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しかしSNSのアカウントまでを教えてしまうだなんて、危険なのではないだろうか。
祭ちゃんの目線になって考えてみると、そこまで俺を信頼する理由がない。怪しむのが当然だろう。
友だちになろう。
そう言って、先程、無事に友だちになれたわけだけれど、それだけで信じられるものか?
むしろ、それだけで信じられたからこそ、友だちごっこを真実に出来たということか。
自分が何か悪いことを企んでいるわけでないのだから、祭ちゃんが信じるということが、間違った選択だというわけではないのだけれど、心配になってしまった。
それに俺なら、どんなに親しい人だったとしても、全ツール公開なんて絶対に無理だ。
逆に考えると、彼女は奇妙なアカウントを作っていないだけということかも。どうしよう。
①心配 ②ありがたい ③自嘲
ー残念ながらここは③を選びますよー
そう考えると笑えて来るね。
俺みたいに、黒歴史を現在進行形で更新し続けている人は、そういるものでもないのだろう。なのに、自分だったら恥ずかしくて無理だとか、そんなことを考えている時点で痛い。
所詮はそれが俺の思考回路ってことだな。
「あっ、でも、アカウントを教えてもらっても、俺がそんなにやっていないから。待って、見るだけでも、アカウントを作らなくちゃいけないよね」
これは嘘である。
極めて自然な演技が出来ていたんじゃないかと思う。ナイス俺。
リア垢だなんて、縁がないことだと思っていたし、作ったところで俺なんかじゃ役に立たないと思っていた。
俺みたいな奴にリア垢は不要だ。この自意識過剰め、気持ち悪い。
それで終わることと思っていた。
だから厨二垢と趣味垢の本垢と裏垢の二種類、あとは今はほとんど使っていないけれどなりきり垢も持っている。計四つだ。
初心者みたいな顔をしてみたが、全くもってそんなことはない。
けれど、どれも現実での知り合いには、何があっても見られたくないものばかりだ。
ネットの中だから、ネットの中での相手とだから、言えることというものだってある。
そういうわけで、本当はわかっているのだけれど、祭ちゃんにわざわざレクチャーを受けながら、俺はリア垢というものを手にした。
お察しの方も多いと思うが、青の中に白い鳥のマークの、あの某SNSの話である。どうしよう。
①曝け出す ②あくまでも貫く ③嘘は吐けない
ーこれは余裕で②を選びますよー
罪悪感があるものだから、嘘なんて吐けない。騙してなんかいられない。
というほど、俺は素直な良い子ちゃんじゃない。
これくらいの嘘、だれだって吐いているだろう? その程度の認識だ。
それに、祭ちゃんだって、全部とは言っているけれど、他にも裏垢とかを持っているかもしれない。
どこまでも素直な彼女の姿は、嘘だったのだと判明したのだから。
「無理にあたしの呟きなんかのために、始めることはないと思うんだけどな」
「いえいえ。友だちは何をしているのだろうか、とか、気になるものなんじゃないかな? それに、祭ちゃんのことをせっかく知れるんだから、それって嬉しいし、そういうの無駄にしたくないじゃん」
作り笑顔で明るく告げる。
「嫌だったら、それこそアイドル気分になると良いよ。今までのように、俺のことは、祭ちゃんの熱狂的なファンなのだと思えば良い」
ここまで言っても、まだ納得がいかない様子で、祭ちゃんは首を傾げていた。
どういうわけなのだろう。
嘘ではなくて、とぼけているわけでもなくて、本当に理由がわからなかった。
わからなかったから、”笑顔”と”セリフ”でどうにか納得してもらおうとしたのだ。
模範解答ならば、感動はさせられなくとも、間違えはないと思ったから。
「嫌ってわけじゃないんだけどさ、なんか、あれじゃね? その言い方だと、友だちって言うよりも、恋人みたいだな……なんて思っちゃって」
祭ちゃんが首を傾げていた理由はそれだったのか。
全く俺の中にはない発想だったため、驚きと戸惑いと、なぜだか照れとが俺を一気に満たしていった。
何をしているのか、一々気になるのは、確かに友だちとは言えないかもしれない。
そう言われてみたなら、そうなのかもしれない……。どうしよう。
①照れる ②否定する ③肯定する
ーここは③を選んで行ってしまいますー
そうだと言われてしまったら、そうとしか思えなくなってしまうのが、人間の脳の悪いところである。
否定をしたなら、変に現実味を持たせてしまうだけだな。
「そう、だね。気付かなかった。ごめん、そりゃ嫌に決まっているよね」
笑い話に纏めようと思っていたのに、上手くいかなかった。
「別に嫌ってわけじゃない! 嫌じゃ、嫌じゃないよ。元々、丁寧で悪い人ではないんだろうなって思ってたけど、冷たい人なんだなとも思ってた」
しんみりさせてしまったから、話が変な方向へ行ってしまうのだ。
「だけど、今日のお節介を見て、案外、そういうわけじゃないんだってわかった。本当に根っからの良い人なんだって、だからこそ、いつも距離を置いているんだってわかった。だからあたし、嫌だとか、間違ってもそんなことは思わないぜ?」
この空気に押されて、本心でもないことを、口走ってしまったのだ。
そうだ。そうに違いない。
だってそうじゃなけりゃ、おかしいじゃないか。このままじゃ、祭ちゃんが、俺のことを好きだってことになってしまう……。
恋人としての、好きだってことになってしまう。
そんなはずはないというのに。どうしよう。
①好きなふり ②嫌いの裏返し ③空気のせい
ーここは①の説を疑うことになりますー
友だちと恋人では、抱く感情は全くと言っていいほどに違う。
けれど友だちと思い込むために、少しでも好意的に思おうと、好きなふりをしてくれているのかもしれない。




