あ
俺は今日、高校二年生になった。
遂にハーレムルートがスタート致します。ではここで、game startですね。
ああ、後輩が入ってきてくれるんだ。そうしたら、俺は先輩になるわけなんだよね。
中学のときには、後輩と関わることなんてなかった。従って、先輩と呼ばれることも少なかった。
だけど高校でこそ、先輩なんて呼んでもらって、後輩に頼ってもらえるようになりたいな。
妄想とともにかすかな期待を抱きながら、俺は新しい教室の新しい席に座った。
まだ時間は結構早いのだけれど、隣にはもう既に女子生徒が座っていた。
髪の毛を二つに分けて三つ編み、それを胸元まで垂らしている。縁のないシンプルな眼鏡を掛け、いかにもな真面目少女だ。
その真面目っぷりを見せ付けるかのように、彼女は静かに本を読んでいる。
高校デビューに失敗した俺。でも今度こそ、俺はリア充として、学校生活を謳歌したいんだ。
だったら、女の子に話し掛けるくらいのこと、躊躇せずに出来ないとダメだよね。
読書の邪魔をしてしまえば、きっと彼女は良く思わないだろう。
本が好きな俺だからこそ、読書の邪魔をされる腹立たしさならば、嫌というほどに知っている。
でもいつまでも迷っているばかりではいられない。どうしよう。
①話し掛ける ②彼女の本を見る ③気にせずゲームを
ーここは②を選んでいいのでしょうー
いきなり話し掛けるのは、少しハードルが高い。名前さえも知らない今の状態で、会話なんて出来ようものか。
俺だって目立った行動はしていないと思うし、俺が彼女を知らないのならば、彼女が俺を知らない可能性だって高い。
そんな状態なんだから、少しずつ距離を縮めていこう。
高校生のうちに彼女を作るんだ。恋人いない歴をただ更新していく、そんな時間の過ごし方は抜け出すんだと、決めたんだから。
うざがられないようには気をつけながらも、彼女が何を読んでいるのかと、本をそっと覗き込んでみた。
軽く読んでみると、その内容には心当たりがあった。
むしろ、よく知っている。暗証すら出来るほどに、よく知っている内容であった。
俺が好きなライトノベルである。
意外とそういう本を読むのか。そう思うと、彼女との距離が縮まったように、勝手に感じてしまった。
「どうかなさったのですか?」
後ろに回って本を覗き込んでいるのだから、鬱陶しがられたのかもしれない。
栞を挟んで本をしまうと、ゆっくりと振り向いて、可愛らしい顔を正面から俺に見せてくれた。
眼鏡の奥の瞳に、嫌悪が映っているという感じはしない。しかし、多少の拒絶は感じるし、恐怖だって感じられるような気もする。
嫌がってはいないようだが、好意的には思っていない。ほとんど関係がないのだから、当然といえば当然だな。どうしよう。
①自己紹介 ②会話を続ける ③やっぱり無理
ーここでは①を選ぶそうですー
このまま会話を展開していこうかと思ったが、それにはやはり、名前を知らないと困るだろう。
「あの、◯◯と申します。宜しくお願いします」
これが反対に距離を感じさせてしまうかもしれない。ただ俺としては、リア充にはなりたくても、礼儀を失いたくはない。
出来る限り、礼儀正しくしたいと思うんだ。彼女を作るという下心が丸見えだろうけれど、でも女の子に優しくしたいという気持ちに、嘘はないからね。
「あっ、失礼しました、ごめんなさい。堂本木葉です。こちらこそ、宜しくお願い致します」
慌てた様子で、彼女も名乗ってくれた。自然に彼女の名前を聞き出すことも出来たし、これなら失礼はないだろう。
わざわざ席を立って、頭を下げてくれるんだから、堂本さんって本当に真面目な人なんだな。
こういう真面目でしっかりとした彼女か。結婚してからも、「あなた、ネクタイが曲がっているわよ」とか言って、優しく直してくれそう。いつまでも、幸せな家庭を得られること、間違い無しって感じだな。
片っ端から女の子を口説くつもりはないけれど、まず彼女は恋人候補確定だな。
高二で俺は変わるんだ。その第一歩として、彼女と友だちになれるよう努力しないとな。どうしよう。
①黙ってしまう ②会話を再開する ③やっぱりゲーム
ーここは②に決まっていましょうー
沈黙を作ってしまうようじゃ、会話技術はまだまだである。もちろん、空気は読んで時と場合に合わせてだけれど、沈黙は避けられるようにしないとね。
彼女が読んでいたあの本が、本当に俺の好きな本と一致しているならば、それは大事な共通点となる。
共通して好きなモノを話題に選ぶことで、会話を続けることが出来る。何かの本かゲームに書いてあった気がする。
「何を読んでいるんですか?」
本当は知っているくせに、俺はそう問い掛ける。嘘を吐いているとか騙しているとか、そういうわけじゃないのに、なんだか罪悪感に苛まれる。
確認だよ確認。その本を堂本さんが読んでいたかどうか、という確認。
思い込んで語り出して、そんな本は知らないと言われても、お互いに気まずくなって困るからね。
「どうしても、言わないといけませんか? アナタのような真面目な方がお読みになる、その……、そんな本じゃないと思います。だから、その、期待には応えられないのではないかと……。ごめんなさい」
自信を持って答えない時点で、もう俺の推測は確か過ぎるほど確かとなっていた。もう絶対に間違いはないと思う。
タイトルがちょっと、女の子が堂々と答えられるようなアレじゃ、ないからね。いや別に、内容は普通なんだけどね。