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第18話:姉妹 中

 ひゅ~、ハードボイルドってこういうのかもしれませんね、的なお話。


 自身4作目の主人公はハードボイルドと言いつつギャグキャラになったのに、こちらは百合でギャグキャラだったんですけどね。


 ちなみにイングリッドは、固ゆで卵よりは生卵を飲むのを好みます。

 そしてサンドバッグを叩くことで良質な筋肉を鍛え、ベッドでの女の子とのチュッチュは無敗!





 猥雑なネオンに彩られ、昼も夜も関係なく賑わっているドレバス・シティでも常に一定以上の人気がある一角――歓楽エリア。


 戦争と触手型クリーチャーによって崩壊したこの世界において、犯罪行為は個人個人の良識で律せられるものであるため、この区画では酒、色、薬、なんでもござれである。


 金と両者の同意さえあれば何をしても基本的に問題にはならないが、ひとたび問題になれば一部の良識ある者たちによって取り締まられている。


 だから、問題にならなければ問題はない。


 その場所――このエリアでも特に人気のある娼館<イングリッド様への愛を>の前では今日も元気に問題行動を起こした、ちょいワルが一人の女性に潰されていた。

 そう、一部の良識者であるその女性の手によって。


「ワ・タ・シ・がッ! この街にいる限り、この店に手出しさせるわきゃねぇだろぉぉーがぁぁぁーッ!!」


 人間離れした怪力で身長2メートルオーバーの大男をジャンピング・ゲンコツで上から殴り、物理的に身長を20センチにまで縮める。

 死んではいない。元大男は気絶。


「ひ、ひぃぃぃ~!」

「逃がすかぁぁぁー!」


 逃げ出そうとした元大男の連れを、触手状に伸ばした腕でぐるぐる巻きにする。


 当然、男はぐしゃりと圧縮され、スリーサイズが上から20、20、20となる。死んではいない。


 もうお分かりだろう。理由があるとはいえ、ここまで「男」に対して厳しく出来る人物、それは紛れもなくイングリッドである。



「ま~ったく、何で懲りないのかねぇ~?

 別に殺したりはしないけど、一生もんの障害が残るぜ? ワタシの折檻はよー」


 だが容赦はない。悪漢、潰すべし。慈悲は無い。


 イングリッドは辺りを見渡し、他に敵がいないことを確認すると悪漢どもから守ったばかりの行きつけの娼館の入口を潜る。


 入口の看板には店名の横に、『あらゆる希望を求めよ』と前衛書めいた書体で書かれており、この看板は来る者の知性と愛を見極めるものである。


 この看板を読める者なら店の女の子たちとの会話も弾むし、人一倍ハッスル出来るであろう。真の百合にしか読めない百合的前衛書だ。


 そこから廊下を進むと、壁には『無敵のイングリッド』『的確なイングリッド』『難攻不落のイングリッド』と、有名な書道家にゴシック体でプリントアウトさせた作品が額に入れられて飾ってある。


 そう、この店――<イングリッド様への愛を>は、イングリッドへの愛が溢れる女の子たちが愛情をこめて作ったお店なのだ。


 名前からも分かるだろうが、性的な意味での客はイングリッドだけ。

 他の客も来るには来るが、普通に酒を飲んだりミニ四駆で遊んだりというイングリッド以外には健全な店なのだ!


 彼女のファンクラブの男連中も入り浸っては毎夜毎晩ミニ四駆談義に花を咲かせている。


 イングリッドはというと、普段は男が玩具で遊んでいる間に店の女の子たちの「花」を愛でている。


 その店に! 今! イングリッドが突き進む!

