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高校生なら、もっと青春らしい雰囲気というものがあったろうね。
笑えてくるし、泣けてくるよ……。
「ところで祭さんからは、どのような条件を持っていたのです? 松尾さんと同じように、祭さんもそれ相応の条件を持って、友だちごっこを始めたのでしょう? 嫌でなければ、それもお聞かせ頂けたらと」
話の進みを急かすようなことをして、彼女の気分を悪くさせてしまったろうか。
大人しく話を聞いていても、彼女の方から話してくれただろうし、そうしないのだとしたら、彼女が話したくないと思っているということだ。
興味本位で踏み込もうとしたことを、反省する。どうしよう。
①謝る ②訂正する ③黙る
ーここで選ぶのは③なのですよねー
黙り込んでしまう。反省の沈黙であるのだが、よく考えたなら、それは自己防衛。
そして祭さんにとっては、更に話を急き立てることでもある。
「あたしを人気者にしてくれ、とな。あたしとクリスが友だちであると信じることにより、あたしは人気者になれたし、クリスは正直者になれたんだ。現実はともかく、少なくとも二人の中ではさ」
祭さんが人気者であるということ。松尾さんが正直者であるということ。
この二点は、二人の中で、絶対的な前提条件となったのか。
だから松尾さんは言葉のわりに、悪気という概念は持ち合わせていないようだった。人を弄ぶようなことも、平気で言えた。
そしてその後ででも、何も変わらなかった。
なぜなら彼女の中で、あの嘘は真実であったから。どうしよう。
①松尾さんに謝る ②祭さんに謝る ③二人に謝る
ーここも③を選択させて頂こうと思いますー
今は祭さんの話を聞いている途中だけれど、話が終わったら、きちんと謝らなくてはいけないな。
次に学校で会ったときにでも、松尾さんにも謝らなければいけないだろう。
何も知らないのに、勝手に彼女を悪者だと決めつけてしまっていた。
「最初のうちは不自然だったろうが、決めたからには、慣れるに連れてそれを真実に変えていけた。嘘が真実になることにより、嘘は嘘じゃなくなった。だから、クリスが嘘吐きでないというのも、真実に思えたんだよ。真実になっていったんだ」
もし嘘を真実にすることが出来たとして、だからといって、嘘吐きが嘘吐きでなくなるだろうか。
結果論として、彼女は嘘を吐いていなかったと纏めることも出来よう。
しかし彼女の口から出たその時点で、真実でなかったことに違いはないのだ。だのに……。
「気持ち悪いか? そうだろうな。友だちごっこなんて、意味わかんないよな。設定を作るだとか、阿保らしいよな。はは、あたしたちの間でだけ楽しめていれば良かったんだけど、……二人になるには、クリスはあまりに可愛かった」
設定を従順に守ろうとしていたからといって、そう簡単に、自分の性格までを変えられるものだろうか。
少し前の俺からしたら、祭さんの口から出ただなんて信じられない言葉ばかりが、これまたイメージとは異なる表情を浮かべた彼女から溢れてくる。
どれも、祭さんらしいとは思えないものだった。
その”らしい”というものが、本当の彼女が隠された上で、作られた設定であるとしてもだ。どうしよう。
①気持ち悪い ②共感する ③黙る
ーここでは②を選ぶんですねー
……俺もそうなのだろうか。
自分では全く想像も出来ないような像が、だれかの中では出来上がっているのだろうか。
他人から指摘されなければ気が付かないような、作られた設定というものがあるのだろうか。
彼女の姿を見ていると、自分のことも、心配になるのだった。
「とても、気持ち悪いとは思えませんよ。俺だってきっと、ずっと欲していたものに違いありませんから。祭さんと松尾さんには、利害が一致する相手がいた。そして俺にはいなかった。それだけの差で、友だちと呼べる人、を求めていたことに差はないと思うのです」
「そうかよ。変なことを言うんだな。変なことを言っているのは、お前ぇもそうだろうけど、あたしもそうなんだろうな。変わろうとしている今なのに、凝りもせずに、お前ぇと友だちらしくいられたら、なんて思っちまうよ」
友だちらしく。祭さんのその表現から聞くに、それも友だちごっこを示しているのだろう。
本物の友だちとなることは、どうして彼女は望んでくれないのか。
そのような思いが湧いて、俺は思う。こういうのを、他の人から見て、俺らしくないと思うのだろうな。
無干渉を望んでいるのは、俺から見てもそう思えたし、外から見てもそう思われているだろう。
これでも友だちが欲しいのだと言ったら、それこそおかしな話だろうか。
おかしな人と思われてしまうだろうか……? どうしよう。
①友だちになりたい ②恋人になりたい ③このままの関係を
ーここで選ぶのは①なのですよー
それでも、最初の頃は、多少くらいおかしいと思われてる方が良い。
ああむしろそうなのだと、開き直った方が進めやすかろう。
「友だちらしくじゃなくって、友だちになる、というのはいかがですか? 俺と祭さんとで、本当の友だちになるのです。いけませんか?」
お互いの意見を確認し、許可を取ってから友だちになるだなんて、きっとこれだっておかしな話なのだろうな。
俺たちの中にあるのは、おかしなものばかりなのだ。
何もかもが、既に歪んでしまっているのかもしれない。
「本当の友だちか。あまり自信がないけど、すごく、それが出来たら、すごく楽しそうだな」
笑顔で告げた彼女のその答えは、肯定であるのか否定であるのか、俺には判断が出来なかった。




