断片4
夜は好きだ。
風は涼しく周りの音は昼間に比べると静かで自然の音を身体で感じられ何より独特の雰囲気がある。
自分の住んでいる町なのにまるで別の世界にきたような 一歩歩くごとに興味と恐怖と好奇心が沸き上がる。
だから私は毎日深夜になると家を抜け出し夜の世界に足を踏み入れる。
まあ、彼を探すという目的のが本命だけど。
てくてくと街灯のある薄明かるい道を一人歩く。
今日の彼は一体どこにいるのだろうか。
気まぐれな人だからどこにいるか見当もつかない。
会える日など、1ヶ月に一回あればいいほうか…。
彼は私の学校の同学年であり、別段変わったところのない普通の男の子である。
しかし、彼には私しか知らない魅力があった。
彼は夜を愛し、夜に愛されていた。
そう、まるで例えるなら吸血鬼のように、自然に夜に溶け込んでいる。
夜の彼がきっと本当の彼なのだろうと思う。
まるで夜そのものであるかのように、彼を見ると興味と恐怖と好奇心が溢れてくる。
だから私は彼を探す。
もっと夜の彼に会ってみたい、話してみたい。
だから私は夜を歩く。
夜を感じ彼を探すために。
…あれからどれくらい歩いただろうか。
今日も彼を見つけられなかったなぁ。
諦めて帰ろう、そう思ったところで急に声をかけられた。
「やあ久しぶりだね。相変わらずこんな時間に外を歩いて、危ないから駄目だよって前も言ったじゃない。最近は事件も増えてきてただですら危ないのが危なさ倍増だよ」
そんな風に彼は私に声を書けてきた。
「久しぶり。そうなの?私ニュースとか見ないから知らなかったよ」
私は内心逸る心を抑えて言葉を紡ぐ。
「知らなければいいこともあるけど、さすがに自分の身にも関わることは知っておきなね」
「はーい」
「仕方がない。送ってあげるよ」
「わーありがと、助かるよ」
「いえいえどういたしまして」
「ねえ聞いてもいい?」
「いいよ。中身によるけどね」
「事件犯人はあなたでしょ?」
「そうだよ。よく分かったね」
「女の勘よあなたは犯人っぽいもの」
「ははっ、凄いなぁ。僕も女の子に生まれたかったよ」
「女の子なんて大変だよ。毎月生理がくるし」
「あーなんか大変らしいよねそれ」
「男には分からないもんね」
「さっぱり分からないな」
「ねえところで事件って何をしたの?」
「殺人」
「へぇ」
「未遂」
「って未遂かよ、何でやねん」
「なんで関西弁?」
「なんとなくー」
「なんだそりゃ」
「突っ込みと言えば関西弁かと」
「固定概念だなぁ」
「えへへへへ」
「別にいいけどさ」
「ねえ自首するのか」
「それは嫌だなぁ。捕まりたくないよ知ってる?少年院ってなんか危ないとこらしいよ?こないだ漫画で読んだ」
「漫画の知識だと当てにはならないでしょ。あれはフィクションだもん。大体捕まるのが嫌ならしなきゃいいのに」
「それを言われたらおしまいさ」
「そうだね。あ、そろそろ家だからこの辺まででいいよ」
「分かった。次からは夜出歩いちゃ駄目だよ?」
「考えとくよ」
「なんでやったかは聞かないんだ」
「え?なに急に」
「事件のことさ」
「聞いたらなにか変わる?」
「……変わらないけどさ」
そう言って彼は笑った。
「でしょ。じゃあまた明日ね」
「うん。明日学校で」
「おやすみー」
「お休みなさい」
そして今日も夜は終わる。