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村の宝と帰還の旅



 勝鬨の声を上げる青年団諸君を、何処か醒めた眼で眺める。思い出した様に流れ出した汗が染みる感触が不快だ。戦利品の毛皮剥ぎや肉の加工は全て任せてしまって、なり損ないが被っていた犬の面を拾い上げる。


 犬の面を握り締めると簡単に崩れ、スキルを奪った。音も無く戻って来たマリがゴーレムをギターに戻し慰めるみたいに一鳴きさせる。俺は暗い笑顔を返した。



 今回の勝因のアギラオは疲れて気を失ったらしく、フォルクが抱えて櫓から降りて来た。遠目からでもはっきり見えた髪とドレスは消滅して元の少年ぽい格好に戻っていた。


「病み上がりで無茶しあがって」


 何時もより白い肌を指先で軽く撫で体の汚れを理由にもう一度フォルクに担がせて村長宅に帰る。


 村も勝利の知らせで徐々に盛り上がり、見物に向かう者や手伝いに向かう者でまるで祭りの様だ。村を上げての祝宴になるのはわかるが今は勘弁して貰いたい。


「この度は誠にありがとうございました。なんとお礼を申したら良いか。あわや全滅と言う所を助けて頂き言葉もございません」


 深々とお辞儀をする村長。


「こちらも火の粉を払っただけだ。済まないが仲間を寝かせてやりたい一度下がらせて貰えるか?」


「これは気が利きませんで、後程、祝宴がございます。是非ご参加を」


 ああは言ったが本当に気乗りしない。フォルクにアギラオを寝かせに行って貰い、水浴びを済ませたら起きては居られなかった。



 ノルドが水浴びをしている頃、フォルクは別室の寝台にアギラオを寝かせた所だった。


 完治間際での疲労昏倒は心配なのでイラクシに診察して貰えないか持ちかけた。


「この娘は無茶ばかりするね」と呆れながら仕事を増やすなと微笑むイラクシ。


「娘!?」


 聞き逃す所だったけどつい2度見してしまう。


「おやぁ? 初耳かい? もう長く一緒に居るんだろう。何故、気付かないか逆に聞き返したいよ、あたしゃ」


 わざとらしく首を振るイラクシに苦笑いするフォルク。


「知ってた?」とマリに聞いたら事も無げに「問題、無い」と返された。


 肝心の診察結果は過労だそうだ。精神を鎮める薬を処方して貰って飲ませる。


「回復魔法でちょちょいといかないんですか?」


 疑問をぶつけてみると「なんでもかんでも魔法で癒せば良いというものじゃないのさ、このお転婆には安静が必要さね。もう1週間は安静にさせな。わしも急ぐ旅でも無い、出立を遅らせるよ」と答えた。



 気を失う様に寝込んだノルドの体調も祝宴前には醒め。空腹もあって顔を出そうかと身を起こす。皆も極度の緊張と弛緩で疲れが溜まり寝込んでいるらしく規則正しい寝息が聞こえる。


 外はもう喧騒に包まれていて賑やかだ。何処からか良い匂いもして腹がなる。遠慮せず2人を起こして隣室の女子にも声を掛ける。


 会場は村の広場らしく、待っていてくれたイラクシも同行してぞろぞろと向かう。途中には机を引き出して手料理を振舞う人なんかも居て俺は早速ビールを喉に流し込む。


 マリナとシンタはお祭りに免疫が無く、楽しい気分で買い食いした経験も無いそうで好きなもの食えと小遣いを渡す。


「おじちゃん、このパンお肉入ってておいちーの」


 楽しいと浮かれて歩くマリナをさり気なく守りながら、この子等を監禁していた山賊達に今更ながら怒りが沸く。


 まあ良い。今は楽しむ時。


 気分を入れ替えて2人に構いつつ広場へ。



 俺達がやって来たのを見付けた青年門番と青年団が「功労者のお出ましだ!」と招き寄せる。既に酒の回っている奴やら食い倒れて居る人等を避けながら輪に加わる。


 村長も良い気分の様だがまだ理性に問題は無さそう。


「こちらへどうぞ!」


 招かれた俺達は少し高くなった台の上に。代表して俺が上がる。


「この度の襲撃で多大な貢献を頂いたトラツグミの隊長、ノルドさん並び隊員の皆さんに感謝を!」


「「「「「「「「おー!!」」」」」」


 耳が痛い程の歓声が上がる。


「彼等に報酬として村の宝を進呈しようと思う。これを」


 村長の声に従って青年門番が重そうに剣を捧げ持つ。


 捧げられた剣は老齢の村長には持てないらしくそのまま受け取る様に言われる。ならばと持ち上げた剣はノルドには軽く感じられた。


 スラリと抜き出した刀身は黒く薄い刃の長剣で存在感が有る。


 ゆっくりと剣を掲げると刀身が根元から青くなりブルーサファイヤの輝きを映す。しっくりと手に馴染む柄の感覚も悪くない。


 更に村に有ったのかと言う量の貨幣を受け取り席に戻る。追加報酬も間違い無く含んでいると思うので、もうノルドに不満は無かった。


 後はもう騒ぐだけ、飲んでは食い。大いに楽しんだ。


 後日、自分だけ参加出来なかったと心底むくれるアギラオの為に内輪の食事会を開かされたのは別の話。


 

 予定通り休養した俺達は、今度こそテイケンレッツに戻るべくブルスタンに別れを告げた。


 今回、村では捌けない物を売る為に青年門番(今更だがキルトと言う名だそうだ)も旅に同行する事になっている。




 前回は罠に嵌まり、まともに走れなかった街道を使い順調に進む俺達。ここ数日天気にも恵まれ順調だ。


 村で貰った青い長剣はノルドの力を受けて氷の特性を得たらしく切り払う度当たった箇所を凍らせる魔剣となっていた。精神力を使って剣先に氷の棘の生えた玉を作り叩きつける事も出来る様になって隊の攻撃力が格段に強化された。


 もうこの辺では敵無しと思ってもいい。


 アギラオとイラクシの様子を見ながらゆっくり旅を進め5日程かけてヌァージ村に入村。


 村で減っていた物資の買い足しを行って今回も村長に宿を借りた。今回は同行者が多い上、自分達も万全では無いのでライブは遠慮してもらって素直に帰る事に専念する。


 イラクシが体調を崩したので1日余分に宿泊して対価を払い出発。いよいよテイケンレッツへ。


 行程も残り僅か。安全な街道を通り天気は霧雨と鬱陶しいが無事に辿り着く事が出来た。


 テイケンレッツには外壁が無い。


 周囲に外敵が少なく、大きな町で旅団の拠点も多い。そんな立地だが、何か様子がおかしい。


 何がある?


 不安を抱き通い慣れた道に差し掛かった俺達は無残にも破壊された町並みを目にする。被害は大きいがもう復旧は始まっているみたいで瓦礫等を撤去したりしているのが見える。


 至る所に材質の不明な巨大な棒が刺さってあるの見かけ、敵襲があったんじゃないかと思った。


 俺と同じ回答に至ったのかイラクシが「また化け物の仕業かねぇ?」と呟いた。




 

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