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音楽活動


 

 運動用の服に着替えて軽く身体をほぐし、棚上からウォークマンとヘッドホンを取り上げ装着。入れてるディスクはお気に入りのバンドの曲だ。


 昨夜の興奮のせいか少し早く起きてしまったみたいで窓の向こうは薄暗い。


 まあ、一仕事すれば朝飯に良い時間だろう。最近はこんな時間も好きになってきた。


 皆を起こさない様に足音を殺して裏庭に出て、小さく歌いながら薪を割る。歌に感情を込めると良いって聞いてから朝のこの時間だけは心を込めて歌う様になった。


 なんでか皆には内緒にしている。


 歌の旋律に合わせて魔力が生み出され、アギラオを中心に渦巻いていた。




 朝食の用意はいつもノルドだ。と言うか俺達の中で一番料理が美味いのはおっさんで、次点でマリ。

 それだって食えなくないと言うだけで、俺とフォルクに到っては焼くくらいしか出来ない。そして焦げ味。


 と、いけない。こんな事を考えるのは腹減ったからだ。


「おーい、アギラオ。そろそろ朝飯出来るぞー」


「あいよー」


 首を巡らせ後ろ背に赤髪を梳き汗を飛ばす。


 良いタイミングでおっさんの呼ぶ声が聞こえた。ぶらりとした薪割り斧を作業用の切り株に衝き立てる。


「汗を流してこよう」


 外に併設された水場に向かう。


 色とりどりのサラダをボウルに盛りながら炊事場の窓から外を見るノルド。


「あいつ、いつの間に呪歌なんて覚えたんだ?」

 

 ノルドは訝しげに魔力の残滓を嗅ぎ取った……。


 遅く起きて来たフォルクとマリ、アギラオとおっさんで囲む食卓。


 趣味で食事をするマリは果物を中心に、食べ零しを甲斐甲斐しく取ってやったりしながら意外と肉食な偏りのフォルク。がつがつと小柄な体にこれでもかと肉を詰め込むアギラオ。おっさんは満遍なくニコニコしながらの食事が進む。


 食事量の判っているおっさんが、それぞれの適した分量を用意しているので喧嘩にはならない。お母さん気質なノルド。


 俺達は今日の行動を朝食時で決める事が多く、おっさんの趣味とフォルク達の実益の為に魔具屋に立ち寄る事になった。予てから決まっていた午後からのライブまで暇だったし、俺も新しいディスクが欲しかったので丁度良かった。

 

 大抵は、大きな町には数件の魔具屋があるのが普通で、交渉次第で自作の音楽ディスクなども置いてくれたりもする。


 目的の魔具屋は路地の奥にあって築年数が古く、年代を重ねた扉が俺達を迎える。


「いらっしゃい、トラツグミのみんな。良い商いが出来そうかしら?」


「おう、今回は魔道書に木工部品、ミスリルの欠片にと色々だ。おっさん今回は自信ありだぜ!」


 笑顔で迎えてくれたのは看板娘のシャリナ。若く器量が良いと評判で俺達とも仲が良い。以前、妹みたいで可愛いと言ったら叩かれた……何故だ?


 まあ良い。俺達はそれぞれに好きに買物を始める。


 おっさんは掘り出し物の魔具や発掘品の物色に忙しいので、変わりに行商先で録った音楽ディスクや頼まれていた品を交換したり、買い物を済ませた。


 フォルク達は弦やピックなどを補充して、おっさんの買い物品から要らない物を取り上げて棚に返したりしていた。


「おっさん買い過ぎだ」


「しかも高い!」フォルクが抗議のカードをかざす。


 なんて、そんな事やってるうちにライブの時間が近づいて来たので会場に移動。


 今回は共演者も居ないので気合が入る。 


 会場は町を貫く街道、ストリートライブってやつ。うちは珍しく女性がギターをやってるから凄く目立つ。

 

 もうひとりはイケメン王子様だしな。


 しかもマリは格好が奇抜だ。爆発した様な髪型でヒトデの様な散り方、色は群青、肌は白く黒いルージュ。蛇が円盾にまとわりつくデザインのギターで小柄な体躯。

 

 物凄い存在感だもんな。


 人じゃなくて精霊だから素なんだけどさ。インパクトあるんで、うちのバンドのシンボルはそのギターを使わせて貰ってる。


 用意も整ったからまずは1曲。


 歌は入れず、フォルクとマリのツインギターメインの環境音を流す、徐々に盛り上げていって主旋律は急降下。


 力強いドラムを混ぜ込みつつ俺がハイテンポ気味にビブラートシャウト。


 こんな風に激しい曲の多い俺達は既に汗だくだ。


 集客に成功した俺達の勢いは盛り上がり、客ものって来て一緒に歌ってくれたり、踊ったりしてくれる人達も出始めた。


 横目で見る分にはディスクも何枚か売れてる様だし、良い滑り出しだ。


 水分補給の為、数曲歌っては休憩を挟んでまた歌う。


 客の並びの向こうで暗い目をしていた同年代くらいの少年が、やけに気になったけどライブは盛況。


 今日の晩飯はさぞ美味いだろうな。

 

 

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