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王城に引きこもり状態の私に対して
「エルフが引き起こしている巷での騒ぎ」
を教えてくれたのはアルバート先生だった。
マーカス王子もダンカンも
「他のヤツに聞け」
と言って詳しい事は何も教えてくれなかった。
だけどそういう対応をされても仕方なかったのかも知れない…。
そのくらい、私は城外で起きていた騒動に対して頭にきた。
思わず八つ当たりで怒鳴り散らしていたかも知れない。
(それにしても酷い…)
アルバート先生が
「…実は使い魔から『監視の魔法陣』へ転送される情報は保存できるんです。ですが保存容量は限られていますし、保存できる回数も一回分だけ。
なので保存したい情報は厳選しなければならない。そういう事もあって、『監視の魔法陣』を複数用意しなければなりませんでした」
と言って、保存画像の一つを見せてくれたのだが…
その動画の内容が本当に酷かった…。
イーリーが映っていた。
王立学院時代の容姿に変身し続けていた。
自分もエルフのくせに
「自分はエルフではなく差別をやめさせたい善意の第三者だ」
というフリをして演説をしていた。
魔眼で魔力回路を確認したところ
(ああ…本当にイーリーだ。生きてたんだ…)
と分かった…。
古くから、それこそグレイス王国建国以前からグレイス島に住んでいる吸血鬼を魔物扱いし続けた邪まな人種。グレイス王国に寄生するエルフ。
一方的殺戮と血の搾取を
「魔物討伐、魔物素材採取」
と言い張り、延々吸血鬼を差別しておきながら…
自分達の犯罪が明らかになって当然下るべき社会的制裁が下れば
「差別だ!ホロコーストだ!許されない!こんな非道を許してはならない!」
だのと人道主義ぶりっ子で騒ぎ立てる…。
そんな気持ちの悪い生き方を貫いている気持ちの悪い女の姿を久しぶりに見て、心底から
「死んでてくれれば良かったのに…」
と残念に思った。
映像の中のイーリーは凛々しく声をあげている。
「ーーエルフの方々が変身術を使って人間のフリをして暮らしていたのは、それこそ吸血鬼のような『人のフリをした魔物』がこの国には巣食っていて、エルフの方々は常に命を脅かされているからです。
仕方ないのです。エルフの里は幾重にも結界が張られていて、エルフ以外の者は本来なら招かれない限り誰も立ち入れない筈ですが、吸血鬼達はそんな結界すら突破して入ってきてしまうのです」
(エルフの鬼畜さもイーリーの誣告気質も何も知らない人達は思わず聞き入ってしまうよね…)
と大衆の騙されやすさを心配してしまう。
「エルフの里は何度も襲撃を受けて、罪のないエルフの方々は虐殺されてきました。許されない事に、虐殺は幼い子供に対しても行われました。
見境のない殺人鬼である吸血鬼達はエルフの里に招かれて遊びに来ていた人間の子供の首を落として笑いながら去っていきました。
あんな残酷な生き物を野放しにしていてはいけないんです。誰かが立ち向かわなければ!」
(…お前らが人間の子供を攫ってきて身代わりの肉盾として殺させたくせに…)
「けれど吸血鬼の身体能力は異常です。亜人の中で連中に匹敵できるのが戦闘向きの能力を持ったエルフと、人間の魔術師です。
竜騎士が味方になってくれれば頼もしいものの、竜騎士は王家が私物化しています。そして吸血鬼達はこの国の王族・上位貴族の多くを暗示で操っています」
(暗示で操られてた王族・上位貴族が代替わりしてたから、お前らが増長する余地があったのにな…)
「本来であれば、我々庶民を守るべき、この国の既得権益層の方々が吸血鬼達に操られている状態をよしとして現状を変える気がないのだから、誰かが世を正すべく悪を打ち滅ぼさなければならないのです。
それをエルフの皆様が代行してくださっていたのに、皆様は吸血鬼達の陰謀にまんまと乗せられて、悪を牽制し続けてくださっていたエルフの皆様を見捨てるのですか?」
(エルフみたいな呪われるべき生き物に降りかかるべき呪いをなすりつけられないためにも「助けない」「関わらない」のが一番だと思う…)
「このような事態はエルフを標的にした差別です!絶対に引き起こしてならないホロコーストです!許されません!こんな非道を許してはならないのです!
