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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
クラスメート
117/223

 しかしSNSのアカウントまでを教えてしまうだなんて、危険なのではないだろうか。

 祭ちゃんの目線になって考えてみると、そこまで俺を信頼する理由がない。怪しむのが当然だろう。

 友だちになろう。

 そう言って、先程、無事に友だちになれたわけだけれど、それだけで信じられるものか?

 むしろ、それだけで信じられたからこそ、友だちごっこを真実に出来たということか。

 自分が何か悪いことを企んでいるわけでないのだから、祭ちゃんが信じるということが、間違った選択だというわけではないのだけれど、心配になってしまった。

 それに俺なら、どんなに親しい人だったとしても、全ツール公開なんて絶対に無理だ。

 逆に考えると、彼女は奇妙なアカウントを作っていないだけということかも。どうしよう。


 ①心配 ②ありがたい ③自嘲


 ー残念ながらここは③を選びますよー


 そう考えると笑えて来るね。

 俺みたいに、黒歴史を現在進行形で更新し続けている人は、そういるものでもないのだろう。なのに、自分だったら恥ずかしくて無理だとか、そんなことを考えている時点で痛い。

 所詮はそれが俺の思考回路ってことだな。

「あっ、でも、アカウントを教えてもらっても、俺がそんなにやっていないから。待って、見るだけでも、アカウントを作らなくちゃいけないよね」

 これは嘘である。

 極めて自然な演技が出来ていたんじゃないかと思う。ナイス俺。

 リア垢だなんて、縁がないことだと思っていたし、作ったところで俺なんかじゃ役に立たないと思っていた。

 俺みたいな奴にリア垢は不要だ。この自意識過剰め、気持ち悪い。

 それで終わることと思っていた。

 だから厨二垢と趣味垢の本垢と裏垢の二種類、あとは今はほとんど使っていないけれどなりきり垢も持っている。計四つだ。

 初心者みたいな顔をしてみたが、全くもってそんなことはない。

 けれど、どれも現実での知り合いには、何があっても見られたくないものばかりだ。

 ネットの中だから、ネットの中での相手とだから、言えることというものだってある。

 そういうわけで、本当はわかっているのだけれど、祭ちゃんにわざわざレクチャーを受けながら、俺はリア垢というものを手にした。

 お察しの方も多いと思うが、青の中に白い鳥のマークの、あの某SNSの話である。どうしよう。


 ①曝け出す ②あくまでも貫く ③嘘は吐けない


 ーこれは余裕で②を選びますよー


 罪悪感があるものだから、嘘なんて吐けない。騙してなんかいられない。

 というほど、俺は素直な良い子ちゃんじゃない。

 これくらいの嘘、だれだって吐いているだろう? その程度の認識だ。

 それに、祭ちゃんだって、全部とは言っているけれど、他にも裏垢とかを持っているかもしれない。

 どこまでも素直な彼女の姿は、嘘だったのだと判明したのだから。

「無理にあたしの呟きなんかのために、始めることはないと思うんだけどな」

「いえいえ。友だちは何をしているのだろうか、とか、気になるものなんじゃないかな? それに、祭ちゃんのことをせっかく知れるんだから、それって嬉しいし、そういうの無駄にしたくないじゃん」

 作り笑顔で明るく告げる。

「嫌だったら、それこそアイドル気分になると良いよ。今までのように、俺のことは、祭ちゃんの熱狂的なファンなのだと思えば良い」

 ここまで言っても、まだ納得がいかない様子で、祭ちゃんは首を傾げていた。

 どういうわけなのだろう。

 嘘ではなくて、とぼけているわけでもなくて、本当に理由がわからなかった。

 わからなかったから、”笑顔”と”セリフ”でどうにか納得してもらおうとしたのだ。

 模範解答ならば、感動はさせられなくとも、間違えはないと思ったから。

「嫌ってわけじゃないんだけどさ、なんか、あれじゃね? その言い方だと、友だちって言うよりも、恋人みたいだな……なんて思っちゃって」

 祭ちゃんが首を傾げていた理由はそれだったのか。

 全く俺の中にはない発想だったため、驚きと戸惑いと、なぜだか照れとが俺を一気に満たしていった。

 何をしているのか、一々気になるのは、確かに友だちとは言えないかもしれない。

 そう言われてみたなら、そうなのかもしれない……。どうしよう。


 ①照れる ②否定する ③肯定する


 ーここは③を選んで行ってしまいますー


 そうだと言われてしまったら、そうとしか思えなくなってしまうのが、人間の脳の悪いところである。

 否定をしたなら、変に現実味を持たせてしまうだけだな。

「そう、だね。気付かなかった。ごめん、そりゃ嫌に決まっているよね」

 笑い話に纏めようと思っていたのに、上手くいかなかった。

「別に嫌ってわけじゃない! 嫌じゃ、嫌じゃないよ。元々、丁寧で悪い人ではないんだろうなって思ってたけど、冷たい人なんだなとも思ってた」

 しんみりさせてしまったから、話が変な方向へ行ってしまうのだ。

「だけど、今日のお節介を見て、案外、そういうわけじゃないんだってわかった。本当に根っからの良い人なんだって、だからこそ、いつも距離を置いているんだってわかった。だからあたし、嫌だとか、間違ってもそんなことは思わないぜ?」

 この空気に押されて、本心でもないことを、口走ってしまったのだ。

 そうだ。そうに違いない。

 だってそうじゃなけりゃ、おかしいじゃないか。このままじゃ、祭ちゃんが、俺のことを好きだってことになってしまう……。

 恋人としての、好きだってことになってしまう。

 そんなはずはないというのに。どうしよう。


 ①好きなふり ②嫌いの裏返し ③空気のせい


 ーここは①の説を疑うことになりますー


 友だちと恋人では、抱く感情は全くと言っていいほどに違う。

 けれど友だちと思い込むために、少しでも好意的に思おうと、好きなふりをしてくれているのかもしれない。

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