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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
恋人と友だちと知り合いと、初めましての微笑みを。
102/223

 夏休みまで予定はぎっしりとは言っていたが、予想以上のものだった。

 彼女曰く、確実に一日中開いているのは、八月八日にまでなるとのこと。どうしよう。


 ①了解 ②もっと早く ③その日は無理 ④断る


 ーここでいったんは②を選ぶのですねー


 予定なんてないと思うから、その日に関わらず、俺は大丈夫だろう。

「もっと早く出来ないんですか?」

 忙しいのだ、わかっている。

 けれどそう言わずにはいられないじゃないか。

「ごめんなさい。私の都合に合わせてもらっちゃって、申しわけないと思います。いけませんでしたら、何か断っても良さそうな予定を断って、優先させても良いですけど」

 申しわけなさそうにして、天沢さんはそう言ってくれる。

 先に俺と約束していたなら、その日に予定を入れないようにしてくれるのは、まだわかる。

 なのだけれど、元から予定が入っていた日なのに、それを断って俺と約束をしてくれようとしているのか?

 なんとも嬉しいことだろうか。どうしよう。


 ①俺優先 ②大丈夫 ③行かない


 ー普通に②ですよー


 優越感は得られるだろうが、やはりそれでは悪かろう。

 断っても良さそうな予定というのが、どの程度のものかわからないけれど、俺のわがままのために予定をずらしてもらおうだなんて。

 ましてや断らせるだなんてこと、許されようがない。

「いえ、別に大丈夫ですよ。早く行きたいのは、どちらかと言えば、天沢さんの気持ちでありましょうし」

「そうなんですよね! 正直、優先したい気持ちは、私も強く持っています。でもとりあえずは決定ということで良いですよね。そしたら、勉強を始めるとしましょう」


 天沢さんの教え方はわかりやすく、先生に教わるよりも、むしろ良いのではないかと思えるほどだった。

 自分でも信じられないほど、集中して勉強をすることが出来、満足満腹で俺は家へと帰って行った。

「時間も遅いですし、どうせ二人とも一人暮らしなのですから、私の家に泊まって行っても良いですけど。そのまま、そういう流れになっても、私は構わないとすら思っているんですよ?」

 冗談ではなくて、本気の顔で彼女がそう言っていたのが、どうにも気に掛かるけれど……。

 いつものように遊んでいるという表情じゃなかったのだから、断って家に帰ったけれど、どうにも忘れられようはずもない。

 どうして天沢さんはそんなことを言ったのだろう。


 そのことで、翌日も頭の中がいっぱいだった。

 超絶美女め。どう意識せずにいろっていうんだよ。

「随分と上の空だけど、どうかした? 何かあったの?」

 鋭いもので、コノちゃんに指摘されてしまった。

 でも彼女じゃなくても、俺に声を掛けるような人がいないというだけで、気付いてはいることだろう。

 先生にも何度も注意をされてしまったし。どうしよう。


 ①本当のことを ②嘘を ③無視を


 ーここでも②を選んでしまうのですよねー


 出来ることならば、コノちゃんに嘘は吐きたくないと思っている。

 しかしここで本当のことを正直に答えてしまって、コノちゃんを傷付けずにいられるだろうか。

 ときには、嘘の方が傷付けることもなく、より優しくある。

「いや、ちょっと、寝不足でね。昨日はついつい、遅くまでゲームをやっちゃったんだ」

 俺にしては珍しく、昨日はゲームを全くプレイしていない。

 眠れなかったから寝不足ではあるが、原因はゲームではない。

「テスト前なのに、気を付けなくっちゃ駄目だよ?」

 信じてくれたようでもあるが、まだ疑っているようでもある。

 コノちゃんの微笑みに不安を覚えるのは、暑いからだけではなくて、嫌な汗を掻いているのは、隠しごとをしているせいだろうか。

 自分がコノちゃんに知られてはいけないことをしていると、そう認識しているからだろうか。

 俺は天沢さんのことを意識してしまっている。それどころか、彼女とのことを、コノちゃんに隠した。

 堂々としていられなかった。

 本当に悪いことはしていないと思うなら、もっと堂々としていれば良いのに。

 今ばかりは、コノちゃんと一緒にいることが嫌に思えた。

 どう転んでも、俺は彼女を裏切ってしまうことになるから。どうしよう。


 ①謝る ②逃げる ③誤魔化す


 ーここで③を選んでしまいますー


 隠せば隠すほどに、嘘が重なり、罪も重なるとは理解している。

 それでも最初ならばまだ言えたことも、引き返せない場所になっては、素直に謝ることさえ出来なくなってしまう。

 今が最後のチャンスだと思うのに、俺は照れたように笑う。

「勉強も頑張っているよ。雪乃さんも助けを要しているかもしれないし、コノちゃん、今度一緒に雪乃さんのところに行ってみようか。俺、コノちゃんと一緒にいられるの嬉しいし、だけど二人きりは、緊張しちゃって勉強にならないと思うしさ」

 結局、天沢さんの名前を出すことは、一度もしなかった。

 コノちゃんは、天沢さんのことをどこまで知っているのだろうか?

 あれだけの美女だし、ファンがたくさんいるというのだから、一つ上の先輩だとしても、知っているものだろうか。

 しかし天沢さんについて知っていればいるほどに、俺が彼女の部屋へ行ったり食事したりしていることは、思いもしないことだろう。

 天沢さんがあれだけ気を遣っていれば、噂になることはあるまい。

 ならばコノちゃんに知られることも、あるはずがないと考えられよう。

 だけれど、隠れて天沢さんと会っているとなると、それは裏切り以外の何物でもないということになる。

 雪乃さんのことは、全てを話したなら、笑顔で受け入れてくれたじゃないか。

 独占欲が強いのだと言うコノちゃんは、隠さずに話して欲しいだけなんだ。本当に俺を縛っておきたいわけじゃない。

 心配だから、信じられないから、不安だから、正直になって欲しいのだろう。どうしよう。


 ①謝る ②逃げる ③誤魔化す


 ーそれでも③を選んでしまいますー


 本当に友だちとして会っているだけ。こそこそしているのは、天沢さんに迷惑を掛けないようにするため。

 実際そうなのだから、言ってしまえば良い。

 説明してしまえば悪いと思う気持ちもなくなり、俺も楽になることだろう。

 それなのに言えないのは、天沢さんとどうにかなりたいという希望が、俺の中にあるということなのだろうか。

 俺が好きなのは、だれなのだろう? 俺を好きなのは、だれなのだろう?

 訊ねられたらコノちゃんの名前が出るのに、他を意識してしまうのは、俺の意思の弱さのせいなのだろう。

 だって嘘なんて吐きたくない、なのに、だから。

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