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斯くして、俺は祭さんの奢りで、一緒に夕飯を食べることとなった。
祭さんの希望によりファミレスに入り、メニューを手に取る。注文を済ませてから話を始めようというのは、祭さんの提案であった。
彼女曰く、注文もせず、ただ話し込んでいるのは気まずいのだそう。どうしよう。
①せっかくだし高いのを ②最も安いのを ③食べたいのを
ーここも③を選択するというわけですよー
本来ならば安いものを選択するべきだろうが、彼女は少ししか遠慮しなくて良いと言った。
その言葉に従って、遠慮せずに好きなものを頼むのだ。
変に安いものを注文してしまったとしても、反対に気を遣っているとして、彼女に良い思いをさせないようにも思えるし。
嫌がらせと同じくらい、苦笑いが傷付くのだということが、ずっとぼっちだった俺にはわかっている。
無駄に壁を作るくらいならば、いっそ、本当に欲しいものを伝えよう。
「これ、お願い出来ますか?」
「おうよ。それくらいなら払ってやれる」
男らしく胸を叩いて、祭さんは注文を済ませてくれた。
そしてこちらを向いて、ニッと笑う。元気で明るいのに、いつもとは違うように思えるのだから、恐ろしかった。
そう思わせる祭さんがか、そう思う俺がかはわからないが。
「で、クリスとあたしの関係、だっけか?」
傷付いているような様子は、表情からは少しも感じない。どうしよう。
①一気に聞き出す ②少しずつ聞き出す ③止めた
ーここは②を選択しますよー
平気そうな顔をしている方が、傷付いているに決まっている。
取り繕っているという様子ではなく、もう良い、そんな態度であるように感じられた。
開き直っているとも取れる、自衛のようにも思える、そんな……。
「一方的にクリスがあたしを玩具にしているだとか、利用しているだとか、そう思っているかもしれないけれど、全て双方の合意の先で成り立っているものなんだ。というのもこれは、あたしも、クリスも、友だちがいないところから拗れた、友だちごっこだからさ」
友だちごっこ。
普通の人から見たら、それは相当に、気味の悪いものに思えるのだろう。
しかし同じく友だちがいない学校生活を過ごしていていた俺には、ごっこでも、友だちを望む気持ちは痛いほどにわかった。
それをする相手さえいなかったものだから、俺もそうだったとは言えないが。
魅力的な取引であり、お互いに友だちがいなかった場合、そして両方とも友だちを求めている場合にのみ成り立つものだということも、理解は出来る。
あくまでも「友だちになろう」じゃなくて、「友だちごっこをしよう」というところが、その言葉が現実であることを示す。
本当に友だちという存在になれていない人でなければ、浮かばない発想だからだ。
「そうだったのですか。でしたら、俺のしたことは、余計なことでしたか?」
祭さんの気持ちも同じところへ寄っているのだとしたら。
そう考えて尋ねてみれば、幸い彼女は首を横に振ってくれた。
幸い。その言葉が正しいものであるかどうかはともかくとして。どうしよう。
①掘り続ける ②少しは埋める ③全て埋める
ーここは①を選んでしまうのですねー
けれど彼女の言葉の真実を信じるならば、幸いは正しいこととなる。
彼女の言葉を疑うことを正とはいえないから、つまりは、このまま続けるということが正しい選択ということにも繋がる。
自分の行動に無理矢理な理由を付けて、俺は祭さんに向き直った。
「いつまでも友だちごっこを続けているってのも、お互いのために良くないかもしれないしな。完全に入り切っていた今のあたしたちでは、気付けなかったことだけど、そう思うとお前ぇがいてくれて助かったや」
まっすぐに言った後に目を逸らすと、祭さんは水を飲みほした。
「クリスは嘘を吐かない。それも、最初に決めた設定。つい嘘を吐いてしまって、それを後悔するということを繰り返し、彼女は悩んでいたようだったから、あたしが全ての言葉を信じると言ったのだ。あたしが真実として捉えるから、嘘を思い悩む必要はないのだと」
つい性格上、大袈裟に言ってしまう人がいるように、松尾さんは話を盛る、それを過ぎて嘘を言ってしまう性格の人だ。そういうことだろう。
彼女の場合がどうであるかはわからないが、プライドが高いからだとか、良い顔をしたいだとか、大抵の理由はそう言ったものだと聞く。
この話を聞く限りは、お互いに設定を作り合って、傷付かないようにと蓋をし合ったということだろうか。
だからこそ、あくまでも友だちごっこである必要があった。どうしよう。
①相槌を打つ ②黙って聞く ③耳を塞ぐ
ーここは……②なのですー
祭さんが松尾さんの嘘を一つでも認めたとき、その設定がなくなってしまうから、それで彼女の言葉が全て嘘であることになる、祭さんはそう言っていたのだ。
最初の頃は、何を言っても祭さんが察するということをしなかった。
その理由もこの設定から来ているものだったのだろう。
なるほど。へぇー。そうなんだ。うんうん。
得意の相槌も、得意の作り笑いも、今日は苦手になっているようであった。
真剣な顔をして、彼女の話に聞き入ってしまう。
自分から始めておいて、粗雑には出来ない。責任感を感じている節もあったのかもしれない。
彼女の様から、感化を受けてしまっただけなのかもしれない。
理由は何にせよ、ファミレスで夕食を取る、高校生の男女というには、周囲には奇妙に映っていたことだろう。




