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「ごめんなさい。ほら、春香、こっちにおいで」
俺が探すまでもなかったらしく、女の子を呼ぶ声があった。
「お姉ちゃんだ! 逃げろーっ」
楽しそうに叫んで、春香と呼ばれたこの女の子は、俺から離れて走り出してしまう。どうしよう。
①追い掛ける ②放っておく ③呆然とする
ーここで③しか選べないのですー
どうしたら良いものか。追い掛けても変質者だが、置いていくのもどうかと思うし。
結局は立ち尽くし、呆然とすることしか出来ずにいた。
「春香が何か迷惑を掛けたりしませんでしたか? すみません」
保護者らしき女性がこちらへやってきて、俺にそう訊ねてきた。
黒髪を膝の辺りにまで伸ばし、前髪は目の上で美しい弧を描いている。横髪は肩に掛からないくらいの高さ、戦国モノに登場する美人女性キャラクター、みたいな印象を受ける。
目は切れ長で周りを長い睫毛が縁取る。
鼻はスラリとしていて、口は小さく唇も薄い。
風呂上がりであるせいか、白い肌の頬だけが桜色に染まっている。
絶世の美女としか言いようがなかった。
天沢さんの美女っぷりも素晴らしいものだったが、この女性は違う美しさを持っているのだろう。
天沢さんには失礼かもしれないけれど、第一印象というか外見というか、それだけでいけばこの女性の方が美しいと思う。
もう、美しいという言葉では言い表せないような、言葉や絵では伝えられない。何に例えることも出来ない、目を疑うほどの美しさだった。
天沢さんを見たときには、俺の妄想ではないかと考えた。
しかし彼女は俺の想像力で作り出せる美しさを超えている。
ここまで美しければ逆に、現実なのだと判断することが出来る。
ただ……、俺は死んでこれから死後の世界へ連れて行かれるのではないか。というような恐怖さえも覚えた。
どちらかといえば、天国ではなく、笑顔で地獄へと連れて行ってくれそうな美である。
怪しさや妖艶さは感じさせない彼女だが、純粋無垢な黒い瞳は、無邪気なままで自然と地獄まで誘いそうなところである。
また、天沢さんと異なる美しさを感じさせるのは、やはり彼女のスタイルである。
背は俺より低いくらいだから、女性としては普通だろう。
そこはともかくとして、胸だ!
少しの膨らみも感じさせない胸は、彼女に不思議な子供らしさを演出させる。
お母さんなのかと思ったが、俺と変わらないくらいに見えるし、下手したら年下にも見える。
だからといって、他に保護者が同伴しているようにも見えないのだが……。
「あの、どうなさいました?」
ずっと呆気に取られていた。という設定で見惚れていた俺に、彼女は麗しい声で問い掛けてくる。どうしよう。
①迷惑な子供だ ②可愛い子供だ ③可愛いお方だ
ーここでは②を選びましょうー
どのようにして誤魔化そうか。俺が悩んでいると、丁度良くさっきの幼女が再び現れてくれた。
「可愛い子ですね。春香ちゃんって、言うんですか?」
これ以上走り回って欲しくなさそうなので、さりげなく幼女の頭を撫でて動きを封じながらも、目の前の美女に質問してみる。
こんなことになるんなら、部屋着なんかに着替えなきゃ良かった。
そう考えながらも、後悔の表情も美女へ向けられる下心も隠して、微笑みを浮かべ続ける。
「あっはい、本当にじゃじゃ馬娘で困ってしまいます」
俺の微笑みが通じたのか、怪しむ気配もなく彼女は肩を竦めて困り顔。
このままの流れで、春香ちゃんだけでなく彼女の名前も聞き出せはしないだろうか。
そう思っていたところだが、そこまで上手くは行かないらしい。
「それでは、本当にご迷惑をお掛けしました。ほら、春香も謝りなさい」
「おじさん、じゃあねっ! またはるちゃんと遊ぼうね!」
最後にもう一度彼女は謝罪の言葉を述べて、春香ちゃんを引き連れ帰って行ってしまった。どうしよう。
①見送る ②どうでもいい ③追い掛ける
ーここはさすがに①しかありませんよー
追い掛けてまで会話をすれば、それは立派なストーカーだろう。
一目惚れでストーカーになるなんて、彼女としては迷惑以前に吐気がするほどに気持ち悪いだろう。女の子に好かれていたいのはもちろん、ストーカー状態になり蔑まれ避けられるのは、俺としてもメンタルがもたない。
彼女の美しさが罪なんだけど、ここは我慢するしかないだろう。
地獄の使徒に惑わされるわけにはいかない。
なんとか自己を保ち、手を振ってくれる春香ちゃんに小さく手を振り返す。
そして名前を知らない彼女の、あの美しい姿を思い浮かべながら、一人で一人暮らしの家に帰った。
ああ、綺麗な人だったな。
今日は戸惑うほどに絶世の美女との運命の出会いをしてしまう。これは、リア充になろうと決意した俺を、神様が応援してくれているということなのだろうか。
それとも、本気で彼女を作ろう。そう決意したことにより、以前よりも可愛い女の子が見えるようになったのか。
以前まではもったいなくも見逃してしまっていたのかもしれない。
何にしても、今年こそはリア充人生をスタートさせてみせるのだ。
家に帰った俺は、虚しさよりも喜びやヤル気を大きくするため、改めて決意をし直した。どうしよう。
①運動 ②読書 ③ゲーム ④寝る
ーここは③を選びましょうかー
もうやることはやったので、適当な食事を取りながら、俺はゲームを始めた。
リア充になるからといって、ゲームをやめる理由にはならないだろう?
ゲームをやるからオタクなわけではないし、ゲームをやらないからリア充なわけでもない。そもそもオタクとリア充は対義語ですらない。
オタクでありリア充でもある、そんな存在だって別にいないわけではなかろう。
それだったら、ゲームをやって妄想好きも変態もやめないで、そのままの俺でリア充を目指そうじゃないか。
夢中でゲームをしながら、リア充になるプランを考えていると、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
瞬きくらいの時間しか、自分としては体感していなかった。そのはずなのに、暗かった空が、一気に明るく染まっているのであった。
慌てて時計を確認すると、驚くべきことにもう七時であることを示している。
ここでやっと一日目が終了し、二日目に突入するというわけですね。
やはり一日ですべてのメインヒロインと出会えるわけもなく、半分にも満たない人数としか関わりを持てませんでした。
しかし一年を掛けて攻略を進めていくわけですから、好スタートといえるのではないでしょうか。くっくっくっく。




