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第7話:我が腕を食らえ

 運営様よりR18指定を受けたため大幅修正いたしました。(2019年3月1日)


 元の小説は修正作業が終わり次第『ノクターン』に掲載予定です。



 先日のドレバス・シティにおける触手群迎撃戦の成果により、イングリッドの財布は潤った……かに見えた。



「ま、まさか一晩で財布が空になるとは思わなかったな」


「いやいやいや、予想できたでしょう?

 今回は獲物が大量だったからギルドに納品していれば、またゼロが一つ増えるくらいの額だったんですよ?」


「マズイとは思ったが、ここで退いては女が廃ると思ったんだ」



 流石に今回は大失敗したとばかりに、うな垂れるイングリッドに呆れた顔で叱咤するクラミル。


 はて、何が彼女に今回の稼ぎをふいにさせたのか?



「まさか、戦勝効果で開かれたお祭りの夜店で手持ちを全部使うことになるとは思わなかった……」

「本当にバカですよね」


 そう、何にお金を使ったかと言うと、お祭りの夜店で今回得た報酬の全て使ってしまったのだ!


 しかも今回は誰かに奢ったなどではなく、全額自分たちのために使ったのだ。



「いやだって、祭りなんだから羽目くらい普通外すだろ?

 ワタアメとか射的とかヨーヨー釣りとか」


 ドレバス・シティでは何かにつけて祭りが開かれる。


 当然だ。人が集まれば祭好きも増え、祭り好きが大勢いると興味がない人まで祭好きになる。


 世界規模で見ても人口の多いこの街に暮らす以上、街の人口の9割以上が祭好きなのだ。


 そしてイングリッドは大の祭り好き。クラミルも祭好き。

 ならばどうなるか?


 簡単だ。散財するわけだ。



「イングリッド様がお金の使い方が下手なのは分かっていますけど、射的や輪投げみたいなショボイ出店でまでお金を使い過ぎですよ」


「ちっちっちっ、射的や輪投げの良さが分からないようじゃ半人前だぜ、クラミル」



 イングリッド曰く、祭りの醍醐味は雰囲気に呑まれること。


 周りと一丸となって盛り上げ楽しむためには必須であり、呑まれればそれはもう散財する。


 つまり彼女にとっては楽しむことと散財することがイコールで繋がるのだ。


 勿論、クラミルもそのことは十分理解しているので今回の散財の三割ほどは彼女が使い込んでいる。



「それにしても困ったよなぁ~。

 財布が空なのに銀行はお祭りの影響で休みだからお金が下ろせないし」


「家の冷蔵庫も空ですからねぇ~。

 非常用のカップ焼きそばならありますけど、それで済ませますか?」


「カップ焼きそばが食べたい気分と、焼きそばが食べたい気分は別物。

 そしてワタシの今の気分は後者なんだ」


 せやな。気分屋のイングリッドのことだ。

 家にカップ焼きそばしか無いからと言って、食べる気がしないものは決して食べない!


 これぞイングリッド・クオリティ!!



「それじゃお肉や野菜でも狩りに行くしかないですよね。

 どのお店も祭の影響で今日は休日ですし」


 欠伸をかみ殺し、二度寝をしようと考えている、どうでも良さげな様子のクラミル。


 彼女は元々が馬なので、適当な草を食べれば満腹度は回復するため財布や冷蔵庫が空なくらいで動じたりはしない。


 だがイングリッドは人間だ。

 半分触手の血が混じってはいるが、人間である以上、その辺の草で腹を満たすことなど出来るはずがない。(光と水があれば光合成が出来るので死にはしないのだが)


 ならばどうするか? 決まっている。女の子たちの愛で満たすのだ!



