フ
楽しそうにスキップする彼女の後ろを、少し離れて歩いていく。
そして見覚えのある、古そうな建物が見えた。
彼女の部屋に入ってみれば、前に来たときよりも、更に散らかっているようだ。
洋服は百歩譲る。ただ、下着はどうしても目が行ってしまうから、片付けてほしいものである。
俺だって片付けは得意じゃないとはいえ、ここまでひどくはない。どうしよう。
①注意する ②指摘する ③我慢する
ーここでは①を選べるんですー
彼女が忙しくて、掃除や片付けをする暇などないのは、様子を見ていればわかる。
とはいっても、いくらなんでもこれは……。
「あの、天沢さん」
「ごめんなさいね、今はちょっとだけ、散らかってしまっているんです」
部屋を片せなどと言うような立場でも関係でもない。なのだから、どう切り出したものか迷っていると、天沢さんも自覚はあったようで俺が言うより先に言った。
ただ、これがちょっとだけとは思えないのは、俺だけじゃないと思う。
「かなり散らかってしまっていますね。まず片付けるとしませんか?」
驚くほど面倒そうな顔をされた。
時間がないというのもあるだろうが、彼女は相当に片付けが嫌いなのだろう。
そりゃ片付け嫌いでもなければ、この部屋での生活は出来ないよね。失礼かもしれないけど、本当にそうなんだもん。
臭いが気になるからか、ゴミ捨てや洗濯はきちんとしているようだ。
そのため、ゴミ屋敷という印象は受けない。単に散らかっているだけ。どうしよう。
①強制 ②要望 ③希望
ーここでも①を選びますよー
片付けをしようだとか、片付けた方が良いだとか、そう言った言葉では、彼女は応じてくれないだろう。
この調子じゃ、適当な言葉で逃げることと思われる。
「あぁ、せっかく一緒にいられるのに、ほら、片付けなんてしたら時間が掛かるじゃないですか。だって私、別に、部屋がご不満でしたら、後で片付けをしておきますし」
こういうことを言う人は、絶対にやらない。後でやるは、やるわけがない。
「後でじゃなくて、今ですよ。片付けしましょう」
不満そうにしているが、渋々といったようでありながらも、頷いてくれた。
散らかっているものを拾い始めている。どうしよう。
①監督する ②手伝う ③命令する
ーここは普通に②でしょうー
ここは天沢さんの部屋なのだから、片付けは彼女がするべきなのだろう。
自分でやるべきことだから。そして、相手は仲が良い友だちであり同士ではあるけれど、特別な関係というわけでもない女性だから。
勝手に触って良いものかわからないし、どこに片付けて良いものかわからないし。
だけど彼女に片付けろと言った手前、ただ何も言わずに立っていることは出来まい。
「手伝った方が良いですか?」
遠慮がちになりながらも、彼女に訊ねる。
無遠慮で行けるほど親しくはないけれど、変な遠慮をするほどは、遠い距離の関係でもないと思っている。
どうしたら良いのか迷ったし、自分で命令しておいてなんだけど、気まずいっす!
「当たり前じゃないですか。片付けなんて意地悪を言ったんです。手伝って下さい。もう、早くして下さい」
不機嫌になりながらも、天沢さんは落ちているものを拾っている。
そして洋服は片付けを終えたらしい。
他に落ちているのは、教科書とゲームくらいだから、俺としても拾いやすい。
「どこに置けば良いですか?」
「んー、どうでも良いです。どこにあってもどうでも良いので、それっぽい場所にしまっておいてくれれば、それで大丈夫ですよ」
それっぽい場所って何さ。
思うけれど、天沢さんの片付けは、本当に何も考えていないような雑さ。どうしよう。
①適当に ②戸惑う ③手伝わない
ーここは①になりましょうー
彼女自身がこんなに雑なら、それで良いのだろう。
こう見えて、分けながら片付けをしているとか、そんなことはないだろうものね。
「あ、そういうの、面倒なんで良いですよ。次にしまうとき、またプレイした順になっちゃいますもん」
タイトルや年代で並べていたのだが、そう言われてしまった。
どういう基準で並べるかはともかく、並べる順番を変えないタイプなので、何も気にせずに入れるというのは、俺には出来かねることだった。
上下逆さまだなんて、とてもじゃないよ。
絶対に取り出すときに、探すので困ると思うんだけれど。
それとも手に取ったものをプレイする、みたいなスタイルなのだろうか。
「片付けられましたよ。これで良いですかっ!」
パンッと手を叩いて叫ぶと、天沢さんは机の前で胡坐を掻く。
イライラしているせいか、普段俺と接している様子よりも更に、完璧女子の仮面を外してしまっている。
だって、スカートで胡坐は掻かないでしょうよ。
お上品なイメージを付けている子でないにしても、女子力とか女子だからとかそういう問題じゃなくて、それはないと思う。
それは部屋の話も同じだけどさ。
「今度こそ、話し始めるとしましょうか」
ほとんどの日に予定がぎっしりの、リア充を見せつけるようなスケジュール帳を手に、天沢さんはそのように言う。
デートではないが、デートとすら言えるような、二人きりでの買い物か。
改めて考えれば、考えるほどにデートとしか思えない。どうしよう。
①開き直って楽しむ ②コノちゃんに謝っておく ③お断りする
ーここも①になってしまうのですー
罪悪感を持つ方が、それは浮気に近付くということ。
それに、どうせ天沢さんと二人でどこへ行ったところで、コノちゃんがそれを知る由もないのだし。




