毒舌平凡ちゃんと毒舌美少年くん
「櫻井さん、櫻井さん」
「なに、都筑くん」
「ゲームをすることで社会に貢献できると君は思うの?」
「さぁ?でも私の幸福にはなり得るよ」
「・・・君の飄々としてるとこ、好きじゃないなぁ」
「私も君のそういうとこ、あまり好かないよ・・・美少年くん」
「その呼び方はやめてよ、美優ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
イラつくよ?すっごくすっごく
でも途中で諦めるのはもっと嫌だから、嫌だから。
だから今日もこのゲームを楽しんでいこうじゃないの?
私は桜井美優。ただゲームがちょっと好きすぎるだけの女子高生。
で、隣の席の美少年くんもとい都筑瑠希くん。私が勝てない相手である。
ちなみに私は名前にコンプレックスを抱いている。
みゆ、ではなくみゅうと読むこの名前。
私に似合わないわ、お世辞にも一般的な名前とは言えないわ、完璧に名前負けしてるわで。
まぁもっとひどい名前もあるわけで、それに比べたら全然ましなんだけど。
可愛らしい響きが私に合わないのもなんとなく苦手である。
逆に瑠希とか男でも女でも通じる名前って素晴らしいですね。なんなんですか、美少年くんは名前にも恵まれちゃってる系男子なんですか!?リア充爆発しろ。
あ、でも都筑くん性格には恵まれてないわ。ただの性悪美少年ですわ。
でも女の子にはモテますよね?ギャップがいいそうです。
マジで都筑くん一回あの世で花見してきたらいいと思う。五年くらい。
「櫻井さん」
「んー?」
「君こそあの世で十年くらいお花見してきたら?」
「あれー?声に出てた?」
「違うよ。君が顔に出すぎるの、その間抜けヅラに」
「私そんなこと言われたことないよ?都筑くんがエスパーなだけじゃない?」
「どうだろうね?」
「どうでもいいよ。都筑くんの性格が悪いことに変わりはないから」
「あはは」
「ふふ」
二人でにっこり笑い合い。
あれ?左隣(右は都筑くん)の上田くんどうして離れていくのかな?前の席の水口さんまで。
というか気づいたら周りに人いないね、なんでだろう。
というかクラスがすごい静かだ。全員顔がひきつってるね・・・ま、いっか。
「君だっていい性格してるよね」
「美少年くんに褒めてもらえるなんて光栄だね」
「皮肉だってわからないなんてその頭、終わってると思わない?」
「皮肉の皮肉だって言ってること分からない方が終わってると思うよ?」
「わかってるよ?君にはそれくらいの知能があるようで安心した」
「あ、わかってたの?よかったよかった。でも君に心配されるほど落ちぶれてはいないよ」
「それはこっちの台詞だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんでチャイムが鳴って、皆が安心したように微笑んで。
でも私たちの戦いはまだまだ終わらないんだ、ごめんね?
「おー、授業はじめんぞー」
先生の声、まぁ今は大人しくしておこうか。
ま、あくまで今は・・・・・・だけどね。
ニコリ、笑って都筑くんを見ると彼も笑ってて。だからこう言ってみた。
「「また後でね?」」
その声が重なって、周りの人が絶望したような顔をして。
そんな顔しても私たちのゲームはまだまだ終わらないんだよね、都筑くん。
「都筑くん都筑くん」
「なに?櫻井さん」
「さっきゲームをして社会にどんな風に貢献できるの、って言ったよね」
「うん。余りにも君の脳みそが可哀想になったから」
「へぇ、都筑くんにも哀れむ心なんてあったんだね!・・・ゲームを買うことで会社の人を私は喜ばせてるんだよ。楽しんでプレイする人というのは、開発者にとって素晴らしいものだと思わない?」
「何言ってるの?僕は優しいから当然でしょ・・・開発者にとっては素晴らしいことだと僕だって思うよ。でも、やることによって本人の能力値に貢献できるの?」
「手先が器用になるよ」
「へぇ!すごいね・・・不器用な櫻井さん」
「あとは想像力かな?乙女ゲームとかギャルゲーとかそういうシュミレーション的なので。というか都筑くんいい加減ゲームを好きな人を馬鹿にするのやめなよ」
「そういう風に聞こえたの?僕はゲームを楽しむことはいいと思うよ、ただ君を馬鹿にしたいだけ」
「ぷっ、まるで好きな子にかまって欲しい小学生みたい」
「うんじつはぼくさくらいさんのことすきなんだー」
「あはは、じつはわたしもつづきくんのことすきなんだー」
「刺し殺したいくらい好きだよ?」
「殴り殺したいくらい好きだよ?」
授業が終わって休み時間。
私たちはの戦いはまだまだ終わらない。
そういえばこの戦いの最初はやっぱり都築くんだったなー、なんて笑顔の裏で思い返して。
『櫻井さん櫻井さん』
