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ヴィクターが王城で私に会った事を伝えたからなのだろうが…
翌日からダンカン・モルガンが私の居住区辺りをウロつくようになって遭遇率が上がってしまった。
「ーー全く!俺がエルフの筈がないのに、お前が城のどの辺に住んでて、どの辺で過ごしてるのか、この城の使用人達は誰も何一つ教えてくれなかったんだぜ。酷いだろ?」
と言われても
「…一応、王弟妃という事になってるので、異性の知人が寄り付けないように配慮されるのは普通の事なのでは?」
「…お前が『実はダンカン様とお付き合いしてます』と王弟殿下に言ってくれれば良いだけの事だと思うんだが?」
「いえ、嘘はいけませんよ。王族に嘘つくなんて畏れ多いです」
「『嘘』と言い切るのか…。お前、本当に薄情だな。俺は初対面の時からお前の事を気に入ってて、ずっとお前の味方だったのにな」
(…そう言えば、この人「俺はお前の味方なんだぞ」とか、会う度に言ってたような…)
と多少は思い当たる…。
「…お付き合いはしてませんが、貴重な味方?だと、一応言っておきます」
「うん。今はそれで良い。そのうち『恋人です』と言わせてみせる」
「…前々から不思議だったんですけど、何故ダンカン様はそんなに自信満々なんですか?」
「?言ってる意味が分からない」
「何故、私が貴方を好きになると思い込めるんですか?」
「これまでの経験則?…最初はつれなかった女がこちらの熱意に絆されて心も身体も開いてくれるようになるのは、結構当たり前の事だろ?」
「…そうなんですね」
(こういう場面で「お前が特別だから」とかシレッと言えてしまう籠絡上手な男の方が悪質なんだろうなぁ…)
「それに、こちらが好意を向ければ相手も好意を向け返してくれるものだろう?エルフ以外の人族なら」
「ダンカン様はきっと『好きな相手が自分を好きになってくれない』っていう恋愛につきものの不条理をこれまで体験せずに育って来られたんですね…」
「どういう意味だ?」
「普通は、誰かの事を好きになっても、相手はかなりの確率でこちらを好きじゃないという片思いが当たり前なんですよ」
「…エヴェリー達を見ていたら、お前の言う事も一理あるような気もするが…。そういうのはこちらの接し方一つで変わっていくものだろう?
自分自身の言動が相手の先入観を変えていく事もある。だが多分それには自分自身の内面をハッキリさせる必要があるんだ。
『この女を絶対俺のものにしてやる』と思ったなら、余所見せずに、他の願望との折り合いをウダウダ計算したりせずに、オープンに自分の願望を全面に出して生きれば良いだけだ。
たったそれだけの事をできない男達が格下の女に惚れられてチヤホヤされて、それで満足して、絡め取られてしまう」
「ダンカン様は恋愛経験が豊富なんですね…」
(イヤミですよ?)
「恋愛経験に関しては、そこまで豊富じゃないと思うぞ?…俺が経験豊富なのは主に『自分の願望を素直に全面に出して全力で叶えにかかる』という獲得術の行使だな。
その昔は父上やジイ様に愛されたいと思ってた。お陰で父上からは愛されてると思う。ジイ様の方は…元々身内への愛情が乏しい人の割りには俺に心を開いてくれているといった感じかな?」
「獲得術…」
「獲得術は洗脳術と似たようなものかも知れないな、欲しい物が手に入った状態の自分自身を思い浮かべて、そうした状態の自分自身を演じるんだ。
そうした充足状態のイメージを乗せた魔力を頭頂部の魔力放出口から放出しながらな。
そうする事で周りの者達も俺を嫌っているヤツ以外の者達は皆、協力的になってくれる。
こちらを嫌ってて不幸にしてやりたいと思ってる連中が複数いて、囲い込まれている時には獲得術は裏目に出ることが多いんで、大勢のエルフから逆恨みされて命を狙われてるお前が使うには不向きなんだろうがな」
「そういう術って誰も教えてくれませんでしたよ?」
「…俺は子供の頃にアルバート先生に教わった。といっても正規の授業で習ったんじゃなく、単に『父上に愛されたいけど、どうしたら良いの?』と相談したからなんだけどな」
「アルバート先生って、ダンカン様が子供の頃から大人で、やっぱり家庭教師をしてたんですね」
「そうだな…。あの先生も恋愛経験に乏しい男の1人だと思うぞ。お前の曾祖母さんに当たるコーネリア・スミッソンの肖像画を後生大事に持ってるんだからな…」
「………」
(この人はアルバート先生がコーネリアおばあ様の最初の息子だって知らないのかも知れないな…)
「理想が高過ぎて現実を見れないと、そもそも身近な女に目が向かないんだろうな。浮いた噂1つ聞いたことが無いんだ…」
そう言うダンカンは浮いた噂が立てられているのだろう。
王城には
「お前に会いに来ている」
とか言っているが…
廊下で女官を口説いている場面を見かけてしまった。
(浮気症の男は嫌いだ…)
前世の夫のせいだろう。
浮気する男との接触は
「他人が食事した後の食器を洗わずに、その食器で食事しろと強要されている」
かのような、何とも言えない気持ち悪さを感じるのだ…。
思わず冷たい視線を向けた私の思いなど全く気付いていないかのように…
ダンカンは浮ついた笑顔を浮かべながら
「…女に惚れた事のない男ってのは女を思いやれないものさ。何せ『嫌われる』という心の痛手を知らないから平気で女を振り回せるんだ」
と肩をすくめて、恋愛経験に乏しい男を貶した…。




