仲間と友達は違うもの?
荷台から覗く懐かしい町並みは、中央広場を越えた辺りから破壊が始まって南の方へ被害が続いていた。広場にも多少の被害があるみたいだけど使用している人々が居るので今は危険は無いみたいだ。
被害方面と別方向だけど家に損害があると困るからと先に帰宅する事になった。ここ迄同行した青年門番、キルトは「宿まで借りる訳にはいきません」と生真面目に謝礼を払い去って行ったが、イラクシは俺達も(特に俺)大分世話になってしまっているので、今晩は泊まってもらう事に決まっていた。
ざっと皆で見た結果、特に被害も無かったので荷物の整理をしてマリに食事の用意を頼む。
シンタとマリナは奥の同室を使う手筈で、マリナは掃除。イラクシに2階手前の部屋を案内して、俺とおっさんとフォルク、シンタの4人で広場に取って返し行商と情報収集という所。
雨も上がって一先ず安心、やっぱ濡れながらの作業は嫌だもんな。
何時もの手筈で売り買いしながら客の話を聞くおっさん。被害の酷かった辺りは行きつけの魔具店の付近らしく、考えたく無いけど彼女達家族が無事なら良いなと思う。情報収集専門に動いているシンタの話しを夕食で聞く事になると思うし今は作業に集中していたかった。
と言うか、倒れてから手前フォルクがやたらと優しくて困る。何だか居心地悪いな、もぅ。
「おお! 今日の夕食は凄いな!! 急にやる気出してどうした、マリ」
「私、無い。殆んどイラクシ、作った」
おっさんの無神経な言い方に怒るでもなく答えるマリ。
食卓中央には大量に揚げられた黄金色の唐揚げと野菜が添えられ、煮芋と米が人数分用意してあった。この辺の人間は基本パン食の人が多いけど米も人気がある。
俺はどちらも好きなので気にしないがおっさんは断然米派。なので家には米が常備してあるけど、イラクシが米を炊けるとは知らなかった。
「料理してるの初めて見たけど凄いね! 婆っちゃん。美味しそう!」
「料理なんて薬の調合と変わらないさ。冷めないうちにおあがり。男共もさっさとお座り。腹ペコ嬢ちゃん達が可哀想だよ」
足をブラブラさせて腹の虫を鳴らしているマリナが待ち遠しそうだ。まだ栄養失調気味だからしっかり食べないとな。旅の間に揃えてやった髪を撫でて「ごめんごめん」言いながら俺も席に着く。
唐揚げは噛み締めるたび良い歯ごたえを伝え肉汁が溢れ出す。ハフ、ハフ言いながら野菜を噛み締めるのが俺は好き。
更に米をかき込んで食うと味の質が1段階上がる気がするのだけど、どうだろう?イラクシの料理は美味く、真似出来なさそうな気がする。何時も食べてるおっさんの料理より美味い。味に鈍いマリも「これは!」とか言ってる所でわかんだね。
美味い飯は無くなるのも早い。皆、あっと言う間に平らげてしまった。
食休めに冷茶を飲みながら気分を切り替える。
「じゃあ、俺の調べて来た内容を報告します」
シンタが注目を集める。
「ノルドさんも聞いてるかも知れませんが、被害が1番大きいのは南通りにある魔具屋さんだそうです。また“化け物”の襲撃でした。6本脚の獣ぽい体躯、脚の2本が弓の様になっていたそうです」
予想していた場所で起きた災害に怒りが募る。
「町中に刺さってた棒は矢かな? 住人の被害はどれ位だ? シャリナちゃん達は無事か?」と痛ましそうな顔のおっさん。
「そんなに焦らないで下さい。旦那さんは外出していて無傷。奥さんは軽症。娘さんは残念ながら行方が分からないそうです。他にも周辺住民に多くの死傷者が出たそうです」
「化け物は逃走。町を壊しながら更に南の方に消えたらしいです。被害を重く見た町長は化け物に賞金を掛けたみたいですね」
「無謀だな。幾ら旅団に戦士が多いとは言ってもな。化け物と解っていて戦う奴も居ないんじゃないか? 俺達も関わらない。とりあえず明日は魔具屋に顔を出してみよう」
「知らない仲じゃないしな」と言うおっさん。
俺はシャリナの安否が気になるよ。
その夜、疲れているのに眠れなかった俺は寝台の上でもそもそしていた。お気に入りのバンド「ハウリングムーン」の曲を聴いたりもしたけど眠気は来ない。
ブラブラと裏庭で木々の闇を見つめていると後ろから声を掛けられた。
「嬢ちゃんどうしたね。こんな暗ぁーい所に居ると死霊に魅入られるよ」
笑いながら歩いてくるイラクシ。
「婆ちゃん」
「シャリナちゃん、だっけ……、行方不明の子は。何処にいったんだろうねぇ?」
「心配かい?」
「勿論!! だって友達だし!」
勢いで声が出た。
生きてると思いたい。
「なら、探しておあげよ。友達なんだろぅ?」
柔らかく笑いながら何とも無い様に言うイラクシにハッとする。なんか俺、我慢してた。
「ありがとう、婆ちゃん! 俺、明日話してみるよ。おっさん達にも」
なら、明日は早起きしないとな!イラクシに「寝るから婆ちゃんも早く寝な」と言い捨てて部屋に戻る。
眠れなかったのが嘘の様にすんなりと眠れた。
何だか潮騒を聞いた様な気がした。
アギラオが歩き去るのを見送りながら、懐に忍ばせていた薬を撒く。小さく呪文を唱えながら歩き仄かに輝いて消えた。
「若いうちから我慢を覚えても良いこたぁ無いよ」と呟いた。