 ◆ ◆ ◆



「で~? 昨日の今日であたしん家に来るだなんて~、本っ当にイングリッドはあたしが大好きなんだなぁ~♪」


「ちっ、分かり切ったこと言ってんじゃねぇよキーバ。

 お前ん家なら食欲と愛を満たせると思って来たんだからさ、さっさと飯出してくれよ」



 イングリッドとクラミルがやってきたのは昨日一緒に触手の群れの迎撃依頼を受けた心友であるキーバの家である。


 彼女も掃除屋として優秀であり、家はかなり立派なもの。


 一人暮らしなので料理もそれなりに出来るため業務用の冷蔵庫を持っているし、その中には多種多様の食材が常に入っている。


 イングリッドは何度もキーバの家にお邪魔しているのでそのことを知っており、食欲と性欲をみたすのにこれほど都合の良い相手がいないという自然な流れで、突撃隣の晩御飯というノリを敢行したのだ。


 クラミルはクラミルで、すでに勝手知ったるキーバ邸の台所にて、プロの料理人よりも優れた腕を披露している。



「この家だと普段使えない高級食材も多いですからね。

 調味料は打点を高く、そしてやっぱり欠かせないのは……」


 ファサーっと撒かれる塩、コショウが加わり鼻腔を刺激する匂いが強まる。


 満足げな表情のクラミルが、次に棚から取り出したのはドレバス・シティではごく当たり前に使われる料理の必須素材。



「「「やっぱりオリーブオイル♪」」」


 ボトルに入っていたオリーブオイルを一本丸々フライパンに注ぐ。


 普通なら溢れそうなものだが、無駄に洗練された無駄のないクラミルの調理テクニックはそんなミスはしない。


 まるでフライパンの上をオリーブオイルが踊っているかのような煌めき溢れまくりのクッキングタイムである。


「よし! 歓声ですよお二人とも♪」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりにイングリッドはテーブルセッティングを整え、キーバは一般家庭では定番の一言を。


「クラミルちゃ~ん、出来栄えはいかが~?」



 今度はクラミルの方が、その言葉を待っていましたというドヤ顔を見せる。


 これはこの世界の一般家庭で毎日見られる当たり前の光景である。



「もう最高です!

 今日の料理はイングリッド様の腕から生やした触手を千切って貰って炒めたものです。

 腕によりをかけて作りました! 材料が腕だけに!」



 その味を表現するなら、まさしくシャッキリポン。そう、イングリッドの体は触手型クリーチャーとのハーフであるため、肉のように見えて実は植物っぽいのである。


 人としての骨格――骨だけでなく、細胞壁があるから彼女の体は頑丈なのだ。

 再生能力も植物並みにポンポン再生するため、手足の一本や二本ならばものの数秒で生やせる。


 なら最初から自宅でイングリッドの腕を材料に料理をしろよ、という話になるかと思われるが、一般家庭にとって必要不可欠なオリーブオイルがないので友人であるキーバの家に来たという訳だ。


 オリーブオイルがない料理だなんて、この街の住人には耐えがたいから仕方がないのである。



「さっすがクラミルの料理の腕とイングリッドの触手だけあるぞ♪

 あたしの舌を満足させるのは二人の合体料理以外にありえない♪」


 料理の美味しさに舌鼓を打つキーバの反応も当然であろう。


 この料理はイングリッドの触手を材料にしているため、広い意味では「野菜炒め」なのだ。


 宗教上の理由で肉が食べれない人でも安心して食べられるお肉っぽい野菜としてスーパーに売り出せば大儲け間違いなしなのだが、触手を千切るのは鼻毛を抜くのくらい痛いので基本的にはしない。


 だが、友人にオリーブオイルと調理スペースを借りたのならば、腕の一本や二本安いものだ。



「さぁさぁ、じゃんじゃん食べてくださいよ二人とも♪

 おかわりは、まだまだありますから♪」



 こうして楽しい食事は夜遅くまで続き、飲めや歌えのドンチャン騒ぎを聞きつけてキーバの家には人がさらに集まり、街のお祭りはさらに盛り上がったのでしたとさ。


 ちなみに、この影響から銀行もその他のお店も一週間臨時休業で飲み食いに明け暮れたそうな。




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