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虫が好かない

 退屈だ。朝から4時間くらい魔物と出会うことも無く歩き続けている。現実じゃないからだと思うけどまだ歩けないほど疲れてはいない。

 今はレイドッグとリザルドが俺の前を歩いていて、右にはララビィ、左にはゴブ、頭の上にカー、そして俺の腕の中に未だに目覚めない小型犬サイズの蜂がいる。


「みんな、もう少し歩いたらお昼にしよう」

「ガフガフッ!!」


 ゴブが手に持った槍を天に掲げる。よっぽどお腹がすいてるんだろう。


「ガフ!?」


 槍を掲げたまま歩いていたゴブが急に後ろに倒れた。そして槍だけが取り残されたかのように宙に浮いている。


「ゴブ、大丈夫か?」

「ガ、ガフッ」


 倒れているゴブの手を取り引っ張り起こす。何が起きたのかと槍を引っ張ってみたら白い糸がくっついていた。槍が蜘蛛の巣に引っかかっていたようだ。

 引っ張った時に伸びた糸をダガーで切り、穂先にくっついている糸を草に擦り付けて取ってゴブに投げ渡した。

 ……そうだ! 蜘蛛を仲間にしてハンモックを作ってもらおう。朝起きた時の身体の痛みとサヨナラできるかもしれない。

 さて、どうやって仲間にしようか。と、今度は頭上からブブブと音がした。もしかしてと見上げると木の枝の間から蜂が数匹こちらに向かってきていた。もちろん小型犬サイズだ。

 丁度いいからこいつらを使おう。


「ゴブは槍の柄で、リザルドは尻尾で、蜂を蜘蛛の巣に弾き飛ばせ!!」


 2匹に指示を出した後、未だ目覚めない蜂と頭の上のカーを地面に下ろす。


「ララビィ、レイドッグ。お前たちにはこいつらを任せる」


 立ち上がり蜘蛛の巣から少し離れて蜂の襲撃に備える。ゴブとリザルドも俺の斜め後ろに陣取った。高所にいる蜂には攻撃が届かないので、俺を囮にして下りてきた蜂をリザルドとゴブが攻撃する布陣だ。


 蜘蛛が巣に現れるのを待っていると、痺れを切らしたように蜂が1匹俺目掛けて突っ込んで来た。蜂の突撃はスピードがあったけど左へ跳んでかわすことが出来た。

 俺の右を通り抜けた蜂は、直ぐに突撃よりも速いスピードでもう一度俺の右をとおり蜘蛛の巣にくっついた。後ろの2匹に弾き飛ばされたんだろう。作戦どおりだ。

 ほめてやろうと後ろを見たらリザルドが胸をそらして誇らしげにしていて、その隣でゴブが悔しそうに地団駄を踏んでいた。蜂をやったのはリザルドなんだろうけど……なんで張り合ってるんだ?


「わんッ!!」


 レイドッグの声に前を見ると新しい蜂がこっちへ向かってきていた。

 レイドッグの警告が早かったこともあって今度も横っ飛びで回避し、蜘蛛の巣に蜂が追加される。

 ちらっと後ろを見ると今度はゴブが攻撃したようだ。リザルドが不機嫌そうに尻尾を地面にたたきつけている。

 


 その後、3匹の蜂を蜘蛛の巣にくっつけてやった。蜘蛛の巣の主も全て繭に包んでから食事を始めた。

 食事が終わったら仲間になってくれるかなと期待しながら俺達も昼食にすることにした。今回も肉を焼くだけのメニューだ。

 


 リザードのステーキを3分の2くらい食べたところでウィンドウが現れる。恒例の名付けだ。

 蜘蛛の名前か、見た目じゃ種類はわからないしなんてつけよう。

 ……タラン、タランチュラからとってタランにしよう。直ぐにウィンドウに入力した。

 

 するといつもと同じようにウィンドウが消えて、その下から同じウィンドウが出てくる。何でだろうと思ったら横に置いていた蜂の足が動いていた。どうやら蜂も目を覚ましたらしい。

 蜂にはそうだな……ミツバチからミツバにしよう。

 しかし、やっと空中戦力が手に入った。これからは蜘蛛や蜂が現れても自分を囮にしたりしなくて済む。他にもミツバは腰を落ち着ける場所が出来れば蜂蜜を作ってくれるかもしれないし、タランの糸も使える場面は多そうだ。

 俺が新しい仲間への期待に胸を膨らませていると、すぐ近くでなにやら争う音が。争っていたのはタランとミツバだった。

 争うといっても全力で攻撃しているわけではなく、ミツバがタランをお尻の針でつんつんとつついているだけだ。それに対してタランが後ろ足2本で身体を持ち上げ威嚇している。


