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挿絵(By みてみん)


「…それは、お前がコーネリア・スミッソンの曾孫だから言い辛かったんだろうな。…というか、エルフどもがコーネリア・スミッソンの血筋の貴種を殊更逆恨みして殺そうとしてくるから、ハーフヴァンパイアと言えど、彼の血筋は秘匿情報だ」


「秘匿情報なのにヴィクター様は知ってるんだ?」


「読心術師はそういう面で得だよ」


「…『コーネリア・スミッソンの血筋』で『ハーフヴァンパイア』ってのが、『アルバート先生の正体』なんですね?それって…」


「ああ。北部始祖と西部始祖の血を受け継いで生まれた筈なのに貴種として生まれつけなかった息子だな。『ハワードの息子達』の中では最も若い。

貴種でこそないが魔術師で『心眼』持ちだ。充分、生き残っていける力はあると思うんだが…。

エルフ達はとにかく連携して動くのが得意なヤツらだから、連中の脅威が無くなるまでは『コーネリア・スミッソンが産んだ、最初の息子』だなんてバレる訳にはいかない人なんだ」


そう言われてーー


(私は、先生に全く信用されてなかったんだな…)

と理解してしまった…。


ヴィクター・モルガンは私に同情したという事なのか…

「…お前みたいな閉心術を使えない落ちこぼれに対して色々情報規制するのは仕方ない事だから、変に疎外感を感じる必要はない」

と、慰めてるのか貶してるのか分からない言い草をした。


「…私が情報漏洩源になってしまうから、色々教えられないと言いたいんですね?それならなんで今、ヴィクター様は私にアルバート先生の血筋を教えたんですか」


「この国ではエルフの脅威が大幅に削がれている最中だし、お前もアルバート先生も、そのうち新大陸へ行くつもりでいると知ってるからだ」


「アンタ、そんな事まで読んじゃうの?サイテー…」


「アンタ呼ばわりか…」


「プライバシーの侵害って言葉を知らない人はこれだから」


「お前、本当に自分勝手なヤツだな…。俺はダンカンの趣味の悪さにはこれまでも呆れる事があったが、今回ばかりは本気で呆れた」


「なんでここでダンカン様の名前が出てくるんですか?」


「…お前、まさかとは思うが…。自分がアイツに口説かれてる事を理解できていないのか?」


「理解できているとは思いますが…」


「…アイツは読心術こそ使えないが、お前の父親同様に相手のその時の感情や、嘘をついてるかどうかに関しては感じ取れるヤツだ。

だからお前が俺達を逆恨みしてて嫌ってるって事をちゃんと理解できてる筈なんだが…。

なのに、お前が良いんだとよ。お前がガキの頃から『あれは俺のための女だ』って御託を並べてきてて、どうやら本気でお前を嫁にしたいらしい」


「そんな風に思われても困りますよ」


「だよな?お前みたいな執念深い女が一旦逆恨みした相手に絆される事は無いだろうから、俺も『あの女だけは諦めろ』って言ってやってるんだが、聞く耳を持たない」


「ええぇぇ〜…」


「…本当にな。お前は執念深いよな。何年経っても、一度嫌った相手に対して『少しは見直そう』だなんて思いもしない。

…だがな、誰だって変わっていくんだ。特に内面なんて『何故、自分は好きな相手に好かれないのか?』と自問自答すればするほど変わる。

そういう意味では俺達もここ数年で大きく変わってしまったなと自分でも思う。

結局、男ってのは、特に恋愛経験に乏しい男はバカだから、自分の中の感情がどう育っていくのかを予想する事さえ出来ない。

将来的に大事な相手になるかも知れない相手に対して平気でどうでもいいかのように扱えてしまう。

そして後なって後悔するんだが、相手が何年経ってもこちらの変化を認めずに嫌い続けるような執念深い女だったら、全部手遅れなんだ…」


「…私は多分、身内以外の人が親切にしてくれても『何か裏があるに違いない』とか『どうせすぐに飽きるんだ』とか思ってしまうので、どうしても好意に好意を返す事ができないんです。

前世の記憶がある事で魔術師はその分、トラウマも抱えていて、扱い辛い生き物なんだと思います…」


流石に自分が他人と絆を通わせるのに難ありな性質なのだという事は理解できている。


「…ノークスに対しては心を開いてただろ?」


「あの人、身内との連絡用の鳩を私との連絡用に飛ばしてきたんです。あの人の中では私も身内に数えられてるんだって感じて、少し警戒心がほぐれたんだなって今では思います」


「そんな事でいいのか?」


「何が?」


「…いや、いい。今、一つ悟った。お前のようなヤツに対しては『女扱い』するよりは『妹扱い』する方が好かれそうだって判った」


「そんなのが『悟り』?」


「女の性質に応じたアプローチが必要だ、という悟りは長い人生で絶対役に立つさ」


そう宣うヴィクターは不思議なくらい清々しい笑顔を浮かべていた。


「そう言えば、お前、林檎は好きだったか?」


「何故、急に林檎?」


「恩に着せるために言うが…。俺はお前の栄養に配慮して、たまに差し入れで林檎をプレゼントしていたんだ。気が利くだろ?」


「…そうやって『恩に着せる』とか言われなきゃ、妖精さんに差し入れしてもらえたという事にできた良い思い出だったのに…」


「…不思議とお前の顔を初めて見た時に妙に懐かしい気がして、林檎の木のイメージが見えたんだ。お前の記憶を読んでのものじゃなくて、俺自身の中から来るイメージで」


「私の顔から連想したんですか?」


「自分でも不思議だなぁって思った。だけどお前に興味を持って、お前を読心するようになって『コイツの腹の中はエルフへの復讐心でいっぱいなんだなぁ』って分かって、それでお前を可哀想と思うと同時に甘やかすべきじゃないと思ったんだ」


「…そうなんですね」


「林檎の中に巣食うバグは、林檎が齧られるなり、割れて中身が見えるまで、その存在を知られないものだ。

お前と出会った頃くらいから、他人の心を読む時には、そんな感じで『中に蟲が巣食ってるかも知れない』と身構えるようになったな…」


「…林檎ですか。…そう言えば、野生化した林檎園って、やっぱり林檎の中身は蟲だらけなんでしょうか?」

思わずユーウェインの森の中の集落跡を連想した。


「…その可能性も高いが、蟲も毒が無いものなら貴重な動物性タンパク源だ。度数の高い酒に果実ごと漬け込めば栄養価の高い果実酒の出来上がりなんじゃないのか?」


「果実酒って、そういう飲み物なんでしたっけ?」


「さぁ?」

ヴィクターの笑顔を見て、思わず吹き出してしまった…。



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