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挿絵(By みてみん)


学院へは無事に復帰できた。

三、四ヶ月の休学のせいで卒業できないんじゃないかと心配だったが…

そこは王族の依怙贔屓の力が働いてくれて、幾つかの試験と、幾人かの重病人の治療で研修日数の不足は補っていただけた。


最近はシフトに余裕もあるので音楽部の活動すら本当にできている。


ある朝早く

夜明け頃

少女の唄が聞こえた

谷のふもとから

嗚呼、私を裏切らないで

嗚呼、置いて行かないで

何故そんな仕打ちができるの?


竪琴を奏でるのも、歌を歌うのも、余程この肉体のスペック自体が高いのか、今では難なくこなせてしまう。


ウォーレス・モルガンが

「嫌な歌詞の歌だよなぁ」

と率直な感想をくれる。


そうーー

本当に嫌な歌詞だと思う。


見捨てられる女の恨み節…。

何故コーネリアがこの歌を好んで歌っていたのかは謎だ。


だけど

「嫌な歌詞の歌なのに、お前が歌うと祈りのように聞こえる」

とレックスが(本物のジャンが)言った事で、何となくコーネリアの意図が分かった気がした。


好意を持っている相手が歌うと、嫌な歌詞の歌なのに

「祈りのように聞こえる」

のだ。


だから、この歌を歌うと自分に好意的な人が誰なのか分かってしまう…。


私に対してずっと好意的な人と言えばアルバート先生。

彼は大伯父で、私の事を歳の離れた妹感覚で捉えてくれていた。

「モルガン公爵城で悪意的な人達に囲まれて仕事をして魔力量が劇的に増える」

という体験を先生自身が体験していたので

「まぁ、頑張って乗り越えてくれるだろう」

と静観していたらしいが…

度を超えた何人かの使用人は先生の亜空間収納庫に収納されて行方不明になっているらしい…。


ヴィクター・モルガンに姿を使われたマーティー・ブランドンは、やっぱり私に対して好意的だが…

だからといってグレイス王国を捨てて新大陸へ一緒に行こうと思う様子はない。


マーカス王子も同様だ。


ダンカン・モルガンは

「一緒に新大陸へ行こう」

と言うくらいには好意的だが…

私はあの人が王城の女官を何人も口説いていたのを知っている。

基本的に浮気症の男は気持ち悪い。

そういう人からの好意はウザい。


意外なのはヴィクター・モルガンが

「私に対して実は好意的だ」

と分かってしまった事だ…。


ヴィクターからは

「…自分でも好かれてないというか、ぶっちゃけ嫌われてるのは分かってるが、それでもお前がいつか『人は変わるんだ』って理解して、俺の事を見直しても良いと思ってくれた時には、俺を受け入れて欲しい」

とプロポーズのような事を言われたが…

本気にするのはどうかと思う。


何せ吸血鬼の寿命は長い。

人間なら

「死ぬまで伴侶を愛し続ける」

という事が可能だが吸血鬼には無理だ。


長くても数十年

或いは数年

もしくは数ヶ月

酷ければ数日

簡単に愛だの恋だのを撤回する。


「…別に、嫌ってはないですよ?…今は、私は…パパとママに会いたいだけ。また家族で暮らして、この国でエルフ達に脅かされて過ごした日々の辛酸を洗い落としたいだけです。

でも新大陸へ行った後でもグレイス王国へ戻ってくる事はあると思います。いつかきっと…」

と答えると


ヴィクターは

「…そうだろうな。お前が家族に甘えたいヤツだって事は、昔からよく知ってるんだ」

と頷いて


「貴種の人生は長いんだ。だからさ。俺を監視しててくれよ。俺がお前に相応しい男になって、ちゃんとお前だけを想い続けられる誠実な男なのかどうか、俺を試してくれ…」

と言って微笑んだ。


(間近で微笑まれると本当にイケメンなんだよな…)

と不覚にもときめきそうになったが、勿論、そんな事は言わなかった。


考えてみればーー

前世の私はチョロかったと自分でも思う。


子供の頃は男も女もないユニセックスな環境で学校教育を受けるから、自分を女だとか意識した事もなかった。

大人になって女として扱われて

「そうか、自分は女だったな」

と改めて気が付いた感じだった。

男と付き合う事で新たな人生が拓けたかのような錯覚に陥っていた。


多分、異性からのセックスアピールで簡単に墜とされるチョロい人間というのは皆、私と似たような心的経緯を経て、相手の本性などよく見もせずに墜とされるのだと思う。


結婚・子育てで絶望させられて、そのお陰で「女としての人生」には「夢も希望もない」と実感させられた。


今世の私が身持ちの堅い堅物なのは、そうした前世の絶望もせいもあるのだろう。


(トラウマがいっぱいあると恋もろくにできないんだな…)

と思う。


身勝手な逆恨みでこちらを一方的に憎んで攻撃してくるような悪人が、また何処からともなく湧いてきて攻撃してくるのかも知れない。


私の両親を殺した後でイアンを襲撃して返り討ちに遭ったヴァンパイア・ハンター達のような悪党。


子供のジャンを殴る蹴るして半殺しにしてから首を落として血を抜き取った悪党。


私が皆から憎まれるようにと呪物をアチコチに埋めて皆を精神干渉していた悪党。


王都の貧民街で子供達を連れ去って犯罪者へと育成していた悪党。


遺産相続権もないのに遺言状を偽造して遺産を受け取り使い込んだ悪党。


森の所有権を欲して地方領主を殺して成りすました悪党。


婚約者のいる男に暗示をかけて婚約者を裏切らせた悪党。


私とウォーレスの姿でエルマー・グローバーのフリをしていたマーカス王子を半殺しにした悪党。


私とウォーレスとレックスを(本物のジャンを)殺そうとした悪党。


罪人に降りかかる処罰を「差別だ!」と歪曲して、徹底的に最後の最後まで正義を詐称し続けた悪党。


業深い生き物…。

ああいう生き物がいた事がトラウマになっている…。


自分がああいう生き物になるのも嫌だし、またああいう生き物に逆恨みされて付け狙われるのも嫌だ。



そうーー

ゆっくりと、汚れた心を洗い落としたい。


今しばらくの間だけはーー。





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