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「…先生の容姿が本当はコーネリアおばあ様にそっくりだったとしても驚きませんよ。
白という名前から色々事情の予想がつきます。…ハワード様の子供なのに母親に方の血が濃くて白髪だったから、敢えて人間の姿に変えられていたんですね?
スミッソン家もコーネリアおばあ様も北部で嫌われていたから…」
「…ええ、それも事情の一つです。…ですが、それだけではありませんでした。
私には生まれつき空間属性の固有魔術が備わっていた。亜空間に物を収納できるんです。
しかも生き物を入れると3秒後くらいで死んでしまう。対象に触れていなくても対象を認識して『収納』と内心で望むと収納できてしまう。
ある意味でとても危険な能力です。スミッソン家の血を引いた貴種がそんな能力を持って生まれたら危険分子扱いで処分されてもおかしくない」
「空間属性の固有魔術…」
(よく分からないけれど、とても怖いものだという事は分かる…)
「…父は休眠期で不在になる。母には家庭があって、母の夫は嫉妬深い。私は母の父親である祖父イアンの隠し子という位置付けにされました。
イアンが本当は祖父で、自分の両親が始祖なのだという事は、私が閉心術を習得して直ぐに祖父に教えられたので早い時点で知っていましたが、それ以外の事情はずっと知りませんでした。おそらく祖父ですら聞かされていません」
「…イアンおじ様は、本当にコーネリアおばあ様に嫌われてるんですね。事情も話してもらえなかったなんて」
「母が私の容姿のモデルにフェアバンクス家の赤子を選んだのは、祖父への嫌がらせらしいです。
祖父が母と懇意だった者達に嫌がらせしていた事の意趣返しだったとの事です」
「コーネリアおばあ様と懇意だった者達ですか…」
(「愛人」だった人達か…)
考えてみれば、コーネリアの愛人といえば
オズバート・ガードナー
ショーン・フェアバンクス
アベル・ブランドン
クリストファー・フェアバンクス
ユージーン・ブラッドフォード
の5名が裁判騒ぎで明らかになったとの事だが。
5名中2名がフェアバンクス家の男なのだ。
言われてみればかなり露骨な嫌がらせだったのだな、と判る…。
「母が新大陸へ移住する前にコッソリ会いに来てくれた事がありました。その時にも色々話を聞けました。
元々はアルバスという名前は彼女のもので、東部の港町スパークルマスで生まれたそうです」
「…始祖ってすごいですよね。性別まで完璧に変えてしまえるなんて、驚いたでしょう?」
「そうですね。でも一番驚いたのは『出産って大変なのに、よく産もうと思ったな』という点です。
医術の心得があるので何度か出産に立ち合った事はありますが…本当に私だったら女性になれても出産は御免です。拷問同様に絶対体験したくない」
「拷問と比較するんですね…」
「そのくらい大変なんですよ。男は種蒔きするだけなので楽だし、貴種の血を存続させるには男でいた方が楽だと思うんですが…」
「…女でいた方が楽な事も多いと思いますよ」
「そうでしょうか?」
「私は前々から北部吸血鬼の皆様がエルフに対して処罰が甘い気がしてたんですけど…。それに関しては『認識のズレ』があると思ってたんです」
「『認識のズレ』ですか…」
「私は女だからでしょうが…エルフが自分達をマイノリティーだの弱者だのと位置付けて吸血鬼を差別しながら、自分達を被差別者だと詐称する事に対して強烈な違和感を感じてたんです。
何ていうか…。北部吸血鬼は皆、自分を『貴種』と認識していて、位置付けがあくまでも強者だからか、エルフ達に狩猟対象扱いで差別されてるのに、『自分達は差別されてるんだ』という自覚が無いように見えました。
差別されてる側が差別されてる自覚が無いというのは、差別加害者側にとって都合が良いんですよ。
