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7日前 遥か遠いモフモフ

 俺が目を覚ますと辺りは草原だった。

 そうだ、ここはゲームの中だ。

 そうとわかれば居ても立っても居られない。モフモフが俺を待っている!

 確か説明書にはまず町で準備をして、酒場でクエストを受けて、町の南の草原でオオウサギと戦ってみましょう、と書いてあった。

 つまり南の草原にオオウサギが居る。

 そう考え、俺は町であろう石壁へと全力で駆け出した。




「ようこそ! 始まりの町、エニフへ。ここはエニフ、北の門です」


 町の門のところに立っていた男が急に声をかけてくる。

 何か用かと立ち止まるが、何も言わない。

 そういえばNPCと呼ばれる決まったことしか喋らないキャラクターがいると書いてあったっけ。

 それなら長居は無用、ここが北門なら真っ直ぐ道が続く向こう側が南の門だろう。

 さあ、今行くぞオオウサギ!

 俺は気合を入れなおしまた全力で駆けるのだった。




 苦しくなった息を一度整えるために噴水のある広場で少し休む。

 広場からは太い道が四方に伸びているから、ここが町の中心だろう。

 息が整ったらすぐにまた、南門へと向けて走り出した。



 

 南の門を越えて南の草原に出た。

 辺りには草を食べる大きなのうさぎ、あれがオオウサギだろう。

 他にもうつぶせになって寝ている大型犬もいる。あれは確か……そう、マヨイイヌだ。

 地面を走る影に空を見てみればそこにいるのはカラスだ。あれがソウゲンカラスか。

 まずはオオウサギの近くにいってみよう。

 

 逃げられてしまったらどうしようという不安を胸に、祈るようにゆっくりとオオウサギへ近づく。

 あと3歩……あと2歩……あと1歩……。そうしてオオウサギのすぐ横まで近づけた。

 ……ふぅ、どうやら逃げないでくれるらしい。


 ここまできたら触れるだけだ!

 オオウサギの耳に慎重に手を伸ばし――触った!思ったよりサラサラとしている。

 耳の手触りを楽しんでいると、オオウサギはこっちを向いて体重を後ろにのせた。

 これは! 俺は嬉々として中腰になり腕を肩幅に広げる。

 よしっ、俺の胸に跳んで来い! 全力でモフってやる。


「がはっ」


 予想通り俺の胸へと向かってきたオオウサギだったが、思った以上のスピードに抱き止めることに失敗、胸に直撃される。

 あまりの痛さに息がつまり、胸元を押さえたまま地面にうずくまってしまう。


「――ぐっ」


 うずくまったまま動かないでいる俺にオオウサギが容赦なくタックルをしてきた。

 起き上がることも出来ず何度もタックルを食らい、俺はそのまま意識を失った。




 意識を取り戻した俺は、噴水に背を預け座っていた。

 ここは先ほど通った広場だ。

 どうやらオオウサギの攻撃で死に戻ったらしい。


「少年、大丈夫か?」


 座ってるままの俺を心配でもしたのだろう。

 声をかけてきたのは優しそうな笑顔の男性だった。

 余計な心配をかけてしまった。


「余計なお世話だ」


 ……やってしまった。

 俺は父からの遺伝なのか、どんな言葉も攻撃的な言葉になってしまうのだ。

 父もありがとうを頼んでないとか、お前が勝手にやっただけだとか言っちゃう様な人なのだ。

 そんな父を母は可愛いといっていたが、特殊な感性の持ち主だったからだろう。普通はかわいいとは思わない。


「――それはすまなかったな」

 

 男性は笑顔のままだったが確実に怒っていた。

 これ以上何か言って怒らせるつもりは無い。

 俺は無言で南の平原へと走りだした。

 落ち込みそうな気持ちを奮い立たせる、今度はマヨイイヌにアタックするのだ!




 それから20分ほどして俺は噴水のある広場に戻ってきた。

 2度目の死に戻りだ。

 

 あの後、南の平原でマヨイイヌに触れたまではよかったが、その後はオオウサギの時より酷かった。

 触れられたマヨイイヌはオオウサギと同じようにこちらを敵と判断して、噛み付いたり引っ掻いたりしてきた。

 俺はそれを押さえ込んだり避けたりしていたが、途中横合いから他のマヨイイヌの攻撃を受けたのだ。

 2対1でも何とか攻撃を捌き続ける俺、今度は後ろから首筋に噛付かれた。

 そうして数が増えていき、全身をマヨイイヌに噛付かれ俺のHPは0になったというわけだ。

 ……手触りはもふっとしていた。

 

 周囲のプレイヤーの視線が痛いな、早くここから離れよう。

 俺はエニフの町を目的も無く歩き始めた。


 魔物達と触れあうにはどうしたらいいか?

