第4話:イグニッション
わぁお! 連載開始早々にパソコンが壊れてしまいました♪
投稿前の修正作業は携帯から行っておりますが、懐かしい面倒くささですね。
確か1作目と3作目以来ですが、携帯から操作するのは、面倒だけど懐かしいから悪くない♪
という訳で、前書きと後書きが無い話が多くなるかもです。
ジリリ、と鳴り響く目覚まし時計に起こされる美女。
大きなベッドの真っ白なシーツに、汗染みとシワを残しておき上がった彼女こそ、掃除屋を生業としているイングリッドその人だ。
……いや、人というか、触手と人間のハーフだから純粋な人間ではないが。
「ふわぁ~ぁ……あ、また目覚まし時計壊しちまったな。
投げたり蹴ったりするわけでもないのに何で壊れっかねぇ~?」
「それは叩く力が強すぎるからですよ」
ベッドに上半身のみを起こした寝ぼけ眼のイングリッド。そんなだらしない彼女にコップに入った水を手渡すのは愛馬クラミル。
イングリッドは大ざっぱな性格の割に綺麗好きなので掃除はきちんとされているが、家事は適当に済ませるため食事や洗濯などはクラミルが行っているのだ。
そもそも水と日光さえあれば食事も睡眠も必要なく活動出来るので仕方がないことではある。
しかし彼女の性欲だけは他の欲求とは別格の強さだと明記しておこう。
「悪いなクラミル。
ところで酒はあるか?」
「昨日何杯飲んだと思っているんですか?」
「……確か9樽だったな」
「いいえ。イングリッド様は『9樽でいい』とか言っておきながら、一人で10樽も飲み干したのです。
しかもギルドにいた他の人にまで高級なお酒を振る舞って、通帳からゼロが二つ減ったんですよ?
ちゃんと分かってます?」
「じゃあ次の依頼でゼロ三つ増やしてやるよ」
ベッドから起きるとクラミルが素早くベッドメイキングをする。
これも習慣となっているが、クラミルは何だかんだでイングリッドのお世話をするのが好きなのだ。
「お片付け♪ お片付け♪ チャ~ララ~♪」
鼻歌交じりにお片付けクラミル。
「……パソコンやネット通信が触手たちによって破壊されて久しい現代にそのネタは分かりにくいと思うが、ワタシの愛馬だけはあるな」
触手は人類を滅ぼすため、最初に生み出された触手王はネット特化型の触手クリーチャーを数多く生み出したので娯楽には乏しいこの世界。
しかしオタク文化はネット環境がなくなろうと滅びることはなく、今日も漫画やアニメといった第三次産業に関わる人間は、第一次産業や第二次産業よりも傾斜増加中である。CCO。
まったく、世界が一度滅んだ後だというのに人間というのは欲深いものである。
「それよりも、昨日はどうなったんだ?
酒を飲んだ後はいつも通りに遊んで暴れたと思うんだが、ベッドにはワタシ一人しかいないぞ?」
「昨夜はべろんべろんに酔っぱらっていたのでイングリッド様は誰もお持ち帰りしていませんよ。
だからでしょうが、自宅まで運びベッドに寝かしつけた私を抱き枕にしたまま朝まで爆睡ということについてどう思いますか?
朝食の支度がまだできていないんですけれど」
「……悪い」
「許しましょう」
クラミルとて馬である以上、人化できようが主従の立場はわきまえるべきだと考えている。
しかし主であるイングリッドはその辺に無頓着なうえ、普通にクラミルも可愛がる。ペット感覚だ。
これでは幾らクラミルが一歩下がって主の影として行動していても、敬意が薄れてくるのも仕方がないことだろう。
結局、この日の朝食はトーストと目玉焼きにサラダという簡素なもの。
何を食べても「美味い美味い」というイングリッドとはいえ、クラミルは不服そうである。
勿論、イングリッドはクラミルの作る料理は美味い美味いと食べるのだが。
◆ ◆ ◆
「なぁ、ワタシの誘いをそろそろ受けてはもらえないかい?」
「お断りします」
ギルドで何時ものように受付のハルカトーゼ嬢を口説いて玉砕したイングリッドは掲示板から依頼を漁る。
彼女が街に帰ってきている間、毎日行われる恒例行事なのだが、その誘いが成就したことは一度もない。
ちなみに言っておくが、ハルカトーゼのガードが固いだけでイングリッドは普通にモテる。
ジュースを両手に持ってきた従者クラミルは、ハルカトーゼ嬢に振られた主にいつも通りの呆れた視線を叩きつけながら着席するのであった。
「お、クラミル。今度はこの依頼なんてどうだ?