本当に、本当に、この場にいらっしゃる皆様は、そんな事で良いのですか?我々は知性ある人間です。吸血鬼の餌ではありません。
我々には権利があるのです。吸血鬼の都合で捻じ曲げられた嘘に屈する事なく、真実を貫き、真実を生きる権利があります」
(なら、その真実を生きる権利を先ずお前らエルフで実践して、自分らの邪悪さを客観的に認識してみろよ)
「こうしている間にもエルフの方々は吸血鬼に籠絡された王家の名の下に、欲に目が眩んだ人達によって捕らえられています。奴隷にされるために。
吸血鬼は貪欲です。かつてハーフエルフのルーシーが吸血鬼に攫われて吸血鬼の子を孕った事がありましたが、吸血鬼はルーシーを陵辱しただけではなく、彼女を操って、あろう事か『愛している』と思い込ませ、そう言わせていたのです」
(…気持ち悪い。自分から騙されやすい男に近づいて誑かしておいて、自分から求めておいて、求められ奪われたようなフリをするのが、本当に気持ち悪い。エルフもハーフエルフもこの国から消えてなくなれば良いのに)
「生まれた子供は幸いにルーシーの血を濃く継いで、吸血鬼にならずに済みましたが…その少女エルシーは吸血鬼達の住む北部で虐げられて飼育されていました。
彼女も母親同様に美しく成長して、彼女の母親同様に吸血鬼に陵辱されて吸血鬼の子を孕ってしまいました。正式に入籍までされて無理矢理に、吸血鬼の妻にされてしまったエルシーでしたが、穢らわしい男の妻のままで居る事に耐えきれずに、決死の覚悟で北部を脱出して逃げてきてくれました」
(エルシーって子、やっぱり浮気して追い出されたのか…。ほんとそんな性悪に誑かされたジャンとノークスは人を見る目が無い…)
「今は彼女は我々、善意の人間と共に幸せに暮らしていますが…。彼女の人生が生まれてこの方搾取され続けた事実は変わりません。
そしてこうしている間にも捕らえられたエルフの方々は彼女と同じように性的に搾取されている可能性があります。
そのような非道を、本当に、我々は許して良いのでしょうか?人間が邪悪な吸血鬼達の都合に忖度しているこの社会の現状に対して無関心なままで居続ける事が正しいのだと皆様は本当にそうお思いなのでしょうか?
…愛の対義語は憎しみではなく無関心です。人々の無関心は常に攻撃者の利益になることを忘れてはいけません」
(?何を言ってる?…どこまで物の見方が歪んでるんだ………………)
「ーーふざけるなぁぁっっ!!!!!!!!!!!」
と保存画像を見ながら怒鳴った私は悪くないと思う…。
しかし冷静になって見てみると
(…エルフ視点の御都合主義歴史認識・現実認識の歪んだフィルターで見てみると、そうまで事実が歪められてしまうのか…)
と、カルトによる精神汚染の脅威をひしひしと感じた。
そうした脅威の実感は
真実を知る他の人達も同様だったようで…
「…凄いな。『何故エルフはああまで鬼畜な御都合主義を地でいけるんだろうか?』とずっと謎だったんだが、今日はそうした狂気の一端を知る事ができて参考になったよ」
とイーリーに反論する人の声が上がった。
画面が声の主を映し出す。
王国騎士団の読心術師。
西部貴族家ブラックウェル伯爵家のマーティー・ブランドンの姿がそこには在った…。