エルフ達は北部吸血鬼側のそういった心理戦での鈍さを巧妙に利用して吸血鬼への偏見を人間達に植え付けて回っていたように、私には思えるんですよね」
「確かに、吸血鬼を貴種と呼ぶ価値観の中では貴種が差別を受けるなど想定の範囲外の事態、という事になって、現実認識に若干フィルターがかかる感じはしますね」
「一方で私の側には自分を尊いとか強いとか思う自尊心がありません。だからエルフ達に狩猟対象扱いで差別されてるという事に関して痛切に『被差別者の自覚』が生じていました。
エルフ達が加害者のくせに被害者を詐称して、償え償えとばかりに社会内での犯罪アドバンテージの確保を人間達に許容させていた事態の異常性にも強烈な違和感を感じていました。
自尊心の高い人達には、多分、エルフのような『知性を有したまま内面が魔物化した生き物』の本当の醜悪さが分からないんだと思います」
「知性を有したまま内面が魔物化した生き物、ですか…」
「エルフのような『マジョリティー待遇で不自由なく暮らしても気持ちだけマイノリティー気分を維持して、社会に対して何度でも賠償請求のお代わりをし続ける』ような生き物の卑劣さ卑怯さというのは…
悪魔の誘惑さえ降りかかりもしない本当の被差別状態の孤立無縁を体験した者達からすれば、『トコトン悪魔の誘惑に堕ち切った卑しい穢れた汚物でしかない』んですが、他の人達にはそれが分からない。
私が『エルフ嫌いの執念深い女』みたいに思われるのは心外でしたが、北部吸血鬼の人達や先生から見たら、『エルフの真の穢らわしさを認識できない』のだから仕方なかったのかな?と今では思います」
「随分と、孤独を感じさせてしまったんですね。…本当にすまなく思います」
「ほらね。貴方達男性はそうやって『理解できない事に対してすまなく思う』ような包容力がある。
女は理解できないものや許せないものに対して、『決して歩み寄らずに意地を張って、周りが折れるように弱者ぶる』ような、特権が与えられる場合もあるんです」
「歩み寄りをしない特権、ですか…」
「勿論、限度はあります。エルフがノブレスオブリージュを理解できずノブレスオブリージュの実践を放棄した生き物だった根底には…そうした『女特有の歩み寄りをしない特権』が自分達にあるかのように錯覚して、尚且つ限度をわきまえなかったという面があると思います。
要は、私には、エルフ達の外道な魂と似たところがあって、その分、自尊心の高い貴種の皆様よりも楽をしてる部分があるんです」
「…エルフとは全然似てませんよ。セルマさんは」
「今はそうです。ですが新大陸へ移住して、素朴な現地人達の文化を淘汰して影響力を持つようになると、どんどんエルフのような狂って倒錯して無駄に複雑化した強欲な精神性へと引きずられるように悪魔の誘惑が降りかかってくる気がします」
「…寄生侵略者が現地人の抵抗に対して『差別された!』とか被害者意識を持ち、それを報復心へとすり替えて『現地人への虐待を正当化しようとする』ようでは人として失格ですよね。
エルフ達の魂がちゃんと食肉用家畜へ定着して転生し続けてくれると良いんですが…」
「…寄生搾取者が寄生状態の卑怯さを客観的に事実指摘されて『悪しき生き方を改めよ』と警告を受ける時というのは、運命の分かれ道なのでしょうね。
改心せずに『差別するな!』と弱者に擬態したまま指摘者を攻撃する事で、『環境による誘導で無自覚に罪を犯していた』情状酌量状態が終わり、『罪業確定の落とし穴』へと自ら嵌っていくのでしょうに…。そういう煉獄へ盲目的に堕ちていく者達が多過ぎました…」
「…エルフのような生き物は反面教師なのだと思いますよ」
「そうかも知れません…」
私が反面教師という言葉を噛み締めると
アルバート先生がーーアルバス大伯父様がーー微笑んでくれたので、私も思わずつられて笑顔になってしまったのだった…。




