのだとしたら、彼女は余程手慣れているのだろうな。
無邪気な彼女の笑顔からは、とても想像出来ない姿を想う。
ちなみに、松尾さんと祭ちゃんのことで、すっかり忘れていたけれど、返されたテスト結果は勉強の成果がしっかり表れていた。
こんなにも高得点を取ったのは、高校に入学して初めてのことである。
ここで余談だけれど、全てのテスト結果がわかって、一週間ほどが経った頃、雪乃さんに声を掛けられた。
「ねぇ、頭が良い人表っていうの? それが、教室に張り出されていたの。知ってる? 知ってた?」
かなり興奮気味であるが、言っていることは相変わらずだ。
成績上位者うちの学校では三十人、張り出されているのは当然知っているし、二年生の期末まで、それを知らなかった生徒の方が反対にいないのではないだろうか。
けれど彼女は得意げに続ける。
「そこにね、あんたの名前を見付けちゃったのよ。やっぱり天才的なのね」
「はいはい」
最早、否定するのも面倒で聞き流す。
奇跡的に、得意教科が一教科だけ、ギリギリ三十位以内に入ることが出来たのである。
もしそれが天才的なのだとしたら、校内に何人天才的な人がいることか。
「(´Д`)ハァ…」
知らないうちに溜め息が零れていた。