『・・・都筑、くんだっけ』
『うん。今日から隣の席だよ・・・宜しくはしないけど』
『奇遇だね。私も目立つ人と関わりたくないんだ』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
あの時は思ったなー、“コイツ私に似てる”だなんて。
でも全然似てなかった。見た目も、好きなものも、育ちも、唯一似てるのは性格と能力くらいで。
美少年な都筑くんと平凡な私。
読書家な都筑くんとゲーマーな私。
御曹司な都筑くんと一般家庭な私。
成績は二人で主席次席を取り合って、運動は男女ツートップで、舌戦を繰り広げ合って。
それでも本当に、完璧に、どこまでも嫌いになれないのがとてつもなく憎いよ。
「櫻井さんの腕をもぎ取りたい」
「都筑くんの脚を切り落としたい」
「目をくり抜きたい」
「髪を引っこ抜きたい」
「鼻を潰したい」
「背骨を粉砕したい」
「でも声を聞く耳と、」
「しゃべるのに必要な声帯と口はだめ」
周りが引いてるのが空気でわかった。でもこの口も笑顔も止まらないんだよね。
殆どが正反対でも、ああやっぱり少しだけ似てるかもね。
「よくわかってるね」
「当然でしょ、まだ勝負は終わってないもの」
「ホント櫻井さんは面白いよね」
「その言葉、そのままそっくり返させていただくね?」
「でもそのうち席替えとかあったらゲームも終わっちゃうね」
「わざわざ都筑くんの席に行くのもゴメンなんだけど」
「それは同感。・・・まぁ菊池を脅せば問題なんてないよね」
「あはは、すっごく黒いよ都筑くん」
「櫻井さんにだけは言われたくない言葉、ナンバースリー」
「ちなみに一番は?」
「“ゲームを終わりにしよう”」
「安心しなよ、勝敗が決まるまでそんなこと絶対に言わないからさ」
「そう?」
クスクス、あくどい笑み。『終わった・・・』なんてひどいな、私たちのことは気にしなきゃいいのに。
え、、無理?でもいつかは慣れるよ、人なんてそんなもん。
だから都筑くんだっていつかは私との勝負、飽きるよ。
だから人はあまり好かないんだよね。
「櫻井さん櫻井さん」
「なに?」
「飽きた、なんてやめてね?」
「・・・都筑くんこそ」
「人なんて新しいものに目移りしていくものだからね。ゲームみたいに、飽きたなんて言いだしたらホントに殺すよ」
「そっちこそ、新しい本を見つけて私に構ってる暇なんてなくなった、とかいうのは無し。そんなこと言い出したらこっちが殺してやる」
「「やっと見つけた最高の玩具なんだから」」
「あ、被ったね」
「都筑くんってば私のこと玩具なんて思ってたんだー」
「あは、棒読み。君だって同じでしょ」
「まぁね。最高の、玩具だよ」
「うん。最高の、ね」
曖昧な関係、だからこそ成り立つ私と都筑くん。
曖昧だからこそ、終わりは来ない。曖昧だからこそ、明確な終焉なんてない。
互いが互いを“玩具”だと思ってるからこそ偽りはない。全てが本音。
全てが本音だからこそ、私と都筑くんの関係は、最初からヒビだらけで、歪で、丈夫。
恋人じゃない、友人じゃない、だからといって他人でもないお隣さん。玩具のお隣さん。
親愛、友愛、恋愛、隣人愛、慈愛、博愛・・・エトセトラ。
私たちの関係こそが本当の殺し愛なんじゃないかって思うんだ。
「あ、殺すのはやっぱなし」
いきなり変なことを言い出す都筑くん。
なに?今更怖気づいたの、怖いの、だったらこの勝負都筑くんの負けだけど。
「殺すんじゃなくて閉じ込めてあげるよ」
「・・・なんだ、そういうこと」
あは、はは、ははははは。
確かにね。玩具は壊さずにしまっておいた方がいっか。
「そういうとこ、嫌いじゃないよ」
「うん、僕も結構好きだよ」
「そうだ、負けた時の罰ゲーム決めてなかったね」
「自分の人生をかけた罰ゲームにしようよ」
「負けたほうが勝ったほうの言うことなんでも聞くとか?」
「あ、いいね。で勝敗条件もそういや明確にしてなかったけど」
「そういやそうだね」
「じゃ、行き詰まってもバツ。逃げてもバツ。あとはそうだね・・・交際もバツ」
「交際?」
「かまける時間がなくなるよ」
「そっか。じゃあそれで」
いつの間にか教室には誰もいなくて、そういや移動教室だったなぁなんて今更思い出す。
チャイムの音がゲームの本当の始まりに聞こえた。
「じゃ、本当のゲームをはじめよっか」
「よーい」
「「スタート!」」
「・・・熱入りすぎ」
「・・・そっちこそ」
二人でもう一回微笑みあって。
そんで私はついでに彼を引っ張ってその唇に口を重ねた。
都筑くんは一瞬驚いて、でもすぐにいつもの策士な笑みに戻って深く重ねてくる。
数秒間重ねて、相手の顔をもう一度見て。
「「負けず嫌いだね」」
最後にもう一回声が重なった。