それとお前が持ってきた飲み物、ジュースなんだけど何で?」
「どうせまた危険度:激高で正体不明の触手の討伐依頼ですよね?
それとイングリッド様は昨晩お酒の飲み過ぎでお金を使い過ぎたから安いジュースを買ってきました」
「そりゃそうさ。
ワタシの目的は世界を滅ぼした原因であり、父親でもある触手王の討伐だ。
程度の低い依頼なんて受けやしないさ。
それとお酒飲みたい♪」
「駄目です」
お酒を飲みたがるイングリッドと、それをあやすクラミル。
いつもの光景というものは見る者の心を日常と言う名の平穏に留める効果があり、それはすなわちイングリッドがこの街のこのギルドにおいて欠かせない存在であることを示すものである。
あと、彼女は依頼人が女性ならば敵の正体や強さに関係なく例外として引き受ける。
イングリッドは女性からの依頼は無条件で受ける。当然だ、百合なのだから。
今回、彼女が選んだ依頼も、高難度で正体不明触手の調査であり、依頼人は女性である。
「でもこの依頼は止した方がよくないですか?
依頼主はイオリーン・ウォルター。典型的な貴族のお嬢様が見栄で張り出したっぽいですし」
「そんなことは関係ない!
ワタシはこの依頼を受けるぞクラミルぅぅぅー!」
「はぁ……、相手が女性であれば誰でも良いというのですか」
「誰でも良いってわけじゃないさ。
ただ少し……。そう、ほんの少しワタシの溢れんばかりの愛情で頑なな心を揉み解して柔らかくしてやるのもいいと思ってさ」
イングリッドが揉めばどんな女性でも心の封印は解けられる。
どこを、とは言わないが彼女の手揉みはテクニシャンである。
本来ならば相手の同意なくセクハラ行為をするのは闇の力であり、悪人がこうした悪行を為せば身を滅ぼすが、
イングリッドのように高貴で謙虚な百合が行えば突然のえっちでも相手は受け入れてしまうのだ。
これもイングリッドのテクニックと人から好かれやすい裏表のない笑顔によるものである。
彼女は最初から正々堂々手段を選ばず真っ向から本音を隠さずに接してくるので相手も警戒心が解けられるという訳だ。
かつてネット技術が世界を覆い尽くしていた時代に活躍した謙虚な騎士もダークパワーについて言及していたが、イングリッドは人間と触手のハーフ。
つまり光と闇の両方の力の良い所取りなのだ。どんな相手にも勝つる!
「まぁ、私を口説けないようじゃまだまだですけどね」
今日も受付でにべもなく断固お断り一辺倒のハルカトーゼの心の鍵は開けなかった訳だが。
「おっし、そんじゃ景気付けに一杯やるぜぇぇぇー!
ここにいる全員、これから一時間限定でワタシが奢ってやるから好きなだけ飲み喰いしなぁぁぁー!」
「あ! またイングリッド様ったら勝手に無駄遣いするんですから」
しかしすでに言ってしまった言葉を撤回することも出来ない。
有言実行を良くも悪くも行うイングリッドは一方的だろうが不当だろうが、一度自分が口にした言葉には責任を持つ。
だからこそ面倒ではあるが、誰からも好かれているのだ。
そんな彼女が依頼で動くというのだから、さてさてこれはまた騒動の気配しか感じられないものだ。