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それそれの……。



 ノルドは貸し出された自室でひとり、魔具の修理をしていた。何処にでもある様な簡単な造りの魔具だけど続けて直していたので少し疲れた。


 凝り固まった肩を回すと骨の鳴る音。


 無意識に根を詰めた作業になっていた様だ……。伸びをしながら窓際に移動する。


 外はいつの間にか雨が降っており、窓を伝う水滴が憂鬱さを演出していた。


 ふ、と大きな手の平で顔を覆う。顔には冷たい表情の仮面が残り、体が組み変わる様が窓に映る。


 人が忌み嫌う化創士の姿。


 山賊頭のガレオとか言う奴は嬉々として化創化していたけど俺は違う。もう振り切っていたと思った嫌悪感はまだ俺に根ざしている。


 そもそもが化創化とは好き勝手に手にする力でなく、偶然の産物だ。化け物になって奇跡的に自我を取り戻せただけ。その間どれだけの事を起こしたのか最低な事に記憶がある。


 異形の怪物、それが自他共に認める姿。


 狂えない。


 心が弱った性かバキッと仮面に皹が入ったと思えば崩れ落ち、元の人間の肉体を取り戻す。元に戻った筈なのに体には薄っすらと無数の線が残る。より化創化し易い様に。俺の許可無く進行する痕。


 思わず服のボタンを閉じる。


「らしくないな」


 化創化の効果で体力が元に戻ったノルドは中断した作業に戻る。


 急ぐ作業じゃないけど今は気を紛らわせる物が欲しかった。



 手術からすう数日が過ぎ、アギラオの容態は目に見えて良くなって来た。まだ眠りがちだが意識も戻って来ている。


「もう心配無いよ。薬の効きも悪くないさ。そうさねー、もう2巡りもすれば薬も要らないかね」


 イラクシが経過観察を終え、場に安堵の気配が満ちた。


 それで報酬の話しなんだが、とイラクシ。何でも俺達に護衛を頼みたいそうだ。行き先は俺達のホーム、「テイケンレッツ」この周辺で1番大きく交通の要の為、様々なものの集積地。


 老齢のイラクシに長旅は結構な負担となるが、負傷者を連れた旅の速度なら易いと言う。

 

 俺達の遭遇した山賊もまだ捕らえられていないみたいだし、物騒だ。俺達は生き延びられる程の強さもあるんじゃないのかい?と微笑むイラクシに毒気を抜かれた俺達も快く引き受けた。


 イラクシのここでの目的も後2巡りくらいで済むとの事で都合も良い。


 和やかな雰囲気の一同で眉間に皺を刻んでいたシンタが居住まいを正して急に土下座をした。


「足手纏いかもしれませんが、俺達兄妹も皆さんの隊に入れて貰えませんか? なるべく迷惑は掛けないのでどうかお願いします!」


 決死の覚悟だったのだろう、裏返る声。前に添えた三つ指が小刻みに震え、白く変色している。


 気の毒なくらい気に病んでいるシンタの頭に手を乗せクシャッとするノルド。


「ちゃんと言ってなくて悪かったな、お前達を放り出すのは簡単だが俺はそれをしたいとはどうしても思えなかった。甘いかも知れんが俺からもお前達を誘わせて貰うよ」


「着いて来てくれるか?」


 混乱するシンタも次第に理解の色が浮かび、何度も頷きながら涙を流しフォルクも「良かったですね」とカードを掲げ、俺達を罠に掛けた事をしきりに詫びるシンタ。


 お祝いの調べを奏でるフォルク。フォルク自身、声を失って荒れていた時期にノルドに拾われた口なので反対意識は欠片も浮かばなかった。


 翌日からは村の手伝いに加えてシンタの剣の訓練が始まった。


 シンタの特技は気配を読む事らしく、気配りは高レベル。戦闘時も攻撃の気配を読んだり防御に薄い所を見つけたりは得意なんだが、肝心の攻撃が弱い。


 発育不良もあるけど、力が弱いって事で毎朝ノルドの指導で訓練する事に決まった。妹のマリナの方は今は元気を取り戻す事が仕事。遠慮を辞めさせて食事をしっかりと摂らせ、村の子らとも触れ合わせる様にしていく。


 そんな風に日々は過ぎていった。


 出発の日が近づきアギラオも起き上がれる様になった。驚異的な回復力で傷を癒したアギラオは早朝の訓練にリハビリがてら参加する様になった。


 何でか事ある毎に衝突するアギラオとシンタ。今日もどっちが早く素振りを終えるか言い合いながら勝負を競っている。


 ギスギスした感じは受けないから距離感を計りかねているだけだろうと微笑ましく思う。


「おっさんがニコニコしてると気持ち悪いぞ」と憎まれ口を叩くアギラオの両頬を抓り伸ばしてお仕置きしつつ、良くなって良かったと思う。




 そんな和やかな朝を破る騒音が届く。



 村長を呼ぶ切羽詰った叫びに何事かと俺達もぞろぞろと移動。


 飛ぶ様に走り去った青年は確か、門番の彼だろう。どうした事かと村長に問い合わせると青い顔で「山犬の群れが村に向かって来ているそうです、もし襲撃されるとこの村だけでは凌げません。どうか手を貸して頂けせんか?」ノルドの手を取って頼み込む村長に考え込むノルド。


「受けてやろうぜ、おっさん!」


 張り切るアギラオに軽く拳骨を落とし、お前は留守番だと言い聞かせて「俺とフォルクとマリ、シンタの4名なら参加しても良いですよ。報酬は後日」


 「ありがとうございます!」感極まる村長。


 荒事は苦手なんだろうな。


 山犬ごときなら問題無いだろう。ぐずるアギラオにフォルク達を呼びに行かせ、俺とシンタは門の方向へと駆け出した。


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