 問題点は触れただけで攻撃されること、そして攻撃を耐えられないことの二つだ。

 それをどう解決するかだが……。

 1つは食べ物をあげるなど敵でないと思ってもらうこと。

 もう1つは鍛えるなりいい防具を変えるなりして、耐えられるようになること。

 それなら、まずは道具屋と防具屋にいってみよう。

 俺は東の通りに向けて歩き出した。


 東の通りには手前から武器屋、防具屋、道具屋と並んでいる。知っているのは説明書にエニフの主要施設の位置が書かれていたからだ。

 まずは防具屋だ。

 店の中には様々な防具が飾られていた。

 その中から金属製の鎧を手に取るとウィンドウが現れ銅のチェインメイルと表示される。わかるのが名前だけだと素材くらいしか参考にならない。

 俺が欲しいのは防御力、しかし動きずらくなるのは困るので重いものは避けよう。

 まず鎧は……鉄のスケイルメイルだ。これなら牙や爪による攻撃が防げる。

 腕と脚は同じく鉄製のアームガードと脚甲にしよう。

 鎧の下に厚手の服。素材はわからないがオオウサギの体当たりを防いでくれるはずだ。

  

 物が決まったところで値段だが鎧が4500B、アームガードが2400B、脚甲が2700B、最後に厚手の服が500Bで合計10300Bだ。

 まだお金は使っていないので所持金は5000Bのはずだ。

 しかし、ステータスで確認してみると所持金が4050Bになっていた。

 そういえば説明書には魔物に倒されるたびに所持金の一割を失うと書いてあった。

 はー、これで魔物との触れあいが更に遠くなってしまった。

 ……とりあえず防具を揃えるのに足りないお金が6250Bと覚えておこう。

 

 続いて道具屋に入る。

 道具屋のほうが防具屋より広いが、何か意味があったりするんだろうか?


 店の中には棚が並んでいる。棚が木製な事以外はまるでコンビニのようだ。

 店内をひととおり周ってみた。

 しかし置いているのは回復薬や寝袋などの冒険に役立ちそうなものと日用品だけで、魔物にプレゼント出来そうな物は無い。

 ……仕方ない、防具を揃えよう。

 

 俺は先ほどの防具屋に戻り厚手の服とアームガードを購入した。

 これで所持金が1150B、目標は7200Bになった。




 クエストを受けるために南の門の近くにある酒場に入った。


「いらっしゃい。今日は酒か? それとも依頼クエストか?」


 マスターの挨拶を聞き流し酒場の中を見る。

 カウンター横の壁に沢山の紙が張られた掲示板がある。

 あそこに張ってある紙にクエストの内容が書かれているはずだ。

 沢山の依頼全てに目を通し俺が受けられそうな依頼を探す。

----------

 オオウサギの駆除

  増えすぎたオオウサギを駆除して下さい。


 目標:オオウサギ2匹×人数

 報酬:100B×人数

 期限:1日

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 オオウサギの肉が欲しい

  パーティーに使うオオウサギの肉を獲ってきてくれ。


 目標:オオウサギの肉5

 報酬:200B

 期限:2日

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 求む!オオウサギの毛皮

  服を作るので毛皮を取ってきてください。


 目標:オオウサギの毛皮2

 報酬:80B

 期限:3日

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 アクセサリーを作りたい

  アクセサリーの材料にオオウサギの尻尾が足りません。


 目標:オオウサギの尻尾10

 報酬:1000B

 期限:2日

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 薬草の買取

  見本はカウンターで見せる

  同じものを採ってきてくれ。


 目標:薬草

 報酬:20B×薬草の数

 期限:無期限

----------

 俺に出来そうなのはこれくらいだな。

 いろいろクエストを見て、ここには南の平原に関するクエストと採取クエストしかないことがわかった。

 

 クエストが書かれた5枚の紙をカウンターに持っていく。


「この依頼でいいか?」


 酒場のマスターの質問に頷きを返すと、マスターがカウンターから1枚の草を取り出した。


「これが依頼の薬草だ」


 草はタンポポの葉っぱのような形をしていた。

 これなら忘れることは無いだろう。


「気をつけろよ」


 店を出て南へ向かった。

 

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