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第13話:死を吹き飛ばす愛

 運営様よりR18指定を受けたため、大幅修正をいたしました。(2019年3月2日)


 元の小説は修正作業が終わり次第、『ノクターン』に掲載予定です。


 ――ガチャリ。

 後手にドアの鍵を掛けて鼻息荒く両手に抱えるハルカトーゼを見るイングリッド。


 両手が塞がっているのに鍵を掛けることが出来たのは触腕を生やしたからである。流石は触手ハーフ。


 そして、この場所はイングリッドが普段からよく利用するホテルの一室。


「……強引」

「悪い」


 ジトっと見上げてくるハルカトーゼの視線をどこ吹く風で受け流し、悪いと思ってもいないのに「悪い」と、平然といえるのは流石と言うべきか。


 だがそんなイングリッドは、両手に伝わるハルカトーゼ温もりに生唾を飲み、興奮を抑えるのに忙しい故の適当な返しなのかもしれない。


 それでも今日は強引に行こうと決めたイングッドは躊躇いの感情は捨て去り、両腕に抱きかかえるハルカトーゼをベッドへと優しく寝かせるのであった。



「する気?」

「ああ」

「私はロボット」

「それでも愛している」


 ギルドの制服姿のままだったハルカトーゼのほっぺに花を擦り付けて匂いを楽しむイングリッド。


 ハルカトーゼは、諦めているのか、受け入れているのか。どちらなのかは分からないがイングリッドは止まらない。

 拒絶されなければ押していく。


「ん……っ」


 口数少ないハルカトーゼの口から音が漏れる。


 彼女は自身をロボットだと言うが、感覚は人間のそれと変わらないのだろう。


 制服から露出した肩を撫でるイングリッドの手はじっとりと汗ばんでいる。彼女の体液は汗も含めてラブ効果があるのだから、すでに愛は始まっているのだろう。


 何百年という年月を生きてきた機械仕掛けの女の子。

 ミスリル銀という、この崩壊した世界では滅多に見ることのできない希少金属をふんだんに使い、科学技術の粋を極めた最高傑作である彼女だが、顔や手足といった衣服で隠せない部位以外が中の機械を剥きだしにしているのだ。


 触れたことでようやくイングリッドは気が付いたが、ハルカトーゼの服の下に皮膚は無かった……。



「驚いた? 皮膚に使う素材が経年劣化したから寄せ集めて顔と手足だけしか覆えていないの」



 元々、限りなく人間に近いロボットを作ろうとした科学者によって生み出された彼女は、人工的に作られたとはいえ自我も魂もあるし、ある程度の怪我(故障)は自己修復が可能である。


 それを可能にした、かつての科学技術でさえも時間の流れには弱い。

 少しずつだが、確実に壊れていく。



「あと一年もしないうちに全身の人工皮膚が維持できなくなる。

 ギルドマスターには理由と一緒に退職願いも受理してもらっている」


「……」


 あまりにも儚げで、あまりにも寂しげで。触れただけで壊れてしまいそうな繊細な心をこれまで強がって必至に隠していたということに、イングリッドは気づけなかった。その事に腹が立った。


