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シンタ


「皆揃ってるか?」


 昨夜、依頼があったとおっさんから聞いていたので用意の出来ていた俺達は席に着く。


 おっさんの後から入って来たのはおそらく依頼人だろう。その姿は何時ぞやのライブで見掛けた暗い目を奴だった。


「始めまして、あっ……俺、シンタと言います」


 ずれた眼鏡を指で押し上げながら自己紹介を挟む。依頼と言うのは旅団には良くある種類の依頼で、護衛依頼だった。いつも通りのルートを通る安全な依頼だったから俺は直ぐに興味を失い、後半は全く聞いていなかった。


 俺の態度に気付いたフォルクが少し呆れた仕草でからかってきたが気にしない。


 俺達の隊では、基本的に必要な物はおっさんが用意して、フォルクが補佐で入る事が多く、俺やマリは主に戦力として動く。人でないマリは言わずもがな、俺も細かい事が苦手だ。その分肉体労働で貢献するってー寸法だ。


 出発は明後日の朝、目的地はシンタの故郷だと言うホームから北に2つ先の村だそうだ。


 特に用事も無いので当日まで自分なりの用意をして過ごした。


 そして当日、俺達は旅の空に居た。


 護衛対象のシンタは俺と変わらない年代に見える少年で、灰色の髪を自然に伸ばし眉間に皺を寄せている。眼鏡が顔に合っていないのか、時たま押し上げる仕草を見かけ、神経質そうな印象を受ける。

 体系は痩せ型で身長は俺の頭ひとつ位上なのが少し癪だ。腰には2本の短刀を吊っている。

 

「シンタさん、気分が優れないなら俺と手合わせをしないか?」


 眉間の皺を指摘しながら誘ってみたら、驚いた顔の後に苦笑しながら眉間を揉んで「良いですよ」と淡々とした様子で受けた。


 夕食時、約束通り手合わせを行う。


 俺は普段、格闘か手頃な鈍器を使って戦うのでカバーを着けたままの手斧で、シンタは手頃な棒の2刀流でいく様だ。


 先手必勝!無造作に踏み込んだ俺に、シンタは慌てて交差させた棒で防御。その上から斧を叩きつける。


 更に怯んだシンタに畳み掛けるべく、回転して同じ軌道からの威力を増した2撃目。


 これを受けては堪らないとばかりに後退するシンタ。


 体勢の崩れた俺の死角から逆手持ちの棒を鋏の様に突きたてようとするシンタ。


 素早く飛び上がりシンタの肩を足場にしてサマーソルト。


 

 衝撃で酷くよろめいたシンタと距離を取る。


 着地のエネルギーを前進に使い頭に斧を叩きつける寸前で止めとした。


「強いんですね……とても」


 上がった息を整えながら構えを解く間、シンタが口の中で呟いた言葉は上手く聞き取れなかったが「なんでも無いですよ、手合わせありがとうございます。やはり手も足も出ませんでした」と誤魔化されてしまった。


 その後はおっさんの作った飯で腹を満たし、旅は順調に進む。


 まあ、この辺は駆除も盛んで危険も実は少ない。


 例外は化け物だけど、目撃情報も無いし平気だろう。


 この時はまだ俺達は逆恨みの視線に気付いても居なかった。



 2日目の昼頃に1つ目の村「ヌァージ」に到着。


 最低限の行商を済ませて、村長宅を訪問し今夜の宿を借りる事が出来た。変わりにと言っては何ですが、歌謡いのライブを行って欲しいと依頼を受けるノルド。


 ホームから近いお陰で俺達トラツグミを知っている人も多い様で嬉しい限りだ。


 早速、メンバーに話しを通し機材の用意し会場に運び込んだ。


「客だから好きにしてていい」とシンタには言っておいたが手伝いたいと言うので大いに働いて貰った。


 アギラオからシンタの様子が何かおかしいと聞いて、気をつけて見ていたけれど徒労だったかと頭を掻くノルド。


 シンタはライブ中にも終始にこやかに、時に一緒に歌う場面すらあった。


 そんなシンタに目を細めながら、歌の才能は無いのかもなーと俺自身も音痴に野太い声で歌を口ずさんでいた。


 翌日、村長に多大な感謝を受けながら、別の依頼中なのでと俺達は山向こうの村「ブルスタン」を目指す。


 ただし山を越える必要は無く、遠回りにはなるけれど迂回する様に街道が整えられている。東南に深い森が存在するので野生動物が多く俺達の仕事はここからが本番になる。


 ブルスタンは工芸の盛んな村で、良い工芸品が見つかるか今から楽しみだった。


 

 

