第12話:思い出を抱いて
運営様よりR18指定を受けたため、修正いたしました。(2019年3月2日)
元の小説は修正作業が終わり次第、『ノクターン』に掲載予定です。
夕暮れ時。触手型クリーチャーの討伐を終えた掃除屋だけでなく、上手い飯を食べに来た一般客でも賑わっている掃除屋ギルド。
ギルドでは食堂も営んでおり、さらに生活雑貨から夜のお供まで何でもござれの24時間営業のやり方は、この崩壊した世界ではさながらコンビニのような場所だ。
ただし雑誌の立ち読みはNGである。もし立ち読みが見つかれば10倍の値段で買わされるだけでなく、担当職員によっては貞操の危機まで! ……という噂が広まってはいるが、実際にはギルド職員たちからの呼び名が「立ち読みさん」になるだけだ。
未来永劫。死ぬまで「立ち読みさん」と呼ばれ続ける罰。普通の良識さえあればしないだろう。
ギルドの職員は美男美女揃いであるため、そんな美しすぎる職員達からの心底軽蔑した呼び名に心を病んで街を去らざるをえなかった者が流した噂に過ぎない。
尤も、余所の街や村に引っ越したところで、掃除屋ギルドの職員には連絡網が回っているので呼び名は変わらない。
未来永劫「立ち読みさん」と呼ばれ続けるのだ。
そんな一部の者からは恐怖と絶望の場所と呼ばれる掃除屋ギルドの受付にて、一人の女性を口説く者がいた。
イングリッドだ!
「なぁ、このギルドでワタシに靡かない女はお前だけだぜ? ハルちゃん。
そろそろ心の扉と一緒に股開いて出迎えてくれよ」
「それ無理」
冷たくあしらうハルカトーゼ。しかし今日のイングリッドは諦めない。
なんか凄い滾っているからだ!
「本音は?」
「変わらず」
ハルカトーゼからの返答は「変わらず」のみ。そんな押し問答をしばらく横で眺めていたクラミルとイオリーンは、早々に無駄だと気づいたため策を講じることにするのだ。
賢い二人の策、それはッ!
「あ、イングリッド様、外に全裸の美女がいますよ?」
「なにぃ!?」
イングリッドをあからさまな嘘でギルドの外に追い出し、しその間にハルカトーゼと相対して話を進める二人。
「それで? イングリッドを追いだして何か聞きたい事でも?」
クラミルとイオリーンは仕事の邪魔をするでもないので普通に接するハルカトーゼだが、これは手っ取り早く話を済ませて帰ってもらいたいがためだ。
その証拠に、瞳には呆れの色がうかがえる。
優秀な頭脳と空気を読む名人であるクラミルは簡潔な質問をするのであった。
「ハルさん、単刀直入に聞きますけど、ロボットですよね?」
「その答えには是と答えます。それで?」
「あなたは戦争前に作られたため、活動時間があまり残されていないのでは?」
「それにも是です。
人間でいえば寿命」
隣で聞いていたイオリーンは驚いた。
ギルドの美人受付嬢ハルカトーゼがロボットなのでは? と言うのは事前に聞いていたが、その彼女がもう死ぬというのだ。
「私たちはこの街に来てからの付き合いですけど、おかしいと思っていたんですよ。
イングリッド様はああ見えてナンパは上手いし、声も言葉も気持ちいい。
普通、あの人に口説かれたら人妻であっても揺らぐくらいはする筈ですからね」
「えっと、つまりハルカトーゼさんはもうじき死ぬからイングリッドと付き合わない訳?」
イオリーンの言葉に、静かに頷くハルカトーゼ。
そう、ハルカトーゼはイングリッドが嫌いな訳ではない。心から愛しているし、何人もの女性をベッドへと誘い続けてきたイングリッドのテクニックを自分が受ける日を夢見ることもあった。
でも、死にゆく自分は愛してはいけないと誓っていたのだ。
「あのさ、ハルカトーゼさん。私はイングリッドとも付き合いは短いけど、それでもあいつの愛するって言葉は嘘じゃないわよ。
寿命だなんだって理由を付けて避けるより、最期の瞬間まで愛した方がいいんじゃないの?」
勿論、こちらから「愛する」だなんて簡単には言わないけど、と耳まで真っ赤にして言うイオリーン。
そんなイオリーンを見るハルカトーゼは、初めて笑みを見せた。
「私とて製造されてから愛した方は何人も居ます。
しかし皆、寿命や病気、触手どもによって私よりも早くに亡くなった。
それ以来、私が死ぬ時は誰も愛さず静かに消えようと決めたから、この誓いを破ることはできない」
さらにハルカトーゼに残された活動期間は1年を切っているのだとか。
これではもう、クラミルにもイオリーンにも愛し愛されるように説得する言葉は思いつかない。
そうしてハルカトーゼが仕事へと戻ろうとした時だ。
「話は聞かせてもらった!」
ギルドの入口を派手に吹き飛ばし、破片が当たって怒った他の掃除屋をゲンコツで気絶させながら真っ直ぐ来る女性。
脇に全裸の美女を抱え、崩壊したこの荒れ果てた世界では珍しい大森林のような緑髪を靡かせる彼女こそ、伝説とも言える百合、イングリッド・ゾーションなのだ!
「わりぃわりぃ、クラミルが言ってた『全裸の美女』ってのは見つからなかったけど、代わりに出会い頭に服を脱いで来たキーバを捕まえてきたぜ」
「どーも、みんな!
イングリッドに偶然出会ったからノリで全裸突進して捕獲されちゃったぞ♪」
キーバもそのつもりで脱いだのだろうが、イングリッドにはまずやらなければいけないことがある。
それを察して挨拶を済ませるとイングリッドに抱えられたまま黙るキーバ。彼女は空気が読める女性である。
尤も、イングリッドの抱えかたというのが、ファイヤーマンズキャリーであるが故に他に気を使う余裕が無いからともとれるが。
「聞いてくれ、ハルちゃん。
ワタシはハルちゃんの寿命が残り少なかろうと愛する。これは絶対だ」
「だから私はその思いに応えられないと……」
だがその先は口に出せず、ハルカトーゼはイングリッドの強引なほっぺにチュッで封じられた。
イングリッドは決して同意なくキスをするような女ではないが、それでもこの場合は仕方がないだろう。
ハルカトーゼは泣いていたのだ。
イングリッドを拒絶する言葉を口にしながら、泣いているのだ。大粒の涙を流して。
「惚れた女を泣かせたまま別れられるか!
ワタシが惚れて、お前も惚れたんだろ!?
なら、死ぬその時まで生きることを考えろよ!」
生きること、それすなわちラブ!
イングリッドの持論だが、少なくとも今の状況を好転させるには強引さも必要である。
いつも飄々としているのはイングリッドの美点だが、決めるべき所で決めるための強引さも、並外れた腕力と百合力なら可能なのだから。
そして時間にして10秒ほど。イングリッドは大勢が見守るギルドから、その場の誰も認識できないほどの高速移動により、ハルカトーゼを抱きあげてホテルへと向かったのだった!
次回、愛し合う力は死をも吹き飛ばすの巻に続く!!(エロくない)




