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当日 新しい仲間と北の森

 朝食の席で、今日は昼からイベントがあるため昼食を食べるのが遅くなることを母に伝えた。


「わかった。ラップしてレンジに入れておくからね」

「ああ」

「今日のお昼は大地の好きなオムライスだよ」


 オムライスか、イベントの説明が終わったらすぐにログアウトしよう。

 

 朝食の食器を片付けて部屋へと向かう途中で父が声をかけてきた。


「その緩みきった顔をどうにかしろ」

「ほっとけ」

「どうせろくでもないことしてんだろ?」

「あんたには関係ないよ」


 訳すと楽しそうだな、そうかな、何があったんだ、ないしょといった感じだ。

 

 部屋に入ってヘッドギアを付ける。目を開ければもうそこは《RMMO》の世界だ。


「ララビィ、レイドッグ、カーおはよう」


 3匹に朝の挨拶をして食事の用意を始める。背負い袋から包丁とまな板、マヨイイヌの肉とベビーリザードのかたまり肉を取り出しす。近くにあった石の上にまな板を置いて肉を切り分ける。これで出来上がりだ。

 肉を切っていると遠くから槍を持ったソウゲンゴブリンがそろそろと近づいてきていた。視線からこっちを目指しているのは間違いないが、昨日襲ってきたゴブリンに比べるとやけにゆっくりだ。5mくらいまで近づくとそこで止まりこちらをうかがうそぶりを見せ始めた。もしかしたらお腹が空いているのかもしれない。

 試しにベビーリザードの肉を切って放り投げてみた。するとゴブリンは槍を手放し、肉をダイビングキャッチして口に入れた。ちょっと面白かったので更にいくつか放ってやるといずれも地に落ちる前にキャッチしては口に入れていく。

 ベビーリザードの肉を半分ほど投げたところで目の前にウィンドウが現れた。どうやらあのゴブリンを仲間にしたらしい。名前はわかりやすくゴブにしよう。

 ゴブは食べ切れなかった肉を抱えて俺のほうに近づいてきた。抱えていた肉を差し出してきたので受け取ってレイドッグへ、それでも余った分は背負い袋にしまった。

 カーにも満足するまで肉を与えて料理道具と余った肉を背負い袋にしまう。しまったところで石に違和感を感じたのでよく見てみると、料理台にしていたのは石ではなくベビーリザードだった。

 しかし、あれだけいろいろやっていたのに一切動いていない。昨日は急に襲ってきたのに今日はいったいどうしたんだろうか?

 そういえばトカゲは体温が低いと動けない、いわゆる変温動物だと中学生の頃に習った気がする。それなら暖めてみよう。もしかしたら仲間になってくれるかもしれない。


「ララビィ、レイドッグはベビーリザードを挟んで伏せろ」

「ワンッ!」


 俺の指示どおりに伏せる2匹。更にレイドッグに乗っていたカーをリザードの頭において俺が布団のように上に乗る。

 ゴブが所在なさげに辺りをうろうろしている。そういえば忘れていたな。


「ゴブは尻尾を暖めてくれ」

「ガフ」


 ゴブリンって鳴くのか。俺の言葉にうなづいたゴブはリザードの尻尾を横になって抱きしめた。

 いまやベビーリザードは頭にカラスの雛、体に人を乗せ両脇をオオウサギとマヨイイヌがはさんで、尻尾にはソウゲンゴブリンが抱きついている状態だ。他のプレイヤーが見られたら変わり者だと噂さされてしまうな。

 恥ずかしさを押さえて乗り続けること30分ほどでウィンドウが現れる。こいつの名前はリザルドにしよう。

 

「みんなもういいぞ。次は森を目指そう」


 魔物達がリザルドから離れる。ゆっくりと動き出したリザルドに歩調を合わせていまや影ではなくなった森へと向かった。




 森にたどり着いたのは11時ごろだった。見立てではもっと遅くなるかもと思ったが、リザルドがだんだんと速度をあげ、俺の小走りくらいの速度になったので到着が早まったのだ。

 イベントもあるので森に入る前に一応町のある方向を確認しておこうと森から南を見渡す。東側はしばらく行くと草が短くなっていて、西側はずっと長いままのようだ。町の周りの草原は草が短いので町は東側のはずだ。

 町の位置も大体わかったので森へと入り北東の方角に進む。

 10分ほど歩いたところで顔に何かがくっついた。右手で取ってみると、それは1mm位の太さの糸。上から聞こえるガサガサという音に嫌な予感がした。恐る恐る上を向くとララビィよりも一回り大きな蜘蛛が口を開いてこちらへと向かってきていた。やっぱり蜘蛛の巣だったか。

