学校の東校舎三階の物置部屋に住む幽霊少年と恋
放課後の時間というのはなにか青春の代名詞的な爽やかで甘くて虚しい空気を持っていて、私はそれが大嫌いだ。
今日も私は学校の東校舎三階の物置部屋に向かう。そこには学校の七不思議にすら名前が載っていない無い少年が憑んでいる。
彼と出会って恋をして向こうもそれに応えてくれたけれど、2人の関係にそれ以上の進展はこれから先も無い。
ガラガラ…ッ
『いらっしゃい、今日も君はかわいいね』
「ええ、どうも」
『鈴のなるような君の声が僕のない鼓膜を震わせるだけで今にも逝ってしまいそうさ』
「あら、そう」
『今日は髪を結っていないんだね、体育はなかったのかな』
「ええ、体育があるのは火曜日と木曜日ですもの。今日は金曜日。」
『そうだったね、今日は金曜日だ。…ああ、まったくいつ考えてもクラスの連中が羨ましいね、なんたって君の汗かく姿が見れるんだから、呪ってやりたい。』
「…今日は一段とおしゃべりで一段と足が薄いのね」
『誰にだってそういう日はあるさ』
「そうかしら」
『そうともさ』
この部屋に入ってからふわふわと私の周りを浮遊し、ない口を仕切りに動かす彼を一瞥しいつもの定位置となっている開かない窓の下に座ると、彼もまた定位置である私の向かいに座るのだ。
『僕は君とのこの時間以外はすることがないからね、君のことを考えたんだ。』
「いつも通りね。」
『まあそうだがそうじゃない。いつもは君に思いを馳せているが今日は違う。君の危機管理能力についてさ。君は初めて会ったその日に男の部屋に入り込み告白をした。これを危機管理能力が優れていると言えるのか、否。君のような美しい女性は常に警戒心を怠ってはならない、ましてや初対面の男の部屋に入り込むなど言語道断!あの日の僕は無防備な君を突然後ろから襲う事だってできたんだ』
「通り抜けるくせに」
『そうだけど』
『今だってほら、僕は君に取り憑く事だってできるんだ』
「私という人は消えるのね。」
『……。どうして僕はしんだのだろう』
「私は足のない貴方が好きよ」
『足があったら君の隣を歩けるのに』
「関係無いわ」
『手が握れたらきっとずっと離さない、そしてクラスの奴らに見せつけるよ』
「なぜ?」
『変な虫が付かないようにね』
「必要ないわ」
『どうしてさ』
「私には貴方しか見えないもの」
『他の誰にも僕は見えないけどね』
「やめて」
『こんなとき身体があったら僕は君にキスをするのに』
「身体がなければしてくれないの?」
『意味がないからね』
「無欲ね」
『意味がないんだしょうがないさ』
「否定して欲しかったわ」
『…まだ間に合うかい?』
「勿論。」
『本当の事を言うと僕は欲にまみれているよ。今すぐにでも君を押し倒してその口に僕の口を押し当てたい。その柔らかな頬を手で包んで、髪に指を通してそこにもキスをするんだ、君の潤んだ瞳と目を合わせるんだ、そして服を2人で全部脱ぎ捨てて君のすべてにキスをするよ、恥ずかしがってる君を見て僕はドキドキするんだ、心臓が爆ぜるほどにね、その音を君に伝える様に細い身体を壊れるほど強く、壊れものを扱うように優しく、抱き締めてまた君とキスをしよう。』
「貴方は欲望の塊ね。」
『本当はもっと色々あるんだけどね。言ったところですべてとんだ茶番さ』
「それもそうね。貴方には私にキスをする口も私の髪に指を通す手も目を合わせる瞳も爆ぜる心臓も合わせる身体も私にキスをする口も無いのだから。とんだ茶番ね。ブラックジョークも程度が過ぎると涙が出るわ。」
『泣かないでおくれ』
「泣いてない」
『僕の望みは君とのキスよりも君が笑顔でいることなんだから』
「私の望みは今すぐ貴方が泣き止むことよ」
『泣いてないさ、泣けるはずがない。だから僕に触らないでおくれ』
「どうしてかしら貴方には触れられないのに貴方の涙は私の手に落ちるなんて、神さまもとんだブラックジョーク好きなようね。」
『ああ、どうやらそのようだね。ああ、君が僕に触れているなんて夢のようだ、僕は今まで生きて死んでから1番今が幸せだ』
「大袈裟ね、たかが貴方の涙に触れているだけなのに」
『ああ、幸せさ、ほんとうに、もう死んでもいい』
そうして彼は私の手に涙を置いて消えた。私の涙はただ床に落ちていった。とんだ茶番。なんてひどい、ブラックジョーク。