「2匹とも落ち着いて。とりあえず挨拶をしよう。俺は大地、これからよろしくな」


 間に入って挨拶をする俺に、タランもミツバも身体を摺り寄せて答えてくれる。が、相手も同じようにしていることに気づくとまた争い……いや、ケンカを始めた。


「仲間なんだからやめろって……」


 あっ! タランの吐いた糸でミツバが動けなくなった。




 あの後俺たちはミツバを自由にしてから食事を済ませ、タランの糸で包まれた蜂を背負い袋に回収して出発した。道中で何度か蜂や蜘蛛に襲われ余り進めていないがこればっかりはしょうがないと思う。まあ進めていない原因は襲ってくる魔物のせいだけじゃないんだけど……。


「ほらミツバ、タランにちょっかい出すな。タランも威嚇しない」


 歩みが遅い理由の3分の1くらいはタランとミツバのケンカだ。今もミツバがタランにちょっかいを出してそれにタランが威嚇している。

 多分ミツバは蜘蛛の巣にかかったことがあるのでそのせいだと思うけど、別の蜘蛛なんだから仲良くしてくれないかな。

 ケンカを続ける2匹を引き離し、ミツバを掴まえて逃げられないように腕に抱く。


「ミツバはすぐにちょっかい出すからしばらく俺の腕の中で反省しろ」


 すぐに大人しくなるミツバ、最初からこうすればよかったな。

 そのまま歩き出すと背中が何かに引っ張られる。確認するとタランが俺の背中に糸をくっつけぶら下がっていた。ミツバに対抗してんのかな?

 ちょっと重いけど歩けないほどじゃない。疲れてきたら下りて貰おう。


 と、今度はララビィが俺の脚に身体をこすり付けてきた。


「どうしたララビィ? 離れてくれないと歩きづらいんだが」

「ぷん?」


 こっちを見上げて首をかしげるララビィ、純白の姿はまるで天使のようだ。……って、そうじゃない。


「少し離れてくれないか、ララビィ」

「ぷん?」


 ……可愛いなぁ……。って、またトリップしそうになってしまった。

 それにしても何でララビィは離れてくれないんだ?ミツバとタランに嫉妬とかだったら嬉しいなぁ。


「わかった、夜はお前と一緒に寝る。それでどうだ?」

「ぷんっ!!」


 嬉しそうにひと鳴きして俺の足から離れるララビィ。どうやら本当に嫉妬してくれていたようだ。

 とにかくこれでまともに進める。


「わんっ!!」

「ガフッ!!」


 と思ったらレイドッグとゴブが俺に跳びかかってきた。リザルドも不満そうに尻尾で俺の脚をバシバシ叩いてくる。


「わかった、わかったから。お前達も寝る前に相手するから」

「わん」

「ガフ」


 よし、今日は早めに寝る用意をしよう。




 暗くなる前に焚き火を用意し、今食事も終わったところだ。時刻は8時過ぎ、辺りからキーキーと不気味な鳴き声が響いてくる。

 これからタランに一仕事してもらう。


「タラン、木の間にハンモックを作ってくれ」


 タランの目の前にしゃがみこみお願いすると、タランは近くの木に登り作業を始めた。出来上がるまでは約束どおりレイドッグ達の相手だ。


「まずはレイドッグ、おいで」

「わんっ!」


 レイドッグは俺の前に来るとこちらに腹を向け横になった。思いっきり撫でてあげよう。


「よーしよし」


 首に抱きついて右手で首から背中をとおり尻尾の付け根まで撫でてやる。すると、すぐに尻尾を左右にブンブン振り出した。喜んでくれているようで何よりだ。

 がっしりとした体は力強く撫でることが出来るし、さらさらの毛並みが気持ちいい。



「次はゴブだな」

「ガフ!」


 30分ほど堪能してからレイドッグを開放しゴブを呼ぶ。すぐに俺の目の前に立ったゴブ、こいつはどう可愛がろうかな。


「いつもありがとうなゴブ、森ではお前に助けられてばかりだ」


 少し考えて、俺は褒めながら頭を撫でてやることにした。髪の生えていない頭はツルツルとしていて手触りは悪くない。

 ゴブも気持ちいいみたいで笑ったお爺ちゃんみたいな顔をしている。このやり方でよかったようだ。



「最後はリザルドだな。ほら、おいで」


 近づいてくるリザルドの背中を撫でる。少ししっとりとして滑らかな手触りはいつまでも撫でていたくなる。

 しばらく撫でてるとひっくり返ったので今度は腹だ。こっちはプニプニしていて不思議な手触りだ。こっちも不思議といつまでも撫でていたくなるな。不公平にならないように時間には気をつけないと。



 3匹とも30分ずつ、1時間半も撫でていたのでハンモックも出来上がった。


「ありがとな、タラン」


 タランにお礼を言ってひと撫でし、ララビィを先にハンモックにのせてから俺もハンモックに入る。ララビィのふかふかとした毛に包まれながら俺は眠りに落ちていった。

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