「気にしないで、イングリッド。

 これが私の寿命。最後まであなたへの気持ちと一緒に隠していたかったけど、私の心を覗いてくれたことは、感謝しているわ……」


 しかし無情にも時間の流れは誰に対しても平等であり、すでに科学技術の大半が衰退したこの世界ではハルカトーゼの修復が出来るような科学者は居ない。


 勿論、人間の医者にも治せないだろう。素材も技術も失われているのだ。



「私は死を受け入れている。

 人工的に作られた魂だけれど、生きているのだからいつかは死ぬ。

 ただ少し……、愛することに疲れた、かな」



 寿命は秒読み。だがイングリッドは止まらない。

 愛すると誓ったのだから。



「ワタシは、お前を愛すると言った!」



 再び力一杯に抱き締める。むき出しの機械の体を、燃えるような熱を帯びた愛情をこめて。



「ワタシは両想いは必ず叶うと信じている!」


 自分の胸にハルカトーゼの手を押し付ける。鼓動を共感するために。


「ワタシの名はイングリッド・ゾーションだ!」



 一瞬、何をされたのか分からない表情をしたハルカトーゼだが、すぐに理解した。


 イングリッドの強引ながらも温かいキスを頬に受けたのだ。


 少しだけ寂しいが、最期の幸せと思えば受け入れられる。

 重ねられたイングリッドの唇の熱を楽しむ。



「なぁ、ハルちゃん。ワタシの母さんはな、自分の創った生物兵器――触手型クリーチャーに研究所を乗っ取られ、無理矢理犯されて孕んだワタシを大事に育ててくれたんだ。

 なんでだか分かるか?」


 ハルカトーゼは静かに聞いている。


「世界から争いを無くすために触手を生み出したからなんだよ」


「……」



 初めて語られるイングリッドの出生の秘密。

 彼女の母は戦争を無くすために触手を生み出したというのに、最初に作ったプロトタイプ「触手王」は暴走した。


 これが触手王の策略なのか、それとも衝動なのか。それは誰にも分からないが、この一件により一人の研究者は触手の子を孕み、触手の王は戦争を終わらせる代わりに世界の大半を人間の住めない土地へと変化させた。


 イングリッドはそんな現状を変えるため、触手王を倒すべく掃除屋をしているのだ。自身の呪われた血との宿命とも言うべき戦いのために。



「そんな強くてカッコイイ宿命を背負っているワタシだが、一人じゃ生きていけねぇ。

 何故かって? そりゃ~ワタシが百合だからさ」


 手を触手状に細長く伸ばしてハルカトーゼの体を撫でる。

 機械がむき出しということは体内にも侵入は簡単ということであり、人間でいえば全身が性感帯のようなものなのだ。


 ビクッ、と一瞬ハルカトーゼの体が震えたが、すでに中まで侵入し、あらゆる臓器を包むイングリッドの触手により、今まで感じたことのない満ちる感覚を味わった。


 内蔵機関を一つ一つ丁寧に愛撫しているのだ。外気に触れることすらまずない内蔵機関全てが、イングリッドの触手が分泌する触手液を塗り込まれていく。


 ハルカトーゼの思考は霧がかかったように曇っているが、不思議と安心感を感じるのだった。



「お前が死ぬって言うなら、決して死なせないで愛し続けてやるぜ!」


「……イングリッド」



 そこからは、これまで一方的だったイングリッドの愛が両想いへと変わる時間でもあった。


 時は無情に流れゆくだけでなく、思い出として積み重なっていく幸せにもなりうる。

 イングリッドの愛は、頑なに死を受け入れ愛を拒絶していたハルカトーゼの心を開くのに十分すぎるほどに濃厚なものである。


 このような強く熱い思いを受け止めて、それでも意固地でいられる者がいるだろうか?

 いいや、居る筈もなかろう。イングリッドはイングリッドだからこそイングリッドなのだから。


 そんな彼女は、触手を挿し込むだけでなく、自らも服を脱いで覆い被さって前後する。


 擦れる度に触手が弾け、イングリッドの背中に回されたハルカトーゼの手にも力が入る。


 人間だろうと、ロボットだろうと、精神的に壊れてしまうのではないかという程の激しい抱擁。


 言いたいことを言い尽くした愛のあとに残ったのは、無感情な機械などではない、心を開いた一人の女性として眠りにつくハルカトーゼの笑顔であった。


 固い心の彼女すら愛で揉みほぐした者こそ、名をイングリッド!

 百合の道を往き、総べてを救う女なのだ!



 ◆ ◆ ◆



「ところでハルちゃん」

「なに?」

「お前の体、治しといたから♪」


 イングリッドの触手から生み出される謎の粘液には謎のラブ成分だけでなく、イングリッドの意志が込められる。


 それはつまり、ハルカトーゼを死なせたくないという思いであり、部品の劣化によって朽ち果てようとしていた機械の体を治すだけの不思議パワーがあるという訳だ。


 かくして、何だかんだと言っておきながらやっぱり死なねぇのかよ! というツッコミもあるかもしれないが、イングリッドの愛が新たな恋人を救うのに役立ったということで今回は語りを終えよう。


 彼女の愛は科学すら超越する触手の血を引いたものなのだ!


 尚、このあと二回戦、三回戦へと突入し、滅茶苦茶ほっぺにチュッした。


 

 今回の話のタイトルからお分かりだったでしょうが、こんな感じです。

 やはり私は「満足する死とは何か?」と聞かれても「満足する生」の方が良いと答えますからね。


 でも千倍以上の敵を相手に一歩も引かずに戦死という死に方には憧れはあります。

 でも戦争のない世界だからこそ、そういう馬鹿な妄想が出来る平和にも感謝しています。

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