 糸を振り払うが粘着性が強く手から離れない。後ろに下がろうとしても巣とつながった糸が切れず下がれたのは30cmくらいだ。


「カー以外蜘蛛を攻撃!」


 頭を狙った蜘蛛の噛み付きを指示を出しながら左手でダガーを抜いて防ぐ。こうして耐えている間に倒してもらおう。

 しかし、ララビィ達は俺に群がるばかりで蜘蛛へ攻撃しない。……いや、出来ないのか。蜘蛛は俺の頭より高いところにいるため高い場所への攻撃手段を持ってないララビィ達ではどうしようもない。

 蜘蛛の力はそこまで強くないため今は防いでいられるがこのままではいずれ押し切られる。どうにかして攻撃してもらわないと……。


「ゴブ、俺の体を登れ」

「ガフ」


 ゴブはうなづくと俺の体を登りだした。鎧がない部分を力一杯つかむのがとても痛かったが、他に良い考えが浮かばないからしょうがないと我慢。落ちることもなく登りきれたのが、俺の頭と右肩にかかる重さでわかった。


「ゴブ、蜘蛛をぶん殴って落とせ」

「ガフ」


 頭が軽くなると上からドッと音がして蜘蛛とゴブが下へ落ちていった。

 落ちた蜘蛛は直ぐにララビィ達に跳び掛かられその姿が見えなくなる。一方、一緒に落ちたゴブはまるで体操選手のように綺麗に着地していた。

 俺も手についた蜘蛛の巣を何とかしないといけない。一度視線を上げて巣につながった糸を引っ張ってみるがやはり切れそうにない。左手で糸に触れてみると、その糸自体はやわらかく、くっつきもしなかった。試しにダガーで切ってみると糸は簡単に切れてしまう。どうやら違う性質を持った2種類の糸を使っているようだ。現実の蜘蛛も縦糸と横糸で性質が違った筈。

 自由になった右手を近くの木にこすり付けてくっついていた糸をとる。

 そうしている間にララビィ達が俺の傍に戻ってくる、蜘蛛を倒したようだ。


「ありがとう、ゴブ。他のみんなも」

「ガフ」

「ワン」


 蜘蛛を解体しようと目を向けると、蜘蛛はボロボロだった。体のいたるところがへこみ、脚が4本折れ2本は千切れている。頭には穴が4つ開いていた。

 ボロボロの蜘蛛にダガーを入れるがどこが素材になるかわからなかったので、そのまま背負い袋に入れておこう。

 巣はどうしようか、現実では夢の繊維なんていわれているから役に立つとは思うが、ゲームでもそうなのかはわからない。それに取るのも大変そうだ。

 巣を眺めていたら繭のような物を見つけた。多分中身は虫だと思うが、助けたら仲間になってくれないだろうか。繭は木の直ぐ近くだったので、登って取ってみよう。

 低い木だったのであまり苦労せずに登る。早速繭をつないでいる糸をダガーで切ろうとしたが、粘着性の糸だったのでダガーにくっついてしまった。ダガーを足場にしている木にこすり付ければ簡単に取れたが、巣から繭を外す作業は簡単にはいかなかった。手で糸を裂き、避けないものはダガーで切る。くっついた糸は木にこすり付けて落とす。何度も繰り返してやっと繭が外せたときには足元は真っ白だった。

 地面に下りて眉を切り開いて中を見ると子犬程度の大きさの蜂がいた。折角の空中戦力だ、絶対に助け出そう。繭の糸も粘着性のものでダガーにくっつき手間がかかるが、こちらも時間をかけて切り開いた。

 助け出した蜂はぐったりとしていて生きてるかどうかわからない。

 どうしようか考えていると目の前にウィンドウが現れる。ウィンドウには白い貫頭衣を着た女性が映し出されていた。


『皆さん、始めまして。わたくしは女神エラドです。皆さんにはこれより、わたくしの管理する世界へと渡っていただきます。そして、一年後に封印より開放されてしまう邪神を倒していただきたいのです』


 どうやら12時になってイベントが始まったようだ。


『既に皆様は地球の神々との契約により、元の世界へと帰る事が出来なくなっているはずです』


 そんな馬鹿なと思いながらメニューを操作するがログアウトの項目がなくなっていた。


『このような理不尽なやり方をして、頼みごとなど出来る立場ではありませんが。どうかわたくしの世界を、人々を救ってください』


 メニューを操作していた俺は、急な光の放出に反射的に目を閉じた。

 目を閉じている俺の耳に風に揺れる木のざわめきが聞こえてくる。

 恐る恐る目を開けるとそこは先ほどと同じ森の中だ。なのに、俺は今まではなかった生々しさみたいなものを感じていた。

これでプロローグは終了です。

掲示板回、キャラクター紹介をはさんで次章へと入ります。


同シリーズ《RMMO》異世界のお節介な道化師 もよろしくお願いします。

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