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「どうしてって言われても、それがあたしだからとしか」
質問の答えはそれであった。
彼女でもわかっていないということがわかったのは、収穫ではあるけれど、何も情報を得られなかったのは話を進めづらい。
二人は結局、どういう状態なのだかがわからないのだ。どうしよう。
①探る ②考えさせる ③考える
ーここで選ぶのは①ですねー
それが祭さんだとは、どういった意味が込められた言葉なのだろう。
「お二人のお話を聞かせて頂けると嬉しいのですが。このままだと、祭さんに良くないと思うのですよ。ですから、ですから……、ここで話すのはなんですし、どこかファミレスへでも行きませんか?」
下心があったわけでなく、教室から離れた方が良いと思ったし、座って話せたら良いと思っただけなのだが、女子を二人きりで連れ出すというのは厳しいところがあった。
そんな意識はなかったというのに、誘う寸前で気付いてしまうのだから困ったものだ。
「ん、そうだな。お前ぇの言うとおり、だれもあたしには着いて来てくれないようだし。クリスさえ残っているなら、あたしが学校を去ったところで、だれも気付きゃしないんだろうな」
だれも祭さんには着いて来ない、それは俺が言った言葉に違いないけれど、そうして祭さん自身に繰り返されてしまうと、申しわけなく思えてならない。
相手が祭さんだからこそなのだろう。
きっと相手がコノちゃんだったら、こんな気持ちにはならなかった。
明るい祭さんだからこそなんだ。どうしよう。
①励ます ②去る ③目を逸らす
ーここは③を選んでしまいますー
罪悪感が、俺のことをひどく責めた。
ここで優しい言葉の一つでも掛けられたなら、少しでも救われたことだろう。俺も祭さんも、あと少しくらいは救われたのだろう。
けれど俺はそうせずに、何も言わないで教室へ入った。
そうして彼女が戸惑っている間に、教室から持って来た彼女の鞄を渡す。
「ん、ありがと。お前ぇは優しいんだな」
優しいことをしているとは到底思えないのに、彼女は俺にそう言った。
無言で歩き出す俺の後ろを、これまた無言で着いて来た。
「遠くから見ていると、祭さんと松尾さんは、とても仲の良い親友かのように見えます。お互いに想い合っているかのように思えます。ですのにおかしなことで、お二人の話を聞くと、特に祭さんの方面から話を聞くと、とても友とは呼べないような関係性が見えてしまうのですよ。どこかが妙に思えるのです。このような考えの方が妙だと思えるほどに、一見すると自然な友情に見えるのですけれどね」
校門を過ぎた頃、彼女を振り返りもせずにただ歩き、独り言のように呟いた。
「そうか」
返事を返してくれたから、言葉は祭さんに届いてくれているらしくて良かったが。
いや。聞こえていない方が、良かったのかもしれない……。
どちらが良いのかはわからないが、いっそのこと、この機会だから伝えてしまおう。二人の関係を壊したいわけではなく、俺の感じたことを伝えようとするだけだ。
それで壊れる関係なら、きっと壊してしまうのも正しい道なのだろう。
もしそれでも二人が仲良くあるというのなら、本当に彼女たちの友情の形なのだろう。どうしよう。
①正当化 ②自己満足 ③正論
ーここは①になってしまいますー
自分の行動を正当化しているだけの、つまらない考えだとは思うが、適当な理由を付けておくことは必要だった。
「お前ぇがしてくれてること、ありがたいってあたしは思うぜ。だから、値段にもよるけど、お代はあたしに奢らせてくれ」
この真面目な人を、これ以上、傷付けようとしているのだから、その罪悪感を真っ向から受けるなんて出来るものか。
同じことを言うにしても、自分へのダメージを減らすために、心の中で自分を守らなければならないのだ。
正しいことをしているのだと思い込ませようとしているんだ。
そこまで含めて彼女のためみたいな顔をして、俺のための考えも用意しているのだ。
「遠慮しなくて良いぜ、少ししか」
俺が奢ってもらうのを悩んでいるのだと勘違いしたのか、後ろを歩いていたところから、小走りで俺の隣に並んで、明るい笑顔を見せて彼女はそう言ってくれた。
少ししかと付けるところが良いよね。どうしよう。
①奢る ②割り勘 ③奢ってもらう
ーここは③を選びますよー
彼女がそう言ってくれているのだし、言葉に甘えておくべきなのだろう。
せっかくの提案を断ってしまうのは、彼女にも悪いことなような気がするし。
「ありがとうございます。では祭さんに、夕飯をご馳走になってしまいましょうかね」
「えっ、夕飯? そこまでのつもりじゃなかったんだけど! 絶対、高いのは頼むなよ」
「わかっていますよ。節約主義なので、自分の財布からでなくても、無駄遣いは好みませんよ」
「そうか、それなら良かった。お前ぇが夕飯を食うんじゃ、あたしも一緒に食っちゃおうかな」




