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“化け物”を殺すと言う事


  

 村の戦える人間を連れて南正門に戻って来た青年門番は今日が自分達の命日かもしれないと気が抜けそうになった。それは味方も全員が感じている共通の感情だろうと思う。


 視認出来る範囲にまで迫る敵影。砂埃で見辛いが動物型が10匹以上、更に中心先頭を来る巨大な動物。サイズは通常の4倍以上で硬そうな剛毛が束になって見てとれた。顎はギザギザとした牙が合わさり噛まれたらただでは済まないだろう。


 "化け物だ"


 誰かが言ったその一言は確実に、俺達に恐慌をもたらした。


 

 一方、ノルドとシンタは山犬が現れた門へと遅れて走っていた。青年団が先行しながら村民に家に避難する様に言いながら走りすぎたので人影も少ない。


 俺達も再度、声を張り上げて通過する。


 雑貨屋を通過するさい店主が「頑張ってくれい! うちで1番の楯だあんたになら使える」と重いがノルドの半身すら隠せる大きさのタワーシールドを寄越す。


「借りてくぜ!」


 楯を引っつかんで走るノルドにシンタが呆れる。「とんでもない体力ですね」苦笑するシンタも後追いまた走り出す。


 門に着く頃には2人共、体が温まり動きも良くなった。


「戦況は?」


 近くの青年に聞いたが、言うまでも無く悪いみたいだ。直ぐに長剣を抜き、シンタもブレイカーを構えた。


 押し寄せる山犬を弾き飛ばし、切り退ける。


「山犬か、違うな。こりゃ噛み付き狼だ!」


 噛み付き狼は名前の通り狼で山犬より強い種になる。それも強力なリーダーに率いられた集団。


 間近で見るリーダーは大きいだけで無く、通常固体より2倍はでかい頭部と顎門で視界を覆う圧迫感が凄い。


「こりゃー、安請け合いだったかな。皆、全力で生き残れ!!」

 

「青年団! 1人で敵に当たるな。最低でも3人で当たれ!」


 檄を飛ばしながら雑魚狼の脚を切り飛ばし、シールドバッシュで殴り飛ばす。とにかく近付けない様に立ち回り、シンタも援護する。


 シンタは隠れつつ苦戦してる村人の援護を不意を打つ事で行っていた。早いとこマリが辿り着かないかと願う。


 こんなに村人の居る中で俺が『化創化』しようものなら戦線は瓦解する。


「皆、固まるな。分散して当てたら逃げろ」


 それでも狼の動きは早く、翻弄される。狼共は噛み付いたと同時に鰐の如く回転して肉を抉り切る。そんな突拍子も無い動きにまた1人村人が悲鳴を上げて重傷を負う。


 ノルド自身もあちこちリーダーに噛み付かれダメージが嵩む。唯一の救いは化け物リーダーが重過ぎて噛み付き回転出来ない事でしかない。


「しまっ!!」


 雑魚狼の2面攻撃で体勢を崩すノルド。噛み付かれると思う刹那、上から降る槍の一撃が眉間から背骨を穿ちひしゃげ落ちる雑魚狼。


「マリ! 助かった」


 うねうねと動くゴーレム槍を構えて地を這い次々に突き掛かるマリ。櫓の上からは

フォルクのギターの音色が聞こえて来た。


 今回もエールを演奏してくれるのかと思ったが旋律が違う。戦場を手に入れた様な力強い歌声が響いた。



 


 マリを援護に送り出したアギラオとフォルクは、門側面の物見櫓に居た。


 櫓から見下ろす地上は完全に乱戦となっていて、苦戦しているのが良くわかる。戦え無い自分に苛立ちながら、攻撃に晒された人に声を掛ける。


「不甲斐無い」


 唇を噛み締める。俺に出来る事……。無いのかぁ?


 悔しくて胸が痛い。


 自然、怪我を負って意識朦朧としていた時に聞いた歌が蘇る。歌声は2つ。


 戦いの歌と癒す歌。


 今、俺が選ぶのは? 体が熱くなってくる。


 ……歌える。


 ……歌いたい。


 歌詞が自然と溢れる。


『焼け焦げた草原 爆ぜる歌が聞こえる ほら』

 

 何時もの早朝の薪割りの時の様に体に魔力を纏う。


『全て焼き尽くす業火 空を舐め雲を食む』


 身に纏う魔力は更に大きく。


『完全な眠り 静寂が聞こえる ほら』


『熱はこもり 肺を焼く』


『舞い散る破片が花と為す 敗退の眠り』


『それは甘美』


 言霊の力か魔力がアギラオを包み込みドレスを作り出す。特徴的な紅髪が地に着くほど伸び足元から吹き上がる風が髪を吹き上げる。


 アギラオの歌声を聴いた狼はふらふらと魅了された様に意識が散漫になり、深く聞いたものは昏倒する。


 歌は続く。 


『崩れ落ちる尖塔 瓦礫は騒音を奏でる あぁ』


『全て埋め立てる猛火 土を燃やし融解する』


『ガラスを纏い 沈む大地』


『燃え尽きた体は命を開放し暗闇は終幕に溶けた』


『それは甘美』


 アギラオの隣に居るフォルクも影響されるのか旋律は歌に取り込まれスローバラードに変わっていた。


 フォルクも闇色魔力を纏いギターを掻き鳴らす。


 地上では闇の支援を受けたマリが縦横無尽に這い回り、眉間を、口内を、心臓を穿ち抜き雑魚狼を屠る。


 青年団も先刻までの怯えが抜け、少し筒盛り返す。


 ノルドも膠着していた状態から一転。


 顔面をシールドバッシュして牙を折り、完全に呪歌が効いてはいないが鈍った胸を刺突。後方からマリが鋭岩発破で援護する。


 こんなに攻撃を重ねてもまだ、戦意を失わない化け物。


「強い」


 歌の支援はまだ切れない。今のうちに押して通る!


 裂帛の気合で突進。大口を開く化け物の口内に腕ごと長剣を突き込んだ。噛み締めてくる化け物に負けんと剣を押し込み延髄を突き破り刀身が飛び出す。


 血を吹き上げて崩れ落ちる化け物。


 勝利の余韻もそこそこ。ゆっくりと立ち上がるノルド。


 

 倒した化け物はその身を急激に縮め“人間のなり損ない”に姿を変える。



 「やっと……、死んだか」


 酷く疲れた声でノルドが呟いた。


 後は掃討するだけだ、残る噛み付き狼の数も少ない。血と唾液に塗れた腕を振り汚れを飛ばす。


 村長には追加報酬を吹っかけないとなと思いながら、刃毀れで折れそうな剣を振り下ろしていく。



 

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