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終話

挿絵(By みてみん)


王立学院卒業式ーー。


式が終わって直ぐにユーウェインの森へ向かう事になっている。

アルバート先生と一緒に。


新大陸へ向かう前の旅行だ。

ユーウェインの森を見た後は南部の港町スティークスから船に乗る事になっている。


スティークスからフィリジア国の港町へ着いてからスミッソン商会海外支部に出向いて、新大陸のコーネリアに連絡をとってもらう事になっている。


コーネリアがハワードとの約束で自由に転移できないのはグレイス王国内。

外国へ出れば、コーネリアに転移で迎えに来てもらえる。

何ヶ月もかかって新大陸へ向かう覚悟だったので少し拍子抜けした。

だけど嬉しい。


あと、先生はもう先生じゃないので

「アルバス大伯父様」

と呼ぶべきなのだけれど…

長年の習慣は簡単には変えられない。


アルバート先生のほうも

「…母が浄化・浄霊した森を見るのが楽しみです」

と、かなりのマザコン。

(多分、昔から…)


「そう言えば、北部の魔石鉱山って、コーネリアおばあ様が浄化・浄霊したお陰で人間が立ち入れる土地になったんでしたよね?」

と疑問に思っていた事を尋ねると


「ああ…それは…。宵闇の情念アートルム・ランコーレ。漆黒の最上級魔石が採れる採掘場ですね?…北部の魔石鉱山というのは大昔は墓地や戦場だったらしいです。つまり魔石は魔物からだけではなく、エルフや貴種のような亜人からも魔力持ちの人間からも採れるという事です。

骨すらも土に還った遺跡から墓荒らしのような感じで魔石を採掘してる訳ですから、当然浄化・浄霊は必要になるでしょうね。

ですが、この森の場合は死者の多くが人間で、魔力すらない只人が圧倒的多数だったでしょうから、掘っても魔石は出ないでしょうね」

と、何気なく衝撃の事実を暴露してくれた。


「えっ!…魔石って人から採れるんですか?!」


「魔術師から採れる魔石は貴種から採れる魔石よりもグレードが高いらしいですよ…」


「…魔石狙いで殺される魔術師とか居たりするんでしょうか?」


「居るには居るでしょうが、そう多くはない筈です。貴族は皆魔力持ちですからね。殺されて魔石を搾取されるなんて嫌でしょうから、そういう情報は当然規制します」


「…でも、考えてみれば貴族達が魔石目当てで殺される社会になれば、吸血鬼が血を狙われて殺されてきた不条理に対しても多少は感情移入してくれるようになるのかも知れません」


「…そういう事を言う子に育てた覚えはありませんよ」


「スミマセン。でも、悔しさとか恨みを誰とも共有できずに、本音を言うだけで『執念深い』とか思われる社会って被害者への寄り添いが無い社会だなって思います」


「『被害者への寄り添い』…。エルフ達が好んで使う言葉でしたよ…」


「『被害者を装う加害者に対して皆で優遇し保障するべき』と言うエルフ思想は『被害者への寄り添い』というより、『御都合主義狂人達の餌食になれ』という人間側への被搾取推奨になりますね。

ですがエルフ達は多分本気で自分達を被害者で、延々賠償要求できる債権者だと思っていたんだろうなって事だけは、分かる気がします」


「そうでしょうね。彼らは本気で自分達を社会的賠償要求債権者だと思い込んでいましたね…」


「…寄生虫って、宿主を蝕み殺して繁殖・繁栄しながら、自分達という存在が宿主側にとって『存在するだけで悪』『そこで生きてるだけで罪』という事実を理解できないからこそ寄生虫であり続けてしまうんだろうな、と思うんです…。

だけど寄生する事でしか生きていけない生き物というのは『必要悪』として社会内で生み出され続けるんじゃないかという気もするんですよ」


「『必要悪』は、これまた悪徳商会やその傘下の犯罪者組織が好んで使う言葉ですね」


「悪徳商会同士が裏部隊を使って凄惨な殺し合いをしてたり、鬼畜な社会操作をしてるのだって『悪い事をして甘い汁を啜る者達が増え過ぎないため』『悪い事をして甘い汁を啜る者達が庶民へ強いる負担が強要範囲を超えないため』だというのも、エルフみたいな淘汰されるべき連中が湧く社会だと思うと、理解できるんです。