 ただ、今日は性的な意味で客としてやってきたわけじゃ~ないんだよなぁ~。



「おっす! みんな元気にしてっかー?」


「きゃぁぁぁぁぁー♪ イングリッド様ぁぁぁ~ん♪」

「来た! 愛しのイングリッド様が来た♪」

「これでイケる♪」


 歓待の声に思わず頬が緩むイングリッド。

 理由はそれぞれで違うだろうが、皆それぞれにイングリッドを愛している。


 ある者はイングリッドのナンパで軽くベッドを共にしたことで、そのキスにひぃひぃ言わされたことで惚れ、

 ある者はありきたりな暴漢から助けられ、ひぃひぃ言わされて惚れ

 ある者は普通に一目惚れして触手プレイによるチュッチュに、ひぃひぃ言わされた。


 権力とは縁遠いように見えて友人知人にコネも多く、また個人資産と腕っ節に関しては天井知らずのイングリッドを慕う者ばかりで構成されたこの店はまさに極楽である。



「今日は遊びに来たんじゃないんだ。

 店長いるかい?」


「あっ♪ て、店長なら……奥に、いますぅ……んぅ♪」



 手近な女性に挨拶代わりに頬にチュッとするイングリッドだが、当然この女性もイングリッドを愛している。


 触れられただけで頬を朱に染め、仕事でやってきたイングリッドの邪魔にならないように一歩下がった対応。


「ありがとよ」


 離れる唇の感触を寂しそうにされると、イングリッドはもっとハッスルしたいと思う。こんな悲しい顔をされたんじゃ百合としての矜持に反する!


 だが先に済ませなければいけない用事を優先せねばならない。それが真面目モードのイングリッドである。


 勿論、唇を離すときに耳元で愛を囁くのを忘れない。

 一度だけ。仕事前の一度だけ。その思いでイングリッドは愛をキスに込めて耳に触れる。


「あとでな♪」


「ふぁっ♪」


 太ももを大きく痙攣させ、立っていられなくなった女性を優しく抱き留めて椅子に座らせると、イングリッドは後ろ髪を引かれる思いで部屋の奥へと進む。


「跡が楽しみ過ぎて堪らないねぇ~♪」


 流石はトップクラスの掃除屋だけあり、仕事には信念を持っているイングリッド。血の涙を流して悔しがっているが、仕事は仕事。

 自分を求めてくれた女の子をたった一度幸福にさせただけで止めねばならないだなんて……。



「ち~っす、店長。邪魔するぜ~」


「邪魔するくらいなら抱いて~」


「あいよー」


 中に入ったイングリッドを出迎えたのは、全裸で一人えっちしていた美女。

 思わずお約束で返し、博愛固めを極めようとしたところで我に返る。


「っておい! 今日のワタシは仕事で来たんだよ!

 理性を壊すようなこと言うんじゃねぇ!」


「あら、それは残念。

 うちは何時でもあんたを受け入れる準備が出来とるで?」


 全裸の美女――彼女の名はフィリー・アルグレイン。この店の店長だ。


 嘘か真か本人曰く、遠く離れた異国よりイングリッドの百合力を感知してドレバス・シティまで越してきた百合の美女である。


 背が高いイングリッドよりもさらに飛び抜けて背が高く、その身長は190はあろうか。


 若々しい肌艶と均整のとれたスタイルの良さで見た目は20代後半にしか見えないが、その正体はアンチエイジングを研究する科学者で、かなりの高齢だとか。


 真っ白なさらさらショートヘアーに、安っぽい猫耳カチューシャが乗っており、大人の魅力溢れるフィリーをギャグ要員のように見せる。

 これはイングリッドが面白半分で、夏祭りの夜店で手に入れた物をプレゼントしたら大事にされているだけである。


 酔った勢いと祭の雰囲気で、あげた当時は安っぽい猫耳カチューシャは笑いをとれていたのだが、こうして普段使いにするには少々子どもっぽ過ぎるだろう。

 これを見るたびにイングリッドは、もっと気の利いた物を送ればよかったと当時の自分を叱りつけたくなるのだ。



「で? うちに会いに来るのにチュッチュ以外でなんかあんの?」


「ばーか、仕事だっ言(つ)ったろ。

 最近この店にちょっかい出してくる連中の黒幕が分かったんだよ」


「あら本当?

