様々な変化
森から出て平原を進むが、町はなかなか見えてこない。まあ、まだ30分くらいしか歩いてないんだけど。
森の中に比べればペースは確実に上がっているし、風景も変わったんだ。今までみたいに嫌気がさすことはない。
魔物も今まで見たことがない奴らばかりだ。体格のいい馬に猫又とゆう妖怪みたいに尻尾が途中から二つにわかれている猫、あと上空にも何か鳥の影が見える。鳥はもしかしたら草原カラスかもしれないけど。
とにかく目新しい魔物ばかりだ。森と違って襲ってこないのも助かる。
ただ、俺は今もっている肉に飽き飽きしているし、肉もだんだん悪くなってきている。そろそろ新しい食料が必要だ。でないと明日の昼食は蝙蝠の肉だ。食べられないことは無いだろうけど出来れば遠慮したい。
そんなことを考えていると、都合よくこちらに近づいてくる馬を見つけた。
「皆、なんとしてもあの馬を仕留めてくれ」
カー以外が馬の方へ向かっていく。そういえば、俺しばらく戦ってない気がする。魔物使いとしては正しい姿だしこのほうが効率もいいんだけど、仲間外れにされているみたいで少し寂しい。
「ぴーっ!!」
「そういえばカーもお留守番だったな」
そう声をかける。
「ぴーっ、ぴーっ!」
なんだ?何か伝えたいのか?
そう思って頭の上のカーを両手の平に乗せ目の前に持ってくる。
「ぴーっ、ぴーっ!」
必死に鳴き続けるカーを何かあったのかと観察していると、カーが光を放った。
「うわっ!?」
咄嗟に顔を背け眼を閉じ光が収まるのを待つ。
手に先ほどまでとは違うずっしりとした重みを感じると光は収まっていった。
まるで女神がウィンドウに現れた時のような事態。俺は恐る恐る目を開け自分のいる場所を確認する。
辺りは先ほどとまったく変わりない草原だった。
「くぁ~」
低く間延びした鳴き声。
その声の主は、俺の手の平の上にいる黒い翼を持ったカラスだった。
「――カー……なのか?」
「くぁっ!」
俺に答えるように元気にひと鳴きするカラス。俺はすぐにカーのステータスを開いた。
名 前:カー
種 族:草原カラス5(5)
スキル:戦闘3(NEW)
成長スキルが無くなって種族レベルが上がってる。雛から成鳥になったみたいだ。
「くぁ~」
再度間延びした鳴き声を上げるとカーはララビィ達の方へ向かって飛んで行った。さっきの俺の指示にしたがって馬を倒しに行ったんだろう。
大空を飛ぶ姿は頼もしいが、今でなくてもよかったのに。余計に寂しくなってきた。
皆が倒してくれた馬を解体するためにダガーを取り出す。解体作業も久しぶりだ。
解体してる間、皆は周辺の警戒をしてくれるみたいだ。特に指示を出したわけじゃないけど、ありがたい。
それじゃあ、解体を始めよう。
俺はいつもどおり魔物の腹にダガーを入れた。今までとは違うやわらかい感触のあとに血がブジュッと噴き出した。
あれ? 血は出ないはずだが……。
もしかしてと思い腹を割いて中を見る。案の定、そこにはぎっちりとつまった内臓があった。
……やった! 内臓が手に入るぞ! これで普通の肉以外の物が食べられる。俺は身体が血塗れになるのも構わずに解体を進めていった。
手に入れたのは部位ごとの肉と心臓、毛皮、頭、尻尾、蹄だ。心臓以外の内臓はすぐに悪くなりそうなので捨てた。心臓は今日中に食べる。全てワイルドホースの、とついていたので馬の種族はワイルドホースであっているはずだ。
解体も終わったので、町へ向けて出発するためにまず森の位置を確認しようとして辺りが薄暗くなってきていることに気づいた。
どうやら解体に夢中になり過ぎて時間が経っていることに気づかなかったみたいだ。急いで野営の準備をしよう。
「レイドッグ、ゴブ、あとは……カー。枯れ木を集めてくれ」
「わん」
「ガフ」
「くあ」
枯れ木を集めてもらうのは、もちろん焚き火をするためだ。森から出てしまったのでわざわざ集める必要がある。明日からは移動しながら集めるようにしよう。
続いて寝床だけど丁度いい木が無いので、タランを仲間にする前のように毛皮を何枚か敷き詰める。手に入れたばかりのワイルドホースの毛皮は他の毛皮と違って肉をそぎ落としても脂っぽさが取れないので、多分加工が必要なんだろう。
寝床の準備が出来たら次は料理だ。今日は火を使わないのでレイドッグ達を待たなくていい。
まずは仲間の魔物達の分。今日は蝙蝠の肉にしよう。魔物達に合わせて丁度いい大きさに切り分けていく。カーの分は少し大きくしたほうがいいかな。
切り分けたら次は自分の分だ。獲れたてのワイルドホースの心臓を適当に切るだけ。今日の俺の夕飯は馬のハツの刺身だ。醤油が欲しいけど無いものは仕様が無い、塩で我慢しないと。
そうこうしているうちにレイドッグ達が帰ってきた。それぞれが拾ってきた枯れ枝を一箇所にまとめ置くとゴブがそれを重ねるように組みなおす。そして、リザルドが口から吐いた火で枯れ枝を燃やす。森を歩いている間に慣れてしまったみたいで、いちいち指示しなくても野営の準備をしてくれる。頼もしい限りだ。
ハツの刺身はあっさりとした味でこりこりとした食感が美味しかった。ただ、塩だとどうしても淡白すぎるので、醤油を手に入れるまではもう作らない。なんにせよ、久しぶりに焼いた肉以外のものを食べたのでそれだけで幸せな気持ちだ。
今日はいい夢が見られそうだ。幸せな気持ちとララビィを胸に抱いて、モリーによる吸血で俺は今日も意識を落とした。