グレイス王国のスミッソン商会、ジャクソン商会、ハモンド商会のような三大悪徳商会が『エルフのような鬼畜な世間知らずに大金を持たせたままではこの国が滅ぶ』と危惧して『エルフを牽制する』という点では一致団結して、冒険者達にエルフ狩りを焚き付けてたらしいんです」


「…確かジャクソン商会のジミー・ジャクソンは、中身老人のくせに少年のフリして少女に手を出していた変態エルフでしたね。

エルフのくせにエルフが嫌いで、商売と人間の美少女・美女が大好きという点でも変わり者でしたが、キッチリと元同胞のエルフ達を追い込んでくれてました」


「基本的に見た目の良い女生徒を中心に狙って使い魔を張り付けて覗いてたみたいですね。『死んで欲しい』と本気で思ってましたが、イーリーの潜伏先が分かったのも、彼が目を付けてた市井の美少女が出入りしてる酒場の地下だったとか」


「はい。役には立ってくれてます。ただの変態ではありませんでした」


「…私自身も吸血鬼という被差別者階級に生じた『必要悪』だったのかも知れません。だから私を逆恨みするエルフ達が私を付け狙っていた間は心も真っ黒に染まって憎しみに溢れていました。

けれど『必要悪』という役割が終わってみると、肩の荷がおりて、心も穏やかです」


「それは良かった」


「先生にユーウェインの森の林檎の木を見せてあげます。先生もきっと心が落ち着きますよ」


「ありがとう」


「ほら、そろそろ森が見えてきた」


「そう言えば、ヴィクター様に自作の転移魔法陣を渡したんですね?」


「ええ」


「それに不可視の使い魔も付けて監視してますね?」


「ヴィクター様ご本人のたって願いでしたから」


「そうなんですか?」


「『心変わりしないように見張っていて欲しい』そうですよ」


「…変わり者ですね。セルマさんは変わった人からばかり好かれるようなので実は心配してましたが、ジミー・ジャクソンがただの変態じゃなかったという点で少しは安心してます」


「…私は、ノークスと、この森で住むのを夢見てたんですけどね…」


「………」


「いつか、全てのわだかまりが消えて、またこの国に住みたくなったら、その時はこの森に住みます。…のんびり田舎で理想の隠遁吸血鬼生活を送るのが夢でしたから。たとえ独りでも…」


「…そう言えば、ヴィクター様が以前セルマさんに対して『運命を感じた』と仰った事があるんです。

セルマさんの潜在的記憶を読んでしまって、セルマさんの真名を知ってしまったとかで…そんな事を仰ってました。

…因みに彼の真名は『月桂樹の冠を戴いた』という意味の言葉から派生した名前ですが、セルマさんのほうでは何か感じますか?」


「…『運命』ですか。真名は『運命』を表すものなんでしたね」


「因みに私の真名は『アベル』と言います。父が付けてくれたので、母が自分の愛人のアベル・ブランドンの名前から付けたとかではないです。

『息子』という意味の言葉から派生した名前なんですよね。

だから私は、父が休眠期を終えて北部に戻って来てくれたら新大陸からまたこの国へ戻ってくるつもりです」


「『息子』ですか…」


確かにそうだ。

アルバート先生はマザコンでファザコン。

自分の親が大好きな息子だった。


私の真名は「最後のオルビス男爵」だったローレンスの女性名だ。

『月桂樹の冠を戴いた』という意味の名。

それは「勝者」を暗喩し、ヴィクターという名前も「勝者」に由来する。


(まさかね…)

と思いながら


「…因みに、ヴィクター様の真名って誰が付けたんですか?というか、『ヴィクター』という名前自体どういう由来なんですか?」

と訊くと


先生は

(おや?)

と片眉を上げながら


「表名も真名もうちの祖父が(イアンが)付けているそうですよ。『不条理に負けないように』と、『勝者』を意味する語から派生した『ヴィクター』という名をつけて、真名で更にそれを後押ししているのだと」

と予想通りの答えを返してくれたーー。


(イアンはヴィクターの魂にローレンスを重ねて見立てたのかも知れない…)


ヴィクターはヴィクターで何故かモルガン侯爵城で私に林檎を差し入れしていた。

不思議な縁だ。


(…もしかしたら、未来は、明るい?のか?)

予感めいた希望が感じられてーー



思わず微笑みが漏れた。









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