 それよりも、うちの店の新・看板メニューとして出す予定の<餡子入りパスタライス>って料理、食べてかない?」


「貰おうか」


 細かい説明は面倒なため、ハルカトーゼが調べてきてくれた資料メモを放り投げるイングリッド。

 こういうものは口で説明するより自分で資料を読む方が分かり易いというものだろう。説明下手なのを誤魔化すためにも。


 出された餡子入りパスタライスも食べるが、どうも炭水化物ばかりだ。

 これは客にオカズを欲するようにし、えっちな気分とミニ四駆パーツの購買欲をたかめさせるためだ。


(うん、美味い)♪」


 両者の同意が無ければ媚薬を盛ることも出来ないこの街において、薬物を使わずしてオカズを食べたくさせるこの料理はよく出来た代物だろう。


 実際、イングリッドはとてもムラムラしてきている。料理とは静けさの中に愛をたぎらせる何かが必要だからだ。つまりまったく、これでよいのだ。


 そんなイングリッドを横目に、舌舐めずりをしながら書類に目を通すフィリー。


「……なるほどね」


「ワタシはこれから問題を解決して来ようと思うけどさ。

 フィリーにとっちゃ因縁浅からぬ相手だろ?

 一応、解決する前にお前の話を聞きに来たんだ」


 刹那的快楽主義のフィリーが眉をひそめたことでイングリッドも声を真面目モードに戻す。

 内心では炭水化物によって興奮状態にあるが、それを一切顔に出さないあたり、流石は百合の極みと言えよう。


 フィリーは書類を全て読み終わると一言、


「うちの意見なんか気にせんっしょ?」


「まぁな」


 自分にはすでに関係の無い相手だから、と書類を全てゴミ箱へと投げ捨てるフィリー。



「ワタシは愛されたいから愛するんだ。

 今回も愛の力で愛し愛される方法で解決する」


「そう。なら好きにしてんか?

 依然変わりなく、自分自身のために。

 うちの惚れたイングリッド・ゾーションらしい方法で」


「極めて了解。ワタシはワタシの道を行くさ」



 まぁ、この回答はイングリッドにとっては予想通りであるため気にするではないが、それでも自分の肉親(・・)が敵というのは何かしら思うところもあるだろう。


 ハルカトーゼが調べ、イングリッドが持ってきた資料には、フィリーの店への営業妨害は彼女の妹が黒幕だと書かれていたのだ。



「じゃあ、ワタシは行くよ。

 とっととこの騒動を解決して、この店で美味い酒とオカズを食いたからな」


「行ってらっしゃい。

 ベッドの用意を整えて待っとるわ」



 気丈に見えて、幾千幾万の古狸を相手に出し抜いて成り上がってきたフィリー。

 そんな彼女は滅多なことで自分の心を他人に見せはしないが、付き合いの長いイングリッドは彼女の心の内を察している。


 相手が触手型クリーチャーでなかろうと、敵は潰す。仕事なのだから真面目に取り組むのは当然だ。


 だがしかし、それと同時にイングリッドは百合である。


 一つ、百合は声無き声を聞け。

 イングリッドの百合としての矜持は、フィリーや彼女の店だけでなく、彼女の妹も救いたいと思っている。


 両方こなさなくちゃいけないのは大変だが、それを成し遂げた時の達成感は、女の子とベッドインした時のキスと同じくらいだ。

 事実、ベッドインを目的に騒動の解決を図るのだから。


 イングリッドはそのまま目的の黒幕を潰して救うため、今は一人にした方がいいだろうフィリーの前から去るのだった。




 一応、<イングリッド様への愛を>は男女どちらでも歓迎しております。


 イングリッド以外の客でも、店の者が気に入ればそのまま奥に連れ込むことも可能です。男性客を相手の時にそれはまずありえませんが。


 あと、イオリーンがメインのR18の短編を「ノクターン」に投稿しました。

 タイトルは『愛しき人』。「なろう」の私のマイページからはいけないのですが、エロエロな触手の百合作品が気になる方は読んでみてください♪

 名前の元ネタのキャラへの祝福から書き上げました♪

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