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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
クラスメート
115/223

 呼び方のことだって、何か他のものと言うだけで、自分からは案も出さない。

 挙句の果てには、今すぐ実行する自信はないだなんて。どうしよう。


 ①撤回 ②強引に ③慎重に


 ーここは③になってしまうのですー


 もっとすぐに答えを返してくれると思っていたのに、思いの外、祭さんが悩んでいるようだったので、俺は自分の発言を撤回してしまいそうだった。

 俺にとってしてみれば、ヘタレなこの確認さえも、勇気を出したものである。

 なのだから、怖くなってしまっていけなかった。

 自分にとっての友だちが、理想論となっていて、本当の友だちというものから遠ざかってしまっていただろうか。

 不安になってしまって、祭さんの反応を見る。

「お前ぇの方から言ってくれるなんて、あたしは嬉しいぜ。ずっとあたしもそう思ってたんだよ。なんで、同じクラスなのに、敬語なんて使ってんのかなぁって。呼び方も、花空さんから祭さんになったから、マシなのかと思ってたけど、やっぱそうだよな!」

 表情が曇っていたように見えたが、そんなのは見間違えだったのかと思うほどに、彼女は明るく笑う。

 そういえば、修学旅行の予定を立てているときだったか、愛称で呼んでくれと言っていた。

 それだけ前から彼女はそう提案してくれているのに、今更になって、俺は何を言っているんだか。どうしよう。


 ①愛称で ②呼んで欲しいように ③今までどおり


 ーここでは②を選びますよねー


 傷付かないよう、自分を守ろうとする意識が、あまりにも大きい。

 客観性を持ち合わせていない、本人の目から見てもそう取れるほどだ。

「それで、祭さんはどのように呼んで欲しいのですか? 物凄く恥ずかしいとかじゃない限り、祭さんが呼んで欲しいように、俺は呼ぼうかなと思うんだけど」

 呼ばれる側の彼女がどう思うか不安だから、最初から本人に聞いてしまおう。

 そうだ。これもまた、臆病な俺の自己防衛だったのだ。

 被害者になってしまうのは恐ろしいことだけれど、加害者になってしまうことは、より恐ろしいことなのだから。

 だから俺は、彼女に嫌な思いをさせないようにと、祭さんを口実にした。

「おう。そう言われると、悩むなぁ。別にあたしは、祭ちゃんとか、そんな感じで良いからさ。特別どう呼んで欲しいとかじゃなくて、さんだと、距離があって嫌かなって思うだけ」

 祭さんが祭ちゃんに変わるだけ。そこまで高いハードルじゃないだろう。

 半ば言い聞かせているようなところもあったが、俺は頭の中で繰り返す。

 祭ちゃん。さんがちゃんになるだけ。ハードルは低い。

 何度もそう繰り返して、彼女の方を向き直る。どうしよう。


 ①祭ちゃん ②祭さん ③その他


 ー僕は③が気になりますが、ここは①ですー


 愛の告白をしようっていうんじゃないんだ。何をこんなに緊張しているんだ。

 ただ、名前を呼ぶってだけだ。

「祭ちゃん。これで、良いかな?」

「おー! 良い! それ、なんか良い!」

 良いかなってどういう意味だよ、自分でツッコみたかったところだが、どうやら祭ちゃんはそれで良かったらしい。

 興奮気味に立ち上がって、なぜか絶賛だった。

 俺としては、何を絶賛されているのか、さっぱりわからないわけだが。

「これからちゃんと祭ちゃんだからな。ここでだけとかじゃなくて、学校でもだから。わかったな!」

 なぜか念を押してから、祭ちゃんはにっと笑った。

 彼女の笑顔に可愛いと思ってしまうけれど、コノちゃんに隠す必要のない感情だ。もう恋人ではなくなってしまっているのだから、どんな感情も、隠す必要はなくなってしまったけれど。

 そういうことではなくて、どう表現したら良いのだろう。

 幼稚園生の男の子を相手しているような、元気いっぱいで可愛いなって、そういうイメージ。

 一応、言っておくけど、断じて俺はショタコンじゃないからな。

 ロリコンはほんの僅かとはいえ、要素がなくはないから、男の子に変えたんだというくらいショタコン要素は全くないから。

 とにかく、見惚れるあの笑顔とは違って、素直に可愛いと感じたのだ。どうしよう。


 ①本人に言う ②目を逸らす ③写真を撮る


 ーここはなんと③を選ぶのだそうですよー


 自分でも驚くことに、携帯を取り出して写真を撮ってしまっていた。

「え、急に何してんの?」

 予想外の行動をするにしても、限度というものがあるだろう。口を開けたままの彼女は、表情からそう物語っていた。

 たぶん、逆の立場だったら、俺もそうなるだろう。

 けれど作り笑顔とは全く違う、彼女の笑顔を、写真に収めておきたいと思ったのだ。

 そうすることでしか、俺は本当の笑顔を覚えてはおけないからなのかもしれない。

 作られて、貼り付けられた表情の方が、わかりやすく顔にくっ付いている。

 だからどうしても、そちらの方を覚えてしまうだろう。

 そんな俺だからこそ、彼女の笑顔を見たときに、このまま残しておきたいと思ってしまったのだろう。

 そのためには、彼女に許可を取る暇なんてなかった。

 写真を撮っても良いかと、確認をしていたなら、レンズに映る頃にはもう作り笑顔に変わってしまっている。

 俺が欲しい表情とは、異なるものになってしまっている。

 惜しかった。記憶で撮るだけじゃ、惜しかったのだ。どうしよう。


 ①説明する ②適当な理由を ③何も言わない


 ーここは②を選ぶんですってねー


 本当の理由を言ったところで、きっと伝わりはしないだろう。

「いや、祭ちゃんが可愛かったもので、つい写真を撮っちゃってたよ。いけませんでしたか?」

 真実だというふりさえせずに、少しは彼女を見習えと思うほどに、完全なる作り笑顔で俺は告げた。

 可愛かったから、だなんて。


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