7日前 時間のかかるウサギ狩り
三度南の草原へとやってきた俺。ただ、今度の目的は魔物との触れあいではなくお金稼ぎだ。
すぐにオオウサギを見つけた俺は、触れる距離まで近づき手に持ったダガーを首筋に向けて振り下ろす。だが、狙い通りには行かず胴体を切り裂く。出来るだけ苦しませたくなかったのに……。
己の未熟を呪いながら俺は1歩距離を取る。オオウサギの体当たりに備えるためだ。
オオウサギが勢いよく跳びかかってくる。俺は両腕をクロスしてガードした。
腕を解くと反動のせいか倒れているオオウサギ。今がチャンスと眉間に向けてダガーを突き出すも、今度は耳を浅く裂いただけだった。
オオウサギのタックルを防いで、急所狙いの攻撃。急所をはずしてオオウサギがタックル。これを何度も繰り返してやっとオオウサギを倒した。
結構な時間戦っていたようで、終わったときにはその場にへたり込んでしまった。
視界の端がちかちかとうるさい。さっきからそこでバーが赤く点滅を繰り返している。これは確か――そう、HPゲージだ。そのHPゲージは緑が一割弱で残りは黒、説明書の通りなら現在俺のHPは一割を切っており、それを知らせるため赤く点滅している。
1匹倒すたびに休まないとすぐにまた死に戻ってしまう。
背負い袋から剥ぎ取りナイフを取り出し、死んで動かなくなったオオウサギに突き立てる。途端オオウサギは何も残さずに消えた。
……あれだけ長い時間戦って何も残らないなんて時間の無駄だし、何より死ぬまで何度も傷つけられたオオウサギに申し訳が立たない。
だったら……。
俺はHPゲージが完全に回復するのを待ち、新しいオオウサギと戦った。
先ほどの戦いで急所狙いは余計時間がかかるだけだと判断し、今度は狙いやすい場所に攻撃した。
おかげで先ほどよりは早く倒せたが、それでも時間はかかったしHPは2割を割っていた。
倒したオオウサギに手を合わせ、ダガーを腹から入れる。剥ぎ取りナイフを使っても何も残らないなら、ビギナーダガーで解体しようと考えたからだ。
しかしウサギの解体なんてしたことが無い、なのでまずは内臓を取り出そうと腹から切ったのだ。
腹を開いても内臓は無かった。血も出ないがゲームだからだろう。楽だがリアリティが足りないとも思った。
切り裂いたところから肉と皮を分けるようにダガーを入れていく。いきなりうまく出来るはずもないので失敗しても肉のほうに刃が行くようにしながら慎重に分けていく。
ある程度分けたところで手が止まる。足や尻尾、頭の部分の解体の仕方がわからない。どうしようもないので、結局全て切り落とした。
肉と皮の部分が分かれたので、皮についている肉を削り落とす。とりあえず俺に出来そうなのはここまでだな。
掻いてもいない額の汗を拭うと空からカー無く声が聞こえた。どうやら草原カラスが俺の頭上を飛んでいるらしい。襲ってくるわけでもなさそうなので放っておこう。
分けた部分を背負い袋にしまっていく、それぞれオオウサギの肉・オオウサギの毛皮・オオウサギの足・オオウサギの尻尾・オオウサギの頭となっていた。これならオオウサギにも申し訳が立つ。
HPが回復するまでの休憩中に時間を確認する。時刻は既に16時を過ぎていた。
親の店の手伝いは19時から、遅れるわけにはいかないのでログアウトは18時半ごろになる。
期限が1日しかないクエストの報告も考えると、狩りができるのはあと1時間半くらいだ。
予定していた時間まで続けて狩れたオオウサギは1匹。戦利品がオオウサギの素材1セットと休憩中に見つけた薬草が2つだ。
町へ戻って南門の近くの酒場に入る。
「いらっしゃい。今日は酒か? それとも依頼か?」
マスターの挨拶は固定のようだ。
カウンターの前に立つと目標を達成したクエストの詳細が書かれたウィンドウが表示され、報告とキャンセルの選択肢が出る。達成してるのはオオウサギの駆除と毛皮と薬草の納品だ。
全て報告を選ぶとウィンドウが消える。
「ご苦労さん」
マスターはそういうが毛皮や薬草を渡してはいないし、お金を受け取ってもいない。
確認するためステータスを開く。
名 前:ダイチ
ジョブ:〈魔物使い〉1 〈酪農家〉2(1) 〈料理人〉1
能力値:筋力・・・6
体力・・・6
器用・・・6(1)
敏捷・・・4
魔力・・・3
精神・・・6
スキル:解体1(NEW)
称 号:駆け出し
装 備:ビギナーダガー
ソフトレザーアーマー
厚手の服
アイアンアームガード
所持品:背負い袋(剥ぎ取りナイフ 革の水筒 オオウサギの肉2 オオウサギの
足2 オオウサギの尻尾2 オオウサギの頭2)
所持金:1370B
所持金と所持品にクエストの分だけ増減がある。
クエストの報告も簡単だった。もう少し手間があってもいいと思うんだが……。
取り合えず今日はここまで、ログアウトして店の手伝いをしないと。
「どうだった、ゲーム?動物には触れた?」
「少しだけ、時間がかかるのもわからないの?」
「そう、頑張ってね」
店に手伝いに行くと母が声をかけてきた。俺の言葉に気にせず返す母、さすがはあの父の妻だ。
「お父さんが、とっととやめろっていってたわよ。心配そうに」
「やめる気はないって伝えろ」
今のは訳すと、「これで駄目だったらあいつ立ち直れないんじゃないか?そうなるくらいならやめて欲しい」「大丈夫だよ」だろうか。
父の言葉は俺以上にひねくれているから訳すのが難しい。
21時を過ぎて客も少なくなってきた。
「もういいぞ、とっとと寝ろ」
「わかった」
父が気を使って声をかけてくる。
今のは店の手伝いでゲームをする時間が取られる俺に、今日は早く寝て明日は早朝から遊べと父が気を使ってくれたのだ。
父に感謝しつつとっとと寝る用意を済ませて布団に入る。
明日はいくら稼げるだろうか?