「ここ何処だ? 俺達はどうしたんだろう?」


 はっきりとしない意識と顔にこびり付いた泥の感触が不快で気持ち悪い。朦朧としながら仲間の安否を探る。


 見回すとシンタとマリ以外の面子は居る様だ。次第にはっきりする視界と共に記憶も蘇る。


 ブルスタンまで1日強も馬で走れば着くという辺りで2度目の食事休憩にした俺達。


「目的地も近いし、良ければ俺に料理をさせて貰えませんか?」


 意外な事に料理が得意だと言うシンタに、最初は遠慮していた俺達も任せて良いかと待つ事に……。


 そろそろ底を尽きそうになっていた食料ストックを上手い事使って具沢山シチューを作り上げた。


 少し苦味があるかなーと思っていたけど、嫌いじゃない味。なんて思っていたら急激な眠気に襲われて容器を取り落とす俺達。


 霞む視界に苦しそうな顔で立ち尽くすシンタと複数のひずめの音で俺の記憶は閉じていた。


 これは……、もしかしなくても一服盛られたかな? あまり信じたくないが間違い無いだろう。


「裏切られた……、か」


 気分を入れ替えておっさんとフォルクを起こしつつ現状を確認する。


 どうやら何処かに連れ去られたらしく薄暗い部屋に頑丈そうな扉。饐えた臭いに顔をしかめる。殺されなかっただけましか。


 目を覚ましたおっさん達も現状を理解して溜め息を吐いていた。


 勿論、武装も解除されている、扉は当然の様に施錠されていてビクともしない。


「完全に閉じ込められた……」


 殴りつけても結果は同じ。手枷が重く上手く動けないのも関係しているだろうが直ぐに殺されなかった事を考えると奴隷にされるのかもなと憂鬱になる。


 俺達がゴソゴソやってると、扉の向こうから馬鹿でかい声で「無駄な抵抗はするなよ? お前達を無事に帰してなんてやらねーからな。使い潰してやるぜ」と馬鹿笑いしながら気配が遠ざかって行った。


 このままでは強制肉体労働しか道は無いのか。


 フォルクと一緒にげんなりとする。


「仕方無い、二人共離れて居てくれ」


 おっさんが決意の表情で顔を覆う。


 いつの間にかその顔には特徴の無い仮面が残り、熊の様にでかい上背が青い光の粒子になって腰から上が再構築される。


 手枷は急に支えを失って、ゴトリと重い音を響かせた。


 再構築された胴体は金属鎧の様な光沢で両肩からは青い光が噴出し部屋自体も淡く照らしている。


 仮面からは螺旋の角が大小2対天を衝いていた。


「おっさん……、化創士だったんだ!?」


 流石の俺もこれには驚いたが、フォルクは素早く立ち直っていた。


「これで出られそうですね?」と黒い笑顔でカードを掲げる。


 そうと決まれば話しは早い。


 頑丈な監禁部屋も化創士の人外な膂力の前では保つ訳も無く、バラバラと粉砕。


 部屋の前には運が良い事に見張りは居ない様だ。怠慢万歳。


「隣の牢にも気配がある、多分マリかな?」と書くフォルク。中に声をかけておっさんにこちらも開通して貰う。


 やっぱりマリだ……と思ったら、中から豪快な泣き声が聞こえてきた。


「脅かす、いく無い」


 マリが淡々とおっさんを窘める。


 傍には黒髪の似合う少女が縋り付いていた。


 彼女は大分前にここに兄と連れて来られたそうで、体力が衰えていて歩けないみたいだからマリがおぶっていく事になった。


 

 現在地はどうやら地下らしく、雑な造りの階段は僅かに湿り気を持って滑りやすい。転ばない様に気を付けながら登った先には左右に伸びる通路。


 天井は意外と高く、右の通路からは風の流れを微かに感じる。


「右は外に繋がってそうだね」とフォルク。


「じゃあ、俺達の荷物は奥、左かねぇ?」


 話し合った結果、枷の鍵も奥に有りそうと言う事になった。俺達はぞろぞろと先に進む。


 ま、こんな大人数で騒々しく動いたら見つからない訳が無い訳だが。化創士の着いてる俺達に適うわけも無く。各個撃破しながらズンズン進む。


 途中、食堂らしき場所を見付け少女(マリナと言うらしい)に栄養補給ついでに手軽な食事を作り、俺達も空腹を満たした。


 おっさんの化創化は矢鱈と腹が減るらしくて良い頃合でもあった。


 食堂からは1本道で左右に同数の部屋が6部屋程連なっていた。


 全部空けてみたが結果は空振り。


 更に奥、突き当たり右にお目当ての部屋を発見。


 おっさんに扉を破壊して貰って中に入る、そこにはシンタが居た。


「てめぇ シンタ! 覚悟しあがれ!」叫ぶアギラオ。

「お兄ちゃん!」「マリナ!」名乗りあう兄妹。


 騒然とした場にのっそりとおっさんが入って来た事で、混乱したシンタが逃げ惑うなんて事になったけど、ノルドが化創化を解いて落ち着かせて事無きを得る。


 マリナの無事な姿を見て、安心もしたのか酷く疲れた顔をしているシンタに弁解の機会を与える俺達。


 真相はこうだ。



 長い事マリナを人質に取られていたシンタはずっと助け出す隙を探していた。ここは山賊の根城で山賊頭も化創士、力では絶対に適わないのでこき使われていたそうだ。眠り薬を仕込んだのも山賊を引き入れたのも命令だったらしい。


 俺達もおっさんが居なければ同じ運命を辿る所だったのでここは許す事になったけど、心中は複雑だ。


 なんだか知らないが山賊が泡食ってるので普段来れなかった倉庫に忍び込み、牢の鍵を探してる最中に俺達が踏み込んだと言う流れだと言う。


 話しながら全員の枷を外し、投げ捨てる。


 俺達の荷物も取り戻し、馬車は奪われて外に置いてあるそうだ。


 最後に持って帰れる品物を物色して、おっさんは魔具の長剣。俺は鉄の小手。フォルクは換金物。シンタはブレイカーと言う剣を折る為の短刀を2本。マリは宝石を手に入れた。


 後は出るだけ。山賊は駆除した方が良いが、数が多い。


 俺は仕返ししたいが却下された。



 と、言う訳には往かないらしい。


 奥には行かず来た道を引き返し、やっと外に出られると足を踏み出した先に牽制の矢が突き刺さった。


「よくもここ迄逃げ遂せたな、あと少しだったがお終いだ! 頭の俺様、ガレオがくびり殺してやんぜ!」


 牢でも聞いた馬鹿笑い付きの台詞に、あいつ山賊頭だったんだと逆に驚いた。


「お前、下っ端じゃなかったんだな」と言ったら怒鳴られたが、俺達の総意だと思う。


「舐めていられんのも今のうちだ!」


 ガレオがおっさんと同じ様に手に突然現れた仮面を被ると上半身と装備が火となり再構築されて上背が増し、巨大な両手剣が現れる。


「痺れるぜ、兄貴ー! やっちまいましょう」


 他の山賊達もいきり立つ。


 敵は5人、正面にガレオ。左右後方にに弓持ち山賊2人。ガレオと並ぶ様に左右に剣持ち山賊2人。


 化創士は化創士でしか対抗出来ない、おっさんはガレオに向け長剣をかざし音速の斬撃をガレオは剛剣をもって剣戟を巻き起こす。


 2人の攻撃は衝撃を巻き散らし、地面を砕き暴風の様だ。


 アギラオとシンタはそれぞれ剣持ち山賊を相手にバールで殴り伏せブレイカーで切り付ける。


 フォルクはエールを演奏し、全員の行動を底上げ。マリは盾に巻きついたゴーレム蛇を槍に変えて地を這う様に後方を襲撃。あっと言う間に1人を刺し殺し、魔力で生み出した岩礫を尖らせ、もう1人の弓持ちに発射。右半身をごっそりと吹き飛ばす。


 後方の善戦とは対照的に化創士組みは拮抗して硬直。


 俺は足運びで翻弄し着実に殴る。


 シンタは苦戦している様で辛うじて山賊の剣をかわすが、反撃は浅く致命傷にはならない。数回の攻撃で何とかブレイカーの背で剣を折る事に成功。しかし、反撃で殴り飛ばされて体勢を崩す。


 そこに敵を片付けたアギラオが援護に入り頭蓋を叩き割った。


 負傷したシンタは離脱して治療を受け、アギラオはガレオに接近。近距離からバールを投げつけた。タイミングを計っていたマリも先の鋭岩発破を打ち込み同時攻撃。


 魔法を嫌ったガレオが自らバールを受け、すかさずおっさんの斬撃が利き手の肩を深く切り裂いた。


「畜生!」


 やけ気味のガレオの一撃が避け損ねたアギラオの胴に直撃し、ざっくりと切り裂いた。


「アギ!」


 吹き飛ばされた体をおっさんが受け止める。傷はぱっと見でも深く早急な治療が必要だった。


「てめーら、絶対に復讐してやるからな! 夜闇を恐れろ、馬鹿共が!!」


 負け惜しみを吐き捨てて逃げ出したガレオを追う余裕は俺達に無く、放置されていた馬車を引いてきてくれたフォルク達に感謝してアギラオを運び込むノルド。


 馬が怯えるので化創化を解除し応急処置を済ませた俺達はすぐさま、元々の目的地だったブルスタン